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日本文化を学ぶ意味とは?グローバルビジネスの観点から

日本文化を学ぶ意味とは?グローバルビジネスの観点から

日本の文化について興味はあるけど、どこから手を付けていいかわからない。
グローバルビジネスにおいて、そもそも日本文化について知る必要はある?

今日はグローバルビジネスに必要な能力開発というテーマでお話しします。

日本舞踊という日本の伝統的な文化に関する事業を行い、文化について扱う機会の多い私が、冒頭のような疑問にお答えします。

日本舞踊の仕事としてのグローバル展開は現在準備中なのですが、この仕事を始める前は留学エージェントに6年ほど勤めておりましたので、その頃のエピソードも踏まえてお話しできればと思います。

まず、文化とはなにか?についてお話しした後、「グローバルビジネスを行う」という観点で私が考える、日本の文化を学ぶ重要性を紹介したいと思います。

そもそも文化とは?文化の定義

一般的に「文化」というと、大衆文化や伝統文化といった使われ方からも想像されるように、「芸術・芸能・娯楽」といったものが思い浮かぶのではないでしょうか。

しかし、

辞書的な定義によると文化は、「ある集団全体の考え方や価値基準、またはその表出」のことを指し、「言語、宗教、哲学、生活様式、慣習、さらにはその下にある価値観」なども含む大きな概念です。

文化の全体像をよりよく把握するために、文化表出の「玉ねぎ型モデル」を紹介します。

「日本といえば?」と聞かれてまっさきに頭に浮かぶもの、例えば、桜、富士山、日の丸…こういったものが「シンボル」です。

ある文化集団の中でのみ、特別な意味を持つのがシンボルの特徴です。

その文化を代表し、人々から高く評価され、ロールモデルや憧れの対象となる人がヒーローです。例えば、大谷翔平選手や、羽生ゆずるさんは国民的ヒーローですし、ビジネスパーソンにとっては、松下幸之助さんや稲盛和夫さん、といった経営者を思い浮かべるかもしれません。

儀礼は、その文化の中で自然と行われている行動様式、例えば、訪問した家に上がるときは靴をそろえるとか、名刺を渡すときには下から渡す、など、必ずしも実用的とは限らないけれど、「そうすることになっている」というようなものです。

これらをまとめて「表出」または「慣行」と呼びます。

もちろん、最も大事なのは、その下にあり、目には見えない「価値観」です。日本文化理解においても、他国文化理解においても、重要なのはもちろん、この「価値観」や「価値観の違い」です。

日本舞踊を例に、玉ねぎ型モデルに当てはめてみましょう。

日本舞踊は江戸時代に誕生しました。芝居と舞踊からなる歌舞伎から、舞踊だけが独立する形で、主に、町の人々の趣味として、また、花街の芸者さんの職業スキルとして継承・発展してきた歴史があります。

日本舞踊を象徴するシンボルに、扇子があります。
この扇子によって行われる儀式に当たるのが「見立て」という行為、その下にある価値観は「精神的な豊かさの尊重」です。

この写真を見てください。扇子を何に見立てているかわかりますか?

正解は、とっくりとおちょこ。

日本舞踊は、歌舞伎のような衣裳を使う場合もありますが、多くの場合、このようにシンプルな着物によって演じられ、小道具はほとんどの場合、扇子のみです。

この扇子を様々なものに「見立て」て、舞踊を行います。屋形船、三味線、手紙、刀や槍…


道具そのものを用意するのではなく、扇子を使って「見立て」ることが重要です。

「見立て」は、そこにないものを、あたかもあるかのように想像する面白さ、つまり「精神的な豊かさの尊重」という価値観を、踊り手と観客が共有することではじめて成立します。

なお、「見立て」は日本舞踊だけではなく、茶道における道具選び、庭づくりにおける借景や、枯山水、など、日本文化の様々な場面に登場しています。

このように、私たちが一般的に文化と呼んでいるものは、実はシンボルやヒーロー、儀式といった表出の一部なのであり、その下に同じ文化を共有する人々の価値観がある、ということを押さえておく必要があります。

文化の全体像を具体例を交えて俯瞰してきました。ここからは、特に、「グローバルビジネスを行う」という観点で、日本文化を学ぶ重要性を紹介したいと思います。

大きく2つあると考えております。

基礎教養としての日本文化理解

まず一つ目は、基礎教養としての日本文化理解です。海外に行くと、日本の文化について尋ねられることが多くあります。ここで、なにも知らないと期待外れだと思われてしまうかもしれません。海外の人が興味のある日本文化について、基礎知識を得ることが、第一歩です。

では、ここで一つ質問したいと思います。アジアや欧州の人が日本に興味を持ったきっかけの第一位はなんだと思いますか?

これは、クールジャパン政策の中で行われたアンケートの一部です。

引用「クールジャパンの再生産のための外国人意識調査(概要)平成30年1月特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)

全地域で非常にポイントが高かったのが「アニメ・マンガ・ゲーム」です。

神社や歌舞伎、わびさび、和食など、「伝統的な文化や歴史」に特に関心が高いのは、欧州・北米圏の人々です。

これらについて、基礎知識を持っていること、鑑賞したことがある、体験したことがある、といったことは、海外のビジネスパーソンの興味に応え、親しくなるための基礎教養と言えるでしょう。

日本文化をなにから学んでいいかわからない!という人は、ポップカルチャー、伝統文化などから、自分に興味があるものを選んで、勉強してみてはいかがでしょうか。

さらに玉ねぎ型モデルにあったように、「この文化の下層にある、日本の価値観とはなにか?」といったことまで考察できると、より深い理解につながります。

異文化コミュニケーションのための日本文化理解

二つ目は「異文化コミュニケーションのための日本文化理解」です。これは、先ほど紹介した「芸術・芸能・娯楽」的な狭義の文化ではなく、価値観や行動様式の理解を指しています。

グローバルは、ローカルな国の集合体です。当然、国ごとに異なる文化、すなわち価値観や行動様式があるため、自分の住む国の文化、そして他国の文化についても知らなければ、そこにハレーションが起こる可能性があります。逆に、理解があれば、ビジネスもうまくいく可能性が高まります。

実はこのことを深く研究した人がいます。オランダの社会学者で、IBMの人事でもあった、ホフステード氏です。巨大グローバル企業であるIBMにおいて、国や地域を超えて結成されたチームが、文化的な差異を超えて、いかに力を発揮するかは大きな課題でした。ホフステード氏は1967年から116,000人のIBM社員を対象に、72か国20言語で国別価値観を調査し、世界で初めて国別の文化の違いを分類しスコア化、さらに「六次元モデル」と呼ばれるものを提唱しました。先ほど紹介した玉ねぎ型モデルも、ホフステード氏が考案したものです。

六次元モデル

  • 集団主義か個人主義か
  • 権力格差が小さいか大きいか
  • 不確実性を許容するか、回避するか
  • 生活の質志向が強いか、達成志向が強いか
  • 短期志向が長期志向か
  • 抑制志向か、充足志向か

日本の特徴

参考: ホフステード・インサイツ・ジャパン株式会社異文化理解のフレームワーク「ホフステードの6次元モデル」を知り、「CQ(文化知性)」を開発する〜石井由香梨(リンクォード CEO, Co-Founder)

日本の際立った特徴は、不確実性の回避と達成志向です。
不確実性の回避の特徴は、「リスクを恐れる」「慎重」「規範重視」などです。日本人は貯金好き、起業家が少ない、コロナ対策では欧米と比較して非常に慎重、などは、不確実性の回避の表れだと言われます。

ビジネスシーンにおいては、日本では当たり前の稟議をしているだけなのに、「日本人は検討が多い」「意思決定に時間がかかる」「上司や本国にお伺いばかりで自分の考えがない」などと見られる可能性があります。

逆に日本人から見ると、「海外の人は無鉄砲」に見える可能性が高い、ということになります。

留学エージェント時代、取引の多かったフィリピンは、不確実性において日本と真逆の傾向があります。「転職する人が多い」「給料をすぐに使ってしまう人が多い(なのでフィリピンでは給料日が月二回ある)」というような行動にあらわれます。逆に人材の流動性が高いので、条件さえ整えれば、優秀な人を採用しやすいというメリットもあります。

生活の質志向が強いか、達成志向が強いかは、わかりやすく言うと、「生きるために働く」か、「働くために生きる」か、と要約されます。

日本人の働き方を見ていると、生活を犠牲にしてまで、「働くために生きる」人が多い気がします…。もちろんその価値観は尊重されるべきものですが、男性の達成志向のために女性の社会進出が遅れるなど、日本がジェンダー後進国である要因となっている可能性などにも目を向けるべきでしょう。

ビジネスシーンにおいては、日本では当たり前に残業を命じる時でも、相手が生活の質志向のため、ハッキリ断られたり、不快感をあらわにされたりする、ということがよくあります。

オーストラリアやニュージーランドは生活の質志向が強く、あくせく仕事をしない、おおらかな人が多いので、仕事に疲れた人が選ぶワーホリ先としては非常に人気がありました。

このように、世界の中での、日本の相対的な文化的立ち位置が分かれば、異なる文化の人々と接するときに、何に気を付けるべきか、自覚的になることができます。

一点、注意すべきは、六次元モデルはその国の調査時の、調査対象者の一般的な傾向をあらわしたものに過ぎないということです。当然、人には個性があり、傾向から距離があることも良くあります。「この国の人だからこうだろう」という決めつけではなく、あくまでこういう傾向があるが、この人はどうだろう、と個人を見る姿勢が大切です。

まとめ

「グローバルビジネスを行う」という観点で、日本の文化を学ぶ重要性を見てきました。

まず、広い意味を持つ「文化」の全体像を、価値観とその表出として、玉ねぎ型モデルや日本舞踊の例を踏まえて理解しました。そして、基礎教養としての日本文化について紹介しました。

「日本の文化について興味はあるけど、どこから手を付けていいかわからない。」

このような方、伝統文化は敷居が高い、と思われるようなら、マンガやアニメなどのポップカルチャーから入ってみてはいかがでしょう。深堀して、その下にある日本人の価値観まで探究できると、一目置かれるに違いありません。

最後に、六次元モデルを参照しながら、日本に特徴的な価値観を紹介しました。

「グローバルビジネスにおいて、そもそも日本文化について知る必要はある?」

応えは明確に「イエス」です。価値観という意味での、日本文化、海外の文化を知ることは、ビジネスに大いに役立つことでしょう。