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清元「保名(やすな)」ゆかりの地を訪ねて【信太森葛葉稲荷神社と鏡の池】

清元「保名(やすな)」ゆかりの地を訪ねて【信太森葛葉稲荷神社と鏡の池】

清元「保名(やすな)」ゆかりの地を訪ねて、大阪府和泉市の信太森葛葉稲荷神社と鏡の池を訪ねました。

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清元「保名(やすな)」をご存じでしょうか。

「安部保名」は、陰陽師と指定有名な安倍晴明の、伝説上の父とされる人物です。保名が恋人「榊の前」を亡くし、狂い彷徨う様を描いた作品です。歌舞伎「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」の二段目「小袖物狂ひ」から作られました。元のタイトル通り、亡き恋人の小袖を持って登場し、それに語りかけたり、子供のように蝶を追ったりするシーンがございます。「男の狂乱もの」として有名です。

清元「保名」の物語の全体像

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歌舞伎舞踊としての「保名」はこの物狂いのシーンのみなのですが、「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」にはその物語の全体が描かれています。

あらすじ

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恋人を失い、悲しみにくれる保名ですが、榊の前の妹「葛の葉」に出会い正気を取り戻します。あるとき信太の森で悪者に追われた白狐を助けた保名。狐は恩を返すために葛の葉に化け、保名とともに暮らし始めます。

一児の子をもうけ、ひっそりと暮らしていた二人ですが、そこに本物の葛の葉が訪ねてきます。正体が明るみになれば、もう一緒に暮らすことはできないと、狐は「恋しくは 尋ねきてみよいづみなる しのだの森のうらみくずのは」という一首を障子に書き残し、姿を消します。

再開と子別れ

翌日、信太の森を訪ねた本物の葛の葉と、保名と息子は、そこで白狐に再開し、最後の別れを惜しみます。

保名と狐の間に生まれた子はのちの安倍晴明で、陰陽師としての活躍はみなさんご存じのとおりです。

*狐の伝説には諸説あり、保名の存在自体が伝説と言われています。

保名ゆかりの地を訪ねて「鏡の池」

「保名と狐の別れの舞台」とされているのが鏡の池です。

JR北信太駅から徒歩約20分。住宅地の中にあります。

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後ろには鬱蒼とした森が。昔の姿をそのまま残しているのでしょうか。この茂みの中に、白狐が住んでいた・・・のかもしれません。

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池のほとりには「信太の森ふるさと館」があります。資料館ですが、残念ながらこの日はお休みでした。

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狐伝説のを紹介する石碑もありますが、歌舞伎の物語とは違っています。歌舞伎化にあたって昔話がアレンジされたのかもしれません。

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保名ゆかりの地を訪ねて「信太森葛葉神社」

次は、北信太駅すぐの「信太森葛葉神社」です。

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ここにも「葛の葉伝説」にゆかりのあるものが多く残されています。

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ここは創建されたのが、和銅元年(708年)と言いますから、1300年以上の歴史がある神社です。

葛葉神社の見どころ

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中でも目を引くのがご神木の楠。なんでも樹齢2,000年以上とか。神社よりも前にこの地にあったんですね。神社の方に話を聞くと、始めは楠と、地元の人のお屋敷があり、のちにその方が土地を寄贈されて神社ができたのだそうです。昔はこのあたりは田畑が広がっていたのだとか。

本殿

本殿も立派で雰囲気があります。この建物も100年以上の歴史があるそうです。

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小さな祠がいっぱい!

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葛葉神社にはすごくたくさんの分社があります。この地域の方は信心深い方が多く、かつて多くの「講」という、いろんな神様を信仰して分社を寄贈、維持してこられたのだそうです。

姿見の井戸

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白狐が葛の葉に化け、その姿を映して確認したと言われる「姿見の井戸」です。のちに再び狐がここへ帰ってきたことから、「無事に戻ってこれるように」と、交通安全のご利益があると言われています。

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信太の森はどこにあった?

「信太の森」は清少納言が枕草子の中で「森は信太の森」と書き記して以来、多くの和歌に詠まれています。では「信太の森」とはどこのことなんでしょう?

今回訪れた「鏡の池」と「葛葉神社」は、徒歩25分以上離れています。かつてはここ一体に広がる広い広い森があったのか、話が伝聞に伝聞を重ねるうちに、場所が分かれて、どちらが物語の舞台なのか、わからなくなってしまったのか。

真相はわかりませんが、どちらも趣のある場所でした。信太森葛葉神社の方の話によると、やはり伝説の面影を求めて、日本舞踊や文楽の関係者の方がはるばる訪ねてこられることも良くあるそうです。

アクセス情報

「鏡の池」(信太の森ふるさと館)

住所:大阪府和泉市王子町914-1

JR阪和線北信太駅から徒歩25分

「信太森葛葉神社」

住所:大阪府和泉市葛の葉町1-11-47

JR阪和線北信太駅から徒歩5分

北信太駅は、JR大阪駅から約40分です。

参考URL

葛の葉 – Wikipedia

芦屋道満大内鑑 – Wikipedia

信太森葛葉稲荷神社 | 安倍晴明母親の里

第六回 病鉢巻の憂いと色気 ~歌舞伎の中の「病人」たち|歌舞伎美人