常磐津「三つ面子守(みつめんこもり)」歌詞と解説

常磐津「三つ面子守(みつめんこもり)」歌詞と解説

子守の少女が、「おかめ」「えびす」「ひょっとこ」のお面(三つ面)を使って赤ん坊をあやす、というストーリーです。

子守に奮闘する少女、おかめとえびすの痴話ゲンカ、ひょっとこの舞の演じ分けが楽しく、また常磐津のセリフもあり芝居のようで、日本舞踊を始めてみる人にも親しみやすく人気のある一曲です。

同じ子守が出てくる演目に清元「子守」があります。

清元「子守」歌詞と解説

この「子守」に女形の名門・瀬川家が「三つ面」の趣向を取り入れて誕生したのが「三つ面子守」です。

常磐津「三つ面子守(みつめんこもり)」解説

場所は神社の境内。祭礼のお土産で買った、お面のついた笹の枝を持った子守の少女が登場します。

子守歌、田舎の臼引唄、手毬の数え唄遊びで赤ん坊の気を引きます。続いて、笹枝についたお面で即興芝居。

色男・恵比寿がおかめに会いに来ますが、おかめはよそに嫁に行くと言い出します。おれをさしおいて嫁入りなんて!と怒る恵比寿とおかめの痴話ゲンカに、拍子よく、手拭をかぶったひょっとこが割って入ってきます。

ひとしきり踊った後は、子守の仕事をしているとはいえ、まだまだ遊び盛りの少女、鬼ごっこ(鬼わたし)やかくれんぼをする遊び仲間のところへ泣く子を抱えて走っていきます。

江戸時代の子守の仕事

江戸時代は赤ちゃんをあやす「子守」という仕事がありました。子守に従事したのは地方から出稼ぎに来た10歳前後の少女が多かったそうです。

江戸時代、農村地方では、子供が多すぎて養えない、あるいは収入を補うために、子を都市部へ出稼ぎにやる、ということが行われてきました。ゆえに、子守の少女たちは貧しい家の出身が多く、時にしいたげられる辛い仕事だったようですが、「三つ面子守」の少女のように、仕事に耐えながらも、たくましく遊び、生きていました。

常磐津「三つ面子守」では、登場シーンで走ってきた少女は転んでしまいます。清元「子守」でも、少女はおつかいで買った油揚げを、とんびにさらわれ、走って追いかけるうちに転ぶ、というシーンから始まります。

「おっちょこちょいな女の子」「ほおっておけない子供」というイメージが浮かびますが、小さいながらも一生懸命仕事をしていた子守の少女たちを見守る、大人たちの温かい視線が生んだ演出だったのかもしれませんね。

常磐津「三つ面子守」の衣裳

子守の衣裳で目を引くのは、黄色のねんねこ半纏と、緑色の着付けです。

黄色のねんねこ半纏は、鮮やかな黄色が特徴の「黄八丈」という布でできています。八丈島のものが特に有名ですが、全国的に分布するコブナグサという雑草で染めらる染物です。

着付の「おもちゃ模様(おもちゃ尽くし)」は子供らしい柄です。でんでん太鼓、小鳥、羽根、打ち出の小槌、手毬、はりこの犬や凧、羽子板などかわいい子供の玩具が散りばめられています。

作品情報

作曲者 名見崎徳治
作詞者 津打治兵衛
本名題 菊蝶東籬妓(はなにちようまがきのうかれめ)
初演情報 初演年月:文政十二年(1829年)9月
役者:5世・瀬川菊之丞
劇場:河原崎座
大道具 正面水屋の切り出し、上下に杉並木、奥に石玉垣を並べる。神社の境内。
小道具 笹の枝に小面付、抱子、赤緒草履、お面(おかめ・ひょっとこ・えびす)、笹の枝(えびす仕様)、扇子(天地金)、御幣(ごへい)、まり(差金)、神楽鈴
かつら 蝶々まげ、晒の鉢巻き
衣裳 半纏 黄八丈 黒襟付き
着付 ひわ色地におもちゃ模様黒襟付き
襦袢 とき縮緬襟、赤板締の丸
帯 赤板締
小裂 さらし手拭、赤板締おぶい紐、赤板締けだし、とき色くけ紐
髪型 蝶々まげ、晒の鉢巻き

立方:藤間美都也(ふじまみつや)

常磐津「三つ面子守(みつめんこもり)」歌詞

あいたしこ

あいたしころんで膝がしら  ちちちっともそっとも 大事ない

泣くなよい子じゃ こんな物やろな でんでん太鼓に 子守唄

 

ねんねこせねんねこせ ねんねが守りはどこへ行た

山を越えて 里へ行た

都おぼえて 世の中みれば 船で三味弾くお女(おじょ)たちに

負けず唄うた 臼ひきうたも しおらしや

守りのかたてに道草や

 

お猿が守りは きげんそこねて なんなん奈良の 匂い桜や 八重桜

てまり桜の一イ二ウ三イ(ひいふうみい)

よしや吉原いつも賑うむつまし月の もん日もん日を数え数えて 七ツ馴染の茶屋船宿へ

送る初ふみ禿まねいで 八ツやり手の日顔を忍ぶ

 

(間夫にてくだの引け四つ過ぎて じれてまつ夜の 鐘は九ツ

とおの眠りのふけておさまる床の内

それがほんにじつじゃエ 十ヲ百かした千そうせん)

 

ゆぶりすかして とと見しょござれ

己(うら)や乳(ち)はないこれ見やしゃれな

 

【おかめ】

やんもしろやのおかめがまねく 神楽月(かぐらづき)とてきのうも辻で舞(も)うてみせたる月の宴

【えびす】

おかめ坊 どうでごぜえす

おめでたい釣る酒(ささ)の酔 機嫌上戸の福の神

エエ罷出(まかりい)でたる者は恵比須三郎と申す色男にて候ッサ

【おかめ】

オヤお恵比須さんお久しいね お前のお出(いで)をくびを長く 短くして待っていたよ

おかめおかめと沢山そうに いうておくれな まだ年ゃ若いな

そしておききよ あのわたしゃアね おっかアさんがアネ

お嫁入りにやるとッサ 恥ずかしいね

【えびす】

ヤアなんだ おれをおいて嫁入りだ おきゃアがれ 豆入りがきいて呆れらア

この七おたふくめ 下にいろいろ 下に失しァがれ

【おかめ】

これさ およしよ おはなしよ

エゝ 置かしゃんせ なんじゃいなァ

 

(七福神のその中で いとしらしいと思うたが とどいていつも新(にい)まくら

たがいに胸をうちあけて 気も合ぼれの好いたどし

そもや二人がなかなかは 心でこがれ待ちあかし かわるまいぞと夕しでの神々さんへ願うたも

おまえ故ではないかいな)

 

それにそんなとしがみつき

互いに悋気(りんき)のその中へ ひょんな顔してひょっくりと ひょっとこ舞の拍子よく

 

【ひょっとこ】

余所の恋路が羨ましうて あのや姉さにちょと惚れて 文のかわりに 鍬やった 惚れたとそれではんじ物

人目忍んで どうろく神へ はだし参りの 御利生(ごりしょう)ならばどうぞ結ばる縁の綱しめろやれ 締めたら合点じゃないかいな 面白や

 

サアこれからは横丁で かくれん坊や 鬼わたし

泣く子をむりに引っ抱え 誰(た)がよ誰がよと走り行く

参考図書
森治市朗著「日本舞踊曲覧集」 創思社 1965
村尚也著「踊るヒント見るヒント」 演劇出版社 1995
別冊演劇界「日本舞踊曲集成」 演劇出版社 2004

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