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日本舞踊人口が減少する今、必要なのは「協調」と「競争」

日本舞踊人口が減少する今、必要なのは「協調」と「競争」

日本舞踊人口が減っていく中で、必要なことはなんだろう?

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うめざわ

日本舞踊人口の減少が叫ばれて久しいですが、日本舞踊界に必要なことはなんなのでしょうか?今日はちょっと抽象的な話になりますが、考えてみたいと思います。

この記事の内容

・日本舞踊に「協調」と「競争」が必要な理由
・自動車業界と化粧品業界の例
・なにで「協調」するべきか?
・技術流出や情報漏洩のリスクは?
・私たちができること

日本舞踊人口が減少する今、必要なのは「協調」と「競争」

結論からいうと、日本舞踊は流派や個人を越え「協調する領域」と健全に「競争する領域」を明確にすべきです。

つまり助け合うところは助け合い、それ以外のところでは健全に競い合うということです。

具体的には、流派や個人単独では実現が難しいこと、リソース確保が難しいもの、協調することで業界全体の質が上がったり、マーケット拡大へ貢献することを「協調領域」とし、流派や個人のオリジナリティに関わる部分、人材育成のコアな部分など、健全に競い合った方がよい部分は「競争領域」とします。

お互いに手を組むことで業界の競争力が上がる

「日本舞踊」を俯瞰すると「習い事」「芸能・エンターテイメント」の領域が見えてきます。

ここにはライバルが多く、さらに新型コロナウィルスの影響による不況が続くことが予想される中、業界で手を組むところは組み、業界としての競争力を上げていく必要があります。

競争力を生み出すのは「人」です。インターネットやシステムの力を一部借りられるとしても、それを活用する人がいなければ競争力は生まれません。

日本舞踊に関わる人が潤沢にいた時代は、あえて「協調」する必要もなく、個々の流派の努力で結果が出せてきたと思います。

しかしその人も減りつつあります。

日本舞踊人口が減っていることはみなさん実感していると思います。

私の知る限り、日本舞踊人口が減少していることを客観的に示唆している統計は、(社)日本芸能実演家団体協議会による「伝統芸能の現状調査(2008年)」です。ここには以下のように記載されています。

2006 年では国内延べ 753 日 1,005 回という公演回数にのぼり、単純計算すると1日あたり国内どこかで3公演行わ れている計算となる。古典芸能の普及活動としては一見活発な現状と思われるが、1999 年データでは 1,125 日 1,455回を示していた。これを比較するとき、7 年の間に公演回数が激減していることが浮かび上がってくる。>>(引用)伝統芸能の現状調査(2008年)

報告書がすでに14年前のものであること、公演回数の減少がそのまま舞踊人口の減少に直結しているとは言えないなど、厳密には精査が必要ではありますが、肌感として舞踊人口の減少はみなさん共有されていることだと思います。

人口が減れば、それだけスターや優れた才能が生まれる可能性が減ります。もちろん組織を動かす、競争力を高める人材も同様です。

そんな状況の中できることは、協調領域を意識的に作って、日本舞踊界全体のためになることを助け合って行うことです。そのためには、行き過ぎた「自前主義」は捨てて、時には人や、その他のリソースを共有することが必要でしょう。

「協調」を明確にした自動車業界と、化粧品業界の例

まず、グローバルな競争が激しさを増している自動車業界の事例を紹介します。

国の自動走行ビジネス検討会が、自動運転の実現に向けて企業単独での開発や実施が厳しい10分野を「協調領域」と分類しています(『自動走行の実現に向けた取組報告と方針』報告書概要Version4.0)。

ここでは、位置測定のために必要な地図、サイバーセキュリティ、安全評価など10の分野が指定されています。

>自動走行ビジネス検討会 「自動走行の実現に向けた取組報告と方針」Version4.0 報告書概要(P42以降参照)

花王、資生堂、ポーラ、ライオンなど日本を代表するメーカーが多数参加する化粧品産業ビジョン検討会でも、世界へ向けての「日本ブランドPR」や、「消費者リテラシー向上」などは「協調」してはどうかと指摘しています。

✔アジア市場等への日本製の化粧品のプロモーションについては、業界全体で協調して取り組める領域であり、映画・アニメ等コンテンツとのタイアップ、オンライン見本市の開催等、マスメディアも巻き込みながら産学官によるオールジャパンで取り組むべき。その際、豪華、贅沢という欧米ブランドに対し、日本は上等、上質、上品とのコンセプトで差別化してはどうか。(流行に振り回されない絶対的「日本」ブランドの確立)P36より引用

✔広告に関し、厳格な取り締まりと同時に、情報の受け手である消費者のリテラシーも必要であり、その向上方策についても業界協調して検討を深めるべきである。 (産学官によるビジネス環境の整備)P37より引用

なにで「協調」するべきか?

協調の基準としては「単独ではリソース的、技術的に難しいこと」「業界全体の成長へつながること」が考えられます。

先ほど挙げた自動運転、化粧品の例を参考にしつつ、現状を踏まえていくつかアイデアを挙げたいと思います。

国内外へおける業界全体のプロモーション
・マスコミへのPR
・海外へのPR

新しい技術、サービス、ツールへの対応
・クラウドファンディングやSNS活用など新サービスの事例共有など
・オンラインレッスンツールのメソッド確立など

マーケティング調査
・教室数、参加人口、公演数など基礎データの継続的な収集と分析

教育
・基礎的な知識、教授法の横展開
・優良事例の共有など

安全性、リスク管理
・教室運営の法的リスク調査
・安全・衛生管理上のリスク調査

公的機関とのスムーズな連携
・助成金・補助金申請サポート
・確定申告等公的手続きサポートなど

特に最近では新型コロナウィルスへの対応や、それに伴うZoomやクラウドファンディングなど新しいツール、サービスへの対応へ苦慮する教室が多いと思います。個々の教室、流派で短時間で有効性や効果的な活用を調査することは難しいと言えるでしょう。

業界横断的に、人を集めて短期間で効率よく有効性や効果を検証することで、業界全体が危機に素早く対応できると考えます。

技術流出や情報漏洩のリスクは?

他の流派との協調となると、技術流出や情報漏洩のリスクを心配する方もいらっしゃると思います。

協調の過程は、多かれ少なかれ「技術移転」を伴います。

つまり、技術や情報をもっている流派、ないし個人が、それを持たない流派、個人に対してそれらを提供する可能性が高いです。

それを前提とした上で、業界全体のためにどこまでの技術を移転するのか、共有するのかは、個別のテーマごとに判断することになるでしょう。過度な情報流出リスクを避けるために、覚書等を交わす必要があるかもしれません。

協調の基準は大きく2つ

そしてこの「なにを協調領域として、なにを競争領域にすべきか」「どこまで情報やノウハウをオープンにするのか」は「日本舞踊業界内での競争」と、「異なる業界との競争」との二つの観点から検討されるべきです。

例えば「SNSによる教室のプロモーション」を例にします。

異なる業界ではすでにSNS活用が進んでおり、それにより従来なら日本舞踊へ参加するはずだった新しい顧客が、他の業界へ奪われていると判断される場合、「SNSによる教室のプロモーション」は協調領域として積極的に有効な活用方法を検討する必要があると考えられます。積極的に取り組まなければ、業界全体の落ち込みにつながるからです。

一方で、他の業界も日本舞踊業界も同程度に活用が進んでいる場合は、優先的に取り組む必要があるというよりは、個々の教室がさらに工夫しあい、健全に競争することを促した方がよいと考えられます。

とはいえ「技術移転」で技術を提供する側にとっては、長期的には業界が成長して自らも恩恵を受けられる可能性がある反面、短期的には「敵に塩を送る」行為ともいえますから「業界のために積極的に貢献する」「恩恵を受ける側はそれに感謝し、別の形で貢献することを目指す」という倫理観は双方に欠かせません。

そして、協調領域があるおかげで、競争領域にリソースを集中でき、結果、健全な競争をして、それが業界全体の成長につながる、という大枠の理解が不可欠です。

呉越同舟で手をつなぐ

日本舞踊界がどんどん小さくなっていく今、必要なのは「協調」と「競争」です。特に、健全に「競争」するためにも、「協調」が重要だと言えるでしょう。

私たち今できることはなにか?

これまで書いてきたことは、業界全体で取り組まなければならないこと、大きな業界団体でなければできないことのようにも感じます。

でも、いまからでも私たちにできることがあります。

それは、私たちが学んだことや、身近な成功事例を他の人に共有することです。

ブログに書くのでもいいし、SNSに投稿するのでもいいし、知り合いに話すのでもOKです。それを見聞きした誰かが真似をして、小さな良い結果が出て、またそれを誰かが・・・と伝播していけば、大きな結果につながります。まずはそこから始めてみませんか。