”指導”こそが日本舞踊というコンテンツの中心ではないだろうか?「指導法を学ぶ仕組み」の重要性を訴えたい
「日本舞踊をより多くの人に楽しんでもらえるのはどうしたらいいのか?」この問いから、考えた「指導」「指導法を学ぶ仕組み」の重要性について書きたいと思います。
結論から書きますが、今の日本舞踊界に足りないものがあるとすれば、それは「指導法を学ぶ仕組み」ではないでしょうか。
「指導法を学ぶ仕組み」が日本舞踊界にはない
これまで、50近くの教室の取材記事を書いてきました。また、記事にはしていませんが、それ以上の先生、日本舞踊関係者と話をしてきました。その中で見えてきた課題が「指導法を学ぶ仕組み」が日本舞踊界にはない、ということです。
日本舞踊には「師範」という教授資格があります。これは「教える資格」です。しかし、師範になる人が教わるのは「踊り方(舞い方)」であって、指導法ではありません。
「優れた舞踊家=優れた指導者」なのか
学校の先生は教員免許を持っています。教員免許は、大学または短大で、教員になるための授業や実習を経て、所定の単位を取る必要があります。その上で教員採用面接に合格し、晴れて先生となります。授業には当然、教育の基礎理論や指導法が含まれます。
参考記事
(6)教員免許状取得に必要な科目の単位数・内訳(文部科学省)
日本舞踊の師範試験には、舞踊の技術や知識を問う課題はありますが、教育理論や指導法はありません。ここには「技術があれば、教えられる」という無意識の前提があると考えられます。もちろん、技術水準の高い人は、指導にも一定の能力を発揮することは間違いないでしょう。
しかし、「優れた舞踊家がすなわち、優れた指導者ではない」ということもまた、同様に真なのではないでしょうか。
参考記事
「優れたプレーヤー」=「優れたコーチ」ではない(末續慎吾)
日本舞踊を習う人は何にお金を払っているのか
技術の継承と合わせて考えたいのは、「日本舞踊」を商品・サービスとして捉えたとき、その大部分は「指導」なのではないかということです。
日本舞踊は日本の伝統芸能であると同時に「習い事」でもあります。日本舞踊が興行ビジネスとしては成り立っておらず、実質、習い事ビジネスであることは、これをお読みのみなさんはご承知だと思います。
「日本舞踊を習う人は何にお金を払っているのか」と考えると、その大部分は稽古場での体験、それも、「師匠の指導」ということになります。
「指導」こそが、日本舞踊の価値の大部分を生み出しているのです。しかし、この「指導法を学ぶ仕組み」がないのです。
教わったようにしか、教えられない
「普通は、教わったようにしか、教えられない」これはある師範から聞いた言葉です。その人自身は熱心に勉強され、指導法も数名の仲間と研究されている方です。しかし業界を見渡すと、指導について情報交換する仕組みはなく、名取や師範向けに「講習会」を行っている流派も、教えるのは新しい曲の振付だったり、舞踊の技術指導だったりで、指導法を教えるという話は聞きません。「教わったようにしか、教えられない」多くの師範が置かれた状況を指した言葉なのです。
”指導”こそが日本舞踊コンテンツの中心である
違和感を覚える人もいるかもしれませんが、私はあえてこう主張したいと思います。「”指導”こそが日本舞踊コンテンツの中心である、と。
技術の継承には、個々人が技術向上に向かって行動するのはもちろんですが、その前提には、技術をどう伝えるのか=指導方法が優れていなければ実現しないでしょう。
そして、日本舞踊を習い事ととらえたとき、多くの人は「稽古場で指導される時間」そのものにお金を払っています。その時間がいかに充実しているかが、その人の満足であり、日本舞踊コンテンツの体験そのものなのです。
「指導法を学ぶ仕組み」が日本舞踊をさらにアップグレードする
ここまで見てきた通り、いま日本舞踊に足りないものがあるとすれば、それは「指導法を学ぶ仕組み」だと考えます。なぜなら、それこそが日本舞踊コンテンツの本質だからです。具体的には何ができるでしょうか?
講習会で「指導法」をテーマに
最も効果的なのは、流派や日本舞踊協会が、講習会のテーマに「指導法」を取り入れることでしょう。講習会に参加する面々は少なからずお弟子さんを抱え、指導法に関心がない人はいないでしょう。体系化されていなくとも、指導法をテーマにベテランの師範が講演をする、優良事例、失敗事例を集めてシェアする、教育の専門家を招いて質疑応答を行うなど、少ない準備でできることもあります。
日本舞踊における指導の体系化
日本舞踊の指導法を体系化したという話はまだ聞きません(もしあれば、ぜひ教えてほしいです)。まだないのであれば、指導法を体系化する道を検討しても良いのではないでしょうか。
教育も科学研究が進み、教育学、教育心理学、発達心理学、スポーツ科学、スポーツ心理学など、日本舞踊の指導法に活かせそうな知見を集めることができると思います。「教え上手」な師匠に協力を仰ぎ、教育の専門家とともに日本舞踊における指導の体系化を模索してみる価値はあります。
他のジャンルに学ぶ
教育業界はもちろんのこと、他のジャンル、業界からも学ぶことはありそうです。
例えば、日本サッカー協会は「指導者ライセンス」制度を作り、「プロの指導者」育成に力を入れています。プロ・アマの壁があると言われる野球界に先んじて、その垣根を超えた科学的指導法の確立を図ったと言えるでしょう。民間企業においてはどの企業においても人材の獲得、開発は緊急かつ重要な課題です。民間の人材育成、開発のノウハウからも多くを学べそうです。

