「社会問題解決ありき」で伝統芸能を活用、実践できるか|ふれあい寺子屋と車いす舞踊を例に
この記事は、邦楽普及に携わる小川真実(まさちか)さん、民謡未来ネットワークの小池梨沙さん、生活と舞踊の梅澤による鼎談の記録を、小川さんが記事にまとめて寄稿してくださったものです。
民謡こども食堂を運営する小池さん、車いす日本舞踊プロジェクトの取り組む梅澤、それぞれの活動紹介と、それらを含めた3人の活動を、伝統芸能の未来へどうつなげていきたいかを深堀りします。
小池梨沙さん
徳島生まれ大阪育ち|小2から日本民謡(唄と三味線)の手ほどきを受けるがグレて上京|東日本大震災の慰問活動で民謡の尊さに気付かされ、名取&民謡協会公認教師に|日本民謡を未来に伝える活動|本業は数少ない障害者雇用の専門家
小川真実さん
『TOKYO津軽三味線Night!』vol.1~vol.2企画、開催(東京新橋)
一社)日本和楽器普及協会 協力
一社)『和軸』(wagic) 正会員/コラボレーター
某、業界誌編集スタッフ(詳細プロフィール)
梅澤暁
一橋大学 社会学部卒業後、一部上場のメーカーに入社。ベンチャー企業で営業や総務部長、新規事業立ち上げ等を経験したのち、2018年から日本舞踊メディア「俺の日本舞踊」を開設、教室支援事業をスタート。2021年に独立、2023年に法人化。日本舞踊教室や流派の支援事業を行っている。
実は共通の悩みを抱える伝統芸能業界
まず、先にお伝えしておくと私(小川さん)はもともと、和楽器や人本伝統芸能の業界とは縁がなく、日本の歴史の講習やセミナーなどの運営を仕事の一部としていました。
学校では習ってこなかった、もっと深い日本の歴史(ルーツ)を知ることで、世界と比べても平和な日本で今の若者が自ら命を断つ事も少なくなるんだろうな、と考えていました。
しかし現実は次世代へ日本の素晴らしさや歴史を伝える事に難儀していました。
そんななか、ある打ち合わせで訪れた会社に皮が破れた三味線が置いてあり、その理由を聞いて、1年間、その会社と契約し一緒に仕事をする事になりました。
そして和楽器について深掘りしていくと、業界全体の構造や後継者問題を知り、奥深さを知ることになりました。本来なら仕事の流れの1つとして、商品のリサーチ目的でたまたま、手に取っただけの三味線ですが、すっかり和楽器の魅力に取り憑かれてしまい、その後、本格的に津軽三味線を稽古することになるとは思ってもみませんでした。しかしその直後にあの、「パンデミック」が襲います。
イベントや仕事が全てキャンセルになり、活動がストップ。
高齢の指導者は引退した、と方々から聞き、門外不出と聞いていた内容が巣篭もり需要で拡がった無料動画配信で世界中に・・・。
その時に、伝統芸能業界の持続的な収益モデルの脆さを肌で感じました。
「今までのやり方では、本当に業界全体が危機的な状況になるかもしれない」
それが、日本伝統芸能業界に深く入り込むキッカケにもなりました。
そんな中で出会ったのが、今回対談を快諾してくれた「株式会社 生活と舞踊」の梅澤暁さんと「民謡未来ネットワーク」の小池梨沙さんでした。
梅澤さんは舞踊を、小池さんは、幼少期より日本民謡を習い始め、民謡協会の公認教師でもあります。日本舞踊にも和楽器は必要ですし、和楽器は、神事の時の舞、唄などの伴奏楽器ですので親和性があるにも関わらず、お互いの業界のことをよく知らないのが第三者的な視点から不思議に思いました。
私は「日本伝統芸能」と付けば、歌舞伎から楽器演奏まで、ガッツリと繋がっている業界だと思っていたのです。
そして、ジャンルを超えても、抱えている問題はお互いに同じなんだと知ることになります。
愛好家が増えるキッカケになれるか?!『社会問題×伝統文化』
ある日本舞踊の師範の方の意見で印象に残った言葉があります。
「本来、日本伝統文化って日本人の日常だったのに・・」という言葉です。
なるほど、確かに「統べて伝える」と書いて伝統と読みます。
「今」の現状を取りまとめ後世へ伝えるのが伝統なのではないかと思いました。
となると、後世へ伝える内容として「こうでなければ着物とは言えない」「演奏はこうじゃなきゃダメ」というのは多様性が叫ばれる現代に於いて、ある意味、ナンセンスなんじゃないかと、思い始めました。(やらなければならない理由がある場合は別として)
昔よりも情報量や趣味、誘惑が多い現代から後世へ残すには、興味がない人でも惹きつけられるような「理由」が必要なのではないでしょうか?
伝統芸能の継承、今までとは違うもう一つの視点
「株式会社 生活と舞踊」の梅澤暁さんと「民謡未来ネットワーク」の小池梨沙さん、お二人のアプローチはこれからの日本伝統芸能業界の在り方について、何かの参考になるのではないか、と感じて今回、対談をさせて頂きました。
この記事を読んでいる方にも何かのヒントになれば幸いです。
梅澤暁さんの『車いす舞踊プロジェクト』とは?
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開会式でのパラダンサー2人の、身体的特徴を最大限に生かし素晴らしいエンターテイメントに昇華させたパフォーマンスに衝撃を受けたのがキッカケとなり、「パラダンス」はジャンルとして確立されているが、その中に日本舞踊はなく、「車いす舞踊」もジャンルとしては確立されていないことに気がついたそうです。
また、主に高齢者福祉施設等で、リハビリや娯楽として日本舞踊が用いられることはあるが、自己表現の手段として日本舞踊が積極的に選ばれる例は極めて少数でした。
日本舞踊に携わる人は、梅澤さんも含め、「すべての人に日本舞踊を楽しんでほしい」と願っています。しかし、「すべての人」に障がい者は含まれていたのか?「日本舞踊は健常者のもの」という無意識の前提があるのでは?という反省の元、「車いす」でも日本舞踊が自己表現の選択肢として選ばれ、芸術性を追求できる世の中であってほしい。(車いす『でもできる』から、車いす『だからこそできる』)
そのために必要なのは? とプロジェクトが始まったそうです。この考え方は、邦楽界にも通じるのではないでしょうか。
小池梨沙さんの『民謡×寺子屋』ふれあい寺子屋とは?
もう一方、小池さんは、減少しつつある都内の民謡酒場の維持存続と民謡文化の伝承のために、昨年より始めた「民謡こども食堂」の運営を通して、子供たちを取り巻く様々な社会課題を目の当たりにしたそうです。
例えば、生活困窮世帯あるいはひとり親家庭などの事情について、ある程度承知をされていたそうですが、そこから弊害が生じている「子どもの体験格差」について、重要なテーマであると感じることができたそうです。
「年収300万円以下の世帯では、3人に1人の子どもが1年を通じて、『学校外の体験活動を何もしていない』という調査結果があり、日本の伝統芸能イコール、『お金がかかる習い事』と認知されている時代においては、生活に余裕のない世帯からすれば、触れてはいけない分野といっても過言ではないはずです。
日本民謡は、日本人のコミュニケーション方法の一つで、日本の日常生活にあって当たり前のものだったのに、現代では特別なものになってしまっています。
これを、日常生活のなかに取り戻すためには、世帯事情を問わず集える場所で、気軽に民謡に触れてもらえる空間を作ることが重要で、そのために子ども食堂との融合は合理的な発案だったと思っています。」
加えて、核家族かつ共働き世帯の増加に伴い、家族以外の大人たちとコミュニケーションを取れる機会が社会の中で減少しています。
その結果、子ども達がなにか悩みを抱えたとき、相談相手となる大人との出会いも減り、悩みを打ち明けられないことによる悲しい事件も散見されはじめました。
そのような時代の流れの中で生じている社会構造の変化に対応する手段として、家でも学校でもない子どもたちの「第三の居場所(サードプレイス)」の必要性が提唱されはじめました。小池さんとその有志たちは、従来の子ども食堂に加えて、日本文化を伝えながら、サードプレイスと位置付けた「ふれあい寺子屋」の立ち上げを決意したそうです。
二人の活動で共通するのは、「伝統芸能の表現ありき」ではなく、「社会問題解決ありき」で伝統芸能を活用、実践しようという視点です。
「卵が先か、鶏が先か・・」の違いかもしれませんが、「アート表現」の視点ではなく、日本の「カルチャー」としての視点なのが面白い取り組みだな、と感じました。
もともと雑談だった話が、かなり面白かった!
(梅澤)一般的に考えて日本舞踊の稽古や舞台のシステムは、「健常者前提」で作られていて、車いすの人を想定していないように思えます。例えば、車いすの人にとって着物を着ることはとてもハードルが高いですが、着脱しやすい二部式の着物は「ちゃんとした着物ではない」という空気がある。舞台である「所作台」は車いすNGの施設が多い。車いすの人でも日本舞踊を気軽に選び、楽しめる社会であってほしいし、表現にも新しいものが生まれるかもしれない。そんな理由からこのプロジェクトを始めたんですよね。
(小川)自分はアプローチ方法として梅澤さんの様な「車いすプロジェクト」というような概念が全くなかったんですよね。
そういえば、邦楽(和楽器)を実践していて、車いす利用者などが舞台に参加しやすいシステム(仕組み)が無いな・・と感じていました。(地域規模では存在するのかもしれませんが)
(小池梨沙さん。以下、小池)障害の有無だけじゃなくて、誰もが興味を持ってやりたいと思ったことに挑戦できる環境が社会の中にあれば良いですね。例えば子ども達が興味をもってやってみたいことがあっても、親が共働きで付き添えないとか、家庭不和だとか貧困という状況が障害になることがあると思います。そこに、世帯だけで解決させようとするのではなくて、地域ぐるみで、親御さんもラクになれるような仕組みを加えれば、ハードルが下がると思うんです。だから、子ども食堂を通して、家庭の食事の準備が一瞬でも軽減されれば、私たちとしては、まず第一段階クリアなんですよね。
「民謡こども食堂」と言っているけど、実は民謡と付けた時点で、民謡に対して興味ある人しか集まらないのではないかというパターンもあると思っていて、新しく新設したふれあい寺子屋でも民謡のカリキュラムはありますが、「民謡教えます!」って、本当は言いたくないんです。言ったら、民謡に興味ないからパスって言われちゃいますよね。「たまたま、民謡もやっていた」ってカタチが理想的なんです。民謡そのものを教えたい訳じゃなくて、民謡のある空間の楽しさを体験して欲しい。多分、楽しいことであれば、子ども達ってなんでも良いんですよ。まず、その環境を作らなきゃ、と思っています。
▲小池さんが手がけたクラウドファンディング
(小川)確かに環境があればね。自分も子供の頃、興味がなくても何気に聴いたり、やっていたりしていたことは、大人になってからも影響しているし、記憶も残っていたりしますよね。今思えば、伝統的な日本の遊びだったな、って。
(小池)なので、今やるべきことは、なんかやりたい好奇心を満たすため、頼れる街や環境が必要で、そんな社会情勢的にも国はわかっていて補助金とかも新しく出来ているわけで・・・。
(小川)補助金といえば、梅澤さんは会社を経営しているからアレですけど、この業界で(行政の補助金制度)知る人って多分、少ない印象じゃないですか?
(梅澤) 文化庁の助成金は、使われる方が多いですね。
(小川)文化庁はいつもチェックしてるかもしれないけど、一般企業が申請する様な補助金を知っている人は少ない印象があるんです。
それを活用すれば、もっと伝統芸能をPRできるステージ(機会)がもっとたくさん出来るのでは?と思っていて・・・。
ただ、それを活用するなら社会問題も絡めたりする必要はありますけど、やっぱそういうのって、これからは表現の世界でも必要じゃないかな、と感じています。お金の流れというか・・世の中の仕組みというか。
くやしいかな、理想はボランティアや協賛、スポンサーで・・なんですけど、国内や世界情勢を考えると、正直、現実的ではない時代とも感じます。
(梅澤)おっしゃる通りだと思います。町の先生も、公演の開催だけではなく、伝統芸能の後継者育成や普及事業なども含めた、文化庁以外の助成金・補助金活用の検討は私も賛成ですね。先生方のニーズとしては、舞台での表現活動のための資金が欲しいという日本舞踊家としては当たり前のものが大半を占めると思いますが、そうすると文化庁の助成金にしか目が行かない。しかし、「事業の拡大やDX化」「事業による社会課題解決」など視野を広げれば、「IT導入補助金」や、「事業再構築補助金」なども活用可能性が十分にある。結果、先生のやりたかった表現活動も加速するのではないかと思います。
(小池)その視点だとその助成金の財源はどこから捻出されているのかな、とか、これを財源にするからには、こういうことを狙っているんだなぁ、ってみえてくるじゃないですか?
(小川)そこの視点は必要になってきますよね、持続性を求めるなら。
(小池)前提条件として、もう伝統に上がっちゃっているものと趣味やファン層の「普及」を前提にしているものと、やんわり分けてもいいんじゃないかなぁって思ってて。
(小川)そう思う!凄く思う!
(小池)伝統と言われる上にあるものは「再現」が重要だと思ってて。今この話は下の方でいいの??(趣味層のこと)
(梅澤)いいですか?
(小川)(趣味層の話で)いいと思うんですけど、実際はごっちゃ混ぜに見えませんか。(プロも素人も)なので、話がスンっと入る人もいれば、「いやいや、そこまでは・・」と思っている人でもほぼ、一緒の内容で稽古や活動している印象を受けます。
(梅澤)小池さんの子ども食堂に関しては、1番の目的は、子ども達の好奇心を満たす場所をつくるとか、一言で言うと、そうことになるんですかね?
(小池)そうですね・・社会や日常の中に民謡があれば良いかな・・って感じですかねぇ・・それこそ、特別なお金を掛けずに。
(小川)それが実現できれは、きっとあとは勝手に拡がっていきますよね・・。
(小池)実際去年1年やって、「何かよくわからないけど、民謡こども食堂って言うのがあるらしい」って、何人か来てくれたんですよね。それはそれで体験の提供ということは果たせたのですが、食事の場としてできることには限界があって、それをご自身で傍受して表現するというところまでは行きつけないことがもったいないなと思ったんですよ。
だから今年は「ふれあい寺子屋」を新設して、体験のスモールステップを作った。
年度末に発表会みたいなのも企画してるんですけども、それに向けて「パフォーマンスが1つ身に付く」、みたいなプロセスを経験させてあげたいな、って思ったんですよ。
(梅澤)子ども食堂の運営自体はどうなってるんですか?
一般的に子ども食堂は100円、200円で食事と居場所が得られる場所ですよね。
要はそれを支えるボランティアや、スポンサー的なもので資金を含めた運営がまわっていると思うんですけど・・・小池さんのところは?
(小池)人員としては「民謡未来ネットワーク」という6人プラス、ボランティアが何人かいるんですけど、私たちは調理は素人なので、専門家に委託していて、一般社団法人ベジモア食育協会の皆様が、季節に応じた行事食やメニューを作ってくれています。場所は、民謡酒場の空き時間をお借りしています。
参加費は、中学生以下無料で、その他、一人300円。参加費ではほとんど採算は取れなくて、墨田区や子ども食堂関連の補助金・助成金から数万円、その他、大半はクラウドファンディングですね。
(梅澤)ありがとうございます。民謡業界、和楽器業界のことを考えると、子ども食堂に来た人たちのどの程度の人がリピート層(愛好家)になるのか、好きになるのか、そのブリッジですよね。
文化庁の伝統文化親子教室事業をやっている知り合いが何人かいて、そこは事業を通じて無料で日本舞踊を体験した人の中から一定割合が教室へ通うっていう流れができています。どうしても、たくさんの人に先生側が(コンテンツを)安く提供すると、持続には助成金依存や、想いだけのボランティア活動になって疲弊してしまう場合があります。先生にも生活があるわけですから、先行投資と捉えて、回収するプロセスも必要で、ソコが見えると、ココまでは安いけど、ココから先で自分にもちゃんと返ってくる、というのが見えるといいですよね。
(小池)民謡こども食堂や寺子屋自体を、「カルチャー教室にしよう!」とか、「マネタイズしよう」みたいなところまでは考えていないです。
まずは、人との触れ合いの中で民謡って言うものを知って、最低限自己表現ができるっていうところまで、一つの目標にしていて、
そこから例えば「大会に出て優勝したい」とか、「もっと高みを目指したい」とか、「先生になりたい」とかって言うのであれば、状況に合わせてお繋ぎすることはできるので。
効果測定的なことを考えると、まだこれから2年目がスタートするところなので、時期尚早ですね。
(小川)業界へのハブ役的な存在ですね。そう考えると、いつも自身で集客して、講演やライブして、って活動している人は、繋がりや認知度の拡大としても、どんどん、こういうグループとタッグを組んでほしいな、と思いました。
老若男女、お互いのファンが行き来して相乗効果も望めそうだし、いいですよね。
業界の活性化にも繋がって「三方よし」になれるんじゃないかと感じます。
-その話題から途中、SNSの「イイね」機能の話に。
お互いのイベント情報は知っていても気を使ってなのか、シャイなのか?SNSでお互いチェックしているけど「イイね」しない傾向があるのは面白いよね、という話で盛り上がりました。
SNSはお互いが「イイね」や「コメント」することで(他にも要素はあるが)拡散力が増すのでPR戦略として考えると「気遣い」や「遠慮」するのはお互いの機会損失ともいえます。(仕事にしている人にとっては)そこから更に「エコシステム」の話に飛躍します。では、続きをどうぞ!
(梅澤)SNSでできる「いいね」や「拡散」で応援しあうことには基本、賛成です。
ちょっと飛躍しますが、同じ業界に関わる、異なる立場の人同士が応援しあう意義を見出すには、自分が大きなエコシステムの一部だと理解する必要があると思うんですよ。
ヨーロッパサッカーのエコシステム(スポーツビジネス)は、日本の経済産業省も参照して目指しているカタチの1つで、参考に紹介します。そこではプロサッカーチームがお金を出して、NPOの地域サッカーサークルを作り、プロチームの関連企業から資金やグッズの提供、行政から補助金や運動施設の提供、地元企業からのスポンサード、地域住民の理解など、様々な支援を受けて運営しています。
それをなぜプロチームがやるのかと言うと、将来のサッカーファンや選手を育てる為です。地元は地元でスポーツを楽しむ健康な若者が増え、若者はサッカーを通じて体験を得るという、win-win-winで成り立つ大きなシステム(仕組み)ができているんですよね。
日本でも、地域活動からプロスポーツビジネスまで巻き込んだ大きなシステムを作りたいというのが経産省の考えのようです。それは、日本伝統芸能でも日本舞踊でも同じかなぁ、と思ってて・・・。
引用:地域×スポーツクラブ産業研究会第1次提言 概要版(経済産業省)2024/7/9確認
そもそも、(愛好家の)母数が大きな時はそんなことを考えなくても、自然にたくさんの人が増えて、愛好者が増えて・・ファンも増えて、なんですけど、全体が縮小して色んな(趣味の)選択肢がある中では、そこまでの道筋を携わる人、みんなが理解して、うまく連携していく重要性が高まっていると思います。
民謡こども食堂も大きなエコシステムの一部と考えると、そこで民謡に興味を持った人がベストなタイミングで教室に案内してもらえるルートが準備されているとか、時折、本物のプロの演奏に触れる機会もある、など、そういうところをみんなが協力してやっていく仕組みみたいのが作れると、もっといいのかな、って思うんですよ。
(小池)プロで活動している方々とも繋がりがありますが、プロはプロで、さらに良いパフォーマンスをするために注力することも大事だと思うので、基本的に子ども食堂の為に協力してください、みたいなことは言わないようにしています。
でも、結構活動を知ってくださっていて、時折、「応援しているよ」と声をかけて下さることがあって、嬉しいです。
寺子屋のカリキュラムでは、年度末に発表会を計画しているので、プロの演奏家のご協力も仰ぎ、子供たちの発表の場とプロの演奏が一度に楽しめる演出も考えています。
(小川)それいいですね!
(小池)そうすれば、(参加者が)自分はこうやってきたけど、もっと違うパフォーマンスを目指せるんだって、多分感じてもらえるから、そういうっていう場を道筋として考えています。
(梅澤)小池さんの実現されようとしている子ども食堂は、歴史的な観点からも原点に還っているな、と感じています。人形町で日本舞踊を教えている先生から聞いた話で、昔(~昭和中期)は学校帰りの子供たちが稽古場に「ワー」って集まって遊んでたりして、たまに先生から「〇〇ちゃーん」なんて呼ばれて、15分くらい稽古して「はい次」、なんて稽古場なのか、託児所なのかよくわからない状態だったみたい。笑。
そこには別に、お金持ちだけじゃなくて、普通の大工さんの子どもとか、普通の家庭の子どもたちがごちゃ混ぜだったそう。これって、子ども食堂と似ているじゃないですか。
その場に「踊り」はあるけど、それが目的じゃなくて、楽しそうに「わちゃわちゃ」しているみたいな。「踊り」が「三味線」だった子もいただろうし、「公園」や「河原」だった子もいただろうし…。
(小池)そういうの目指したいなぁ~。
(小川)そういえば、梅澤さんの勉強会の参加者も言っていたけど、皆、「日本伝統、日本伝統」って言っているなか、語弊があるかもだけど、「伝統」は「後から言えば伝統」なだけで、当時へ戻れば多くは、意外と「日常」にあったことなんだと思います。
踊り然り、民謡然り、楽器演奏然り。「日本伝統」という名の「ブランディング施策」になっちゃって、自らハードルを上げている?感も・・。
なので、お二人の活動を見ていると、一回「日本文化の原点」を振り返りましょう、と。そんな風にも見えるんですよね。
(梅澤)「原点」と言うには、時代も違うし、合っているのか分からないけど、「価値がなんなのか?」と言うことだと思うんですよ。
(小池)もう、時代が変わってきちゃっているじゃない?
働き方とか生き方が変わってきている、価値観が変わってきている中で、どこで折り合いを付けるか、と言うのを、この活動で見出せれるんじゃないかな、と思っているんですよね。
それが、「世の中の人々が幸せに生きていける」という部分に「和文化」というエッセンスが入ってくると双方、良いんじゃないかな、と思っているんですよね。
(小川・梅澤)そう、そう、そう・・・
(小川)そこで、大事なのは時代の価値観の変化も認めて受け入れる意識?かな?
以前、とある津軽三味線の無料ライブで運営スタッフをしていた時に、細棹を背負ったご年配の方から「何をしてらっしゃるの?」と声を掛けられて、「津軽三味線の演奏が始まるのでどうぞ」と案内したら、「え?津軽?私、津軽は結構です」と去っていった・・・。
その時、自分は、津軽三味線を始めたばかりで、テンションもアゲアゲだったのに、残念な気持ちになりましたね。その時はたまたまだと思いますが。
もし、幼少の頃に津軽三味線を聴いていたら、印象は違っていた?!
(梅澤)そこは説明が必要なところですよね・・・。僕も「和文化が好きです」って人によく会いますけど、和文化っていっぱいあるし、舞踊は好きだけど、民謡は好きじゃない、って人もいるし。
(小池)価値観を形成するなかで、津軽三味線がなかっただけじゃないですか。
でも、多分その人が幼少の頃に心に残るような津軽三味線を聴いていたら、興味は持ったと思う。だから、今の子どもたちにも、三味線の音色や民謡やエッセンスを入れ込むことが必要なんですよ。
(小川)今、業界全体で後継者が足りないって言っているけど、「内輪」視点なのかな、って。前段の話に戻ると、せっかく和楽器に興味を持ってイベント会場に来たのに、ギスギスをしたやりとりを見たら、そこにいた観客はこの世界に飛び込むだろうか・・そう思ってしまうんですよね。
アーティストでもあり、観客が居ればサービス業でもあるわけで・・。
(梅澤)どうしても人材の流動性が低いから毎回、同じ人と仕事をして「内輪」になりがちですよね。さらに言えば、マーケットが縮小しているので余計に守りに入るというか。でも小池さんの話を聞くと、子ども食堂は増えているから、そういったところからマーケットやファンを拡げる視点とか、積極的に他の業界に接触して仕事を作っていくことが重要だと思います。ただリスクもある中、動ける人は限られるので、私たちが小さな成功事例を作って横展開していく、みたいな順番なのかな、と思います。
(小川)ちょっと時間も、迫ってきましたが・・
これから、どうしていきたいか、とか、業界全体的にもどうしたら、良くなりそうか、因みに僕は、異業種は勿論、ジャンル違いの伝統芸能や工芸も、交流、情報をシェアし合って、お互いやっていく必要があるんじゃないかな、って思っています。内輪だけで何とかする、というのは限界じゃないかと。
本当に伝統を残したいと考えるのであれば・・・。
(梅澤)具体的に何か、手を取り合って出来そうなことはてあります?
例えば、業界横断的な組合を作るとか、ITシステムを共同で作って、教室管理を
できる仕組みを作るとか・・・。
(小川)梅澤さんに前にも話したかも、ですが、この業界「商工会議所」みたいのがないな・・と思ってて。例えば「協会」はたくさんあるけどカテゴリーを超えた中心的な組織が無いな・・と。
一同:うーん・・・(難しい。笑)
(小池)因みに「民謡未来ネットワーク」っていうのは子ども食堂やるために組織として作りましたけれども、本来はそういった子ども達に日本の文化とか伝えていこうって言う活動している志のある人がいっぱいいるんですよ。その人たちとの繋がりも構築したくて、「ネットワーク」を名前に付けたんです。
だから他のメンバーもそれぞれのポジションで、民謡を横軸に普及することもやってるし、未来と言う先に向かって普及活動している人たちもいるし、ある意味「形に囚われない組合」と言えるのかも。
(小川)梅澤さんは「車いすプロジェクト」がひと段落したところで、次の予定は?
(梅澤)ここ数年テーマにしている「担い手の教育」に力を入れたいです。数名の有志と1年前から開催している自主研究会もその一環で、日本舞踊の先生は舞踊の技術を磨くことに対して、すごく時間をかけているけれど、それをどうやって知ってもらうか、どう仕事にしていくか、後継者に技術をどう伝えるか、などを学べる仕組みが全然ないので、そこを作って中から変えていく方向性で取り組んでいきます。
(小川)時間も推してるんでアレなんですけど、どっちともお二人とも
プレーヤーじゃないですか?
(小池)いやいや、私はプレーヤーじゃないです!
(小川)唄ったり、弾いたりしてるじゃないですか。(笑)
(梅澤)私も趣味レベルです(笑)
(小川)でも、そこが結構、重要だと思いました。プレーする事にだけに囚われないで、プレーする為にはどうしたら良いのか?プレーをし続ける為にはどうすれば良いのか?というのがあるじゃないですか。そこがポイントかなって思って。
(小池)そこには、あまり拘ってない。笑
やらざるを得ない状況になってるだけで・・・。
もっと、上手い人がやってくれればいいな・・なかなかね。笑
(梅澤)まぁそこは役割分担ですよね。(笑)
よく歌舞伎を例に出すんですけど、歌舞伎の技術は「家」が継承して、松竹がプロモーションするじゃないですか、チームでやってるわけですね。
でも、ほとんどの伝統芸能文化がそうじゃなくて、プロモーション機能も無く、街の先生が自分なりに考えてやっているけど、個別で独立しているので、成功事例の共有も、ノウハウの蓄積・継承もできずに、行き詰まり感がある…というのが僕の見立てなんですね。だからといって、松竹のような組織が、ボンっと出るのかというと、まぁ、すぐには難しい。そこで私は担い手、一人一人の教育によって解決できないか、と考えています。それは、流派がやるべきこと・・という考え方もおそらくあるけど、流派に強制力もあるわけではないですし、課題はありますよね・・・。
(小川)それに、流派内だけでマーケティング教育が普及しても微妙ですもんね・・・。
(梅澤)個人の先生がやれないか、といったら、それはできると思うんですよ。一般的な街中の「ダンス教室」や「習い事教室」って、ほとんど個人が工夫してやっているわけですから。個人で解決できる問題と、できない問題を考えると、集客は個人で解決ができるはずなんです。ただ、後継者問題とか業界全体の課題はグループで取り組まないとダメかな・・と思うんです。
(小川)そうですね・・・もう、時間なので、対談のまとめとしては、今迄のやり方だけで何とかしようとするのでなく、お二人のような社会問題も絡めた視点でアプローチを変えることで、まだまだ、後継者問題や業界人口拡大に対する問題解決ができる可能性はあるんじゃないかと感じた対談でした。
ありがとうございました。
-対談を振り返って・・・
「芸事」の後継者育成というと「所作」や「技術」を稽古や実践を通して後世に伝える、または議論するというのが、一般的になるのかもしれませんが、ちょっとだけ視点を変えて、「社会貢献」「家庭問題」「境遇・環境」などから、伝統芸能を表現、持続化していく、という視点でお二人のお話を伺ってみました。
今回の対談をまとめると・・・1点目は、子供たちの好奇心を満たす場所として、子供食堂や寺子屋のような場所を設け、そこで自然と日本の伝統文化に触れることができる環境があったなら、大人になった思った時にふと、思い出したりして、将来、家族と触れる機会も出てくるんだろうな・・と感じました。
また、ハンデはある方や高齢者にも参加しやすい環境を整備するため、しきたりに固まらず、「二部式の着物」や「車いす」でもラクに着用できる衣装などを検討する必要性もあるのではないか、と感じました。
他にも「インバウンド需要」の可能性もあると思います。
伝統継承という「目的」は守りつつも、伝えるための「手段」は時代に合わせて柔軟に対応すれば、日本の伝統芸能の未来も明るいと感じた対談でした。
読者の方にはどの様に感じたでしょうか。
取材・執筆 小川真実
1973年生まれ
地元の路線バスの運転士として働きながら、
波乗りを30年間続け、自然の法則を体験。
その後、合氣道と出会い、
7年間の稽古を通じて確信を得る。
2015年
セールスコピーライターとして独立起業。
商談中に「日本の建国理念」を問われ、
その重要性を痛感。
日本の歴史と文化を見直し、
勉強会や研修セミナーの運営をサポートする。
2019年
クライアントの会社で三味線に出会い、
「共感力なら世界共通語の音楽だ」と感じる。
簡易三味線「シャミコ」のプロジェクトに携わるが、
パンデミックの影響で一旦中断。
2020年
クライアントの商品開発の一環として
社内の津軽三味線教室に参加し、その魅力に触れる。
パンデミック中に本格的な津軽三味線の稽古を始める。
2021年
パンデミックの影響で契約期間が終了するも、
個人で津軽三味線の稽古を継続。
同時期に和楽器イベントの企画・運営サポート活動を
開始し日本伝統業界、邦楽業界の課題に気付く。
2023年
パンデミックを経て業界に少しずつ変化が見られ、
特に動画コンテンツが増加。
和楽器と日本文化に特化した事業を決意。
業界の「違和感」を共有する人々の増加を実感。
2024年
「競争」でなく「共創」を理念に活動を展開。
自分の事業を一旦置き、業界誌編集部とジョインし、
伝統を創り伝える活動に専念。
※セールスコピーライター
D.R.M.(ダイレクト・レスポンス・マーケティング)を
軸に、戦略立案から執筆、リピート施策までを
手掛ける人。
《邦楽・和楽器関連実績》
・『TOKYO津軽三味線Night!』vol.1~vol.2企画、
開催(東京新橋)
・一社)日本和楽器普及協会 協力
・一社)『和軸』(wagic) 正会員/コラボレーター
・某、業界誌編集スタッフ