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aeru room「出島の歴史を感じるお部屋」宿泊レポート(セトレ グラバーズハウス長崎)

aeru room「出島の歴史を感じるお部屋」宿泊レポート(セトレ グラバーズハウス長崎)

株式会社和える(以下、『和える』)のaeru room「出島の歴史を感じるお部屋」へ夫婦で宿泊する機会をいただきました。今回はその宿泊レポートです。

aeru roomとは「和える」がプロデュースする「日本の伝統の技を活かした、感性が豊かになるお部屋」和えるHPより)のことです。宿泊施設があるその土地ならではの工芸や職人の技術を生かし、滞在をより深く楽しめます。

今回伺った「出島の歴史を感じるお部屋(長崎)」のほかに、「明珍火箸 瞑想の間(姫路)」「“お庭に泊まる”大和の心を感じるお部屋(奈良)」「丹後ちりめんのお部屋、箔のお部屋、京銘竹のお部屋、北山杉のお部屋(京都)」があります(一覧はこちら)。

「和える」は、「先人の智慧と現代の感性を和えることで、伝統を次世代につなぐ」をコンセプトに、伝統文化の魅力を伝えています。”0歳からの伝統ブランドaeru”を始め、近年では里山育成事業、教育事業など多角的に事業を展開されています。

生活と舞踊は以前から「和える」の活動をフォローさせていただいており、代表の矢島様や役員の髙橋様にご講演の機会をいただいたこともあります。

「和える」のような工芸と日本舞踊では、「ものづくり」と「芸能」という、形のあるなし、あるいはビジネスモデルの違いはあるものの、伝統的なものを扱うことや、その根底にある先人の知恵を大切にする点では共通しています。

今回は、「和える」が宿泊体験という形のないものをどのようにプロデュースされるのか、とても楽しみに伺いました。

「出島の歴史を感じるお部屋」はホテル「セトレ グラバーズハウス長崎」の一室を「和える」がプロデュースしたものです。

セトレ グラバーズハウス長崎の感想も含めてレポートします。

セトレ グラバーズハウス長崎は関西を中心にホテルやウェディング事業などを展開するセトレグループ運営のホテルです。グラバー園、大浦天主堂から徒歩約3分という立地で、新地中華街や出島も徒歩圏内です。長崎駅からは路面電車で約20分の大浦天主堂駅から歩いて約5分です。

こじんまりとしたヨーロッパ風のかわいらしい外観で、入るとエントランスロビーです。

ロビーには長崎に関係のある雑誌や書籍が並びます。「長崎くんち」や「潜伏キリシタン」「自然」「料理」などなど…観光予定先の情報を予習するのに最適です。ちなみに私たちは出津(しつ)という潜伏キリシタンの歴史がある場所へ行く予定だったのですが、それに関連する書籍もばっちりありました。

チェックインでは、ウェルカムドリンクとして「そのぎ茶」をいただきました。そのぎ茶とは長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町で生産されるお茶で、さっそく地産のものを体感できます。

また、夜の散歩があるとの案内が。20時半から夜景を見に案内してくださるということでしたので申し込みました。

ラウンジは、なんとアルコールも含めドリンクが飲み放題!シェフお手製のポテトチップスなどのスナックもあり、オリジナルのカヌレ、カステラもいただけます。これらも宿泊料金にすべて含まれています。

ラウンジの充実ぶりに目を奪われている私たちにフロントの方が「少しゆっくりされてからお部屋にご案内しますか?」と声をかけてくださったのも嬉しかったです!

カヌレは専用のトースターで温め、さらに少し冷ましてから食べると一番おいしく食べられるそうです。ひと手間かかるのですが、このひと手間が、せわしい日常から旅行気分へ気持ちを切り替えてくれたような気がします。

楽しみにしていたお部屋です。

お部屋は2階の角部屋、主室と寝室がありゆったりとした雰囲気です。

お部屋には「長崎」を感じられるものがいくつもあります。

まず入口にある江戸時代の古地図。ぜひ現在の地図と比較してみて下さい。


ホテル近辺の旧居留地エリアの醍醐味は明治の近代化・工業化の歴史を肌で感じられることです。

旧居留地には外国人実業家の邸宅が立ち並び、その一部がグラバー園に残されてます。大浦天主堂はそんな外国人たちの心の拠り所でした。

大浦天主堂。ホテルからは徒歩3分。(引用:大浦天主堂公式HP)

地図には近代化の中で周囲を埋め立てられ実質、島ではなくなった出島(出島もホテルから徒歩圏内です)もあれば、当時と変わらぬ海岸線も描かれており、近代化・工業化のダイナミズムと現在とのつながりを感じられます。

主室で目を引くのはなんといっても、天井の美しい唐紙です。


これは出島にある「カピタン部屋」(オランダ商館長の宿泊・交流・接待のための施設)と同じ物が使われています。

外国から来たオランダ商人たちの宿泊施設と、他国(他都道府県)から来た私たちの宿泊施設、時代を超えて同じ唐紙で迎えられると思うと、なんとなく旅情を誘われませんか。

こちらが出島のカピタン部屋。模型を元に復元されたものです。壁や天井に唐紙が使用されています。

私たちが最も気に入ったのは寝室に飾られている屏風絵です。奥の壁一面の大きなもので金箔もたくさん使われている華やかなものですが、不思議と圧迫感はなく、落ち着きがあります。

この手書きの「南蛮屏風」はもともとホテルのロビーに飾られていたものだそう。このほかにも長崎の職人さんが作ったガラスコップやお酒の輸出に使われていたコンプラ瓶などがあります。

ちなみにそのほかのお部屋情報。クローゼット、金庫、ミニ冷蔵庫、お茶など一通りの設備が整っています。スリッパも革製で立派!

ホテルですのでお風呂とトイレは同じですが、空間はかなり広いのであまり気にはなりません。「和える」の藍染タオルが使えるのがファンとしては嬉しいです。

寝巻も着やすく着心地がよく、個人的には満足度が上がったポイントでした。

ただ、歯ブラシなど使い捨てアメニティ(歯ブラシ、髭剃り、くし、ヘアバンド、スキンケアセット、綿棒、コットン、バススポンジ、ウォッシュタオル)は環境への配慮の観点から置いていませんのでご注意ください(詳しくはセトレグループHPをご覧ください)。これは事前に知らされていましたので特に問題はありませんでした。

この日は外で食事をして、ホテルスタッフさんアテンドの元、20時半から夜の散歩です。
大浦天主堂のわき道を登って15分ほど、長崎湾が見渡せる夜景のきれいな場所へ連れて行ってもらいました。私たちだけで来ても夜ここまで来ることはできなかったのでとても良いサービスでした!

ホテルに戻った私たちは、外に飲みに行こうかとも思ったのですが、せっかくなのでラウンジと部屋で過ごすことにしました。
ラウンジではビール、ワイン、ハイボール、梅酒などが飲み放題(24時まで)。

ソフトドリンクもジュースやお茶が複数種類とコーヒーも。飲み物は部屋に持ち帰っても大丈夫です。私たちは夜の散歩まではラウンジで過ごし、散歩の後はラウンジがやや混んできたので部屋に戻りました。夜のテラス席も素敵なのですが、同じ事を考える人が多くこの日は満席で諦めました…。

部屋にも長崎関連の本棚があり、私たちは翌日以降訪れる予定の出津や長崎料理の本などを読んで過ごしました。ちなみに部屋にテレビはありません。これも部屋でリラックスして過ごせるようにあえてのしつらえだそうです。

朝食はホテルでいただきました。

長崎の野菜や料理を小鉢で少しずつ、どれもとってもおいしかったです。おひつのご飯は食べきれませんでしたが、波佐見焼(長崎の陶器です)のお茶碗を選べるシステムが奥さんに好評でした。


昨日座れなかったテラス席でチェックアウトの11時まで本の残りを読み、aeru roomでの滞在を終えました。

aeru roomでの滞在の特徴は、ホテルで過ごす時間の充実でした。

私たち夫婦は年に数回旅行に行きます。その際の宿泊施設の使い方は大きく2つのパターンに分かれます。1つは夜遅くまで観光や食事をして宿には寝にだけ帰る、というパターン。2つ目は外出はほどほどにして、部屋でゆったりと過ごすパターン。その場合は読書をしたりお酒を飲んだりしています。同じ宿に連泊するときはこのように過ごすことが多いです。

今回の滞在は後者に近いのですが、その体験は少し違っています。それは宿に戻っても「長崎」を感じ続けられるという点です。

よくある旅行では、観光を済ませて宿に戻ったらそこはもう汎用的な建物、汎用的な設備、汎用的な部屋で、観光地の中のただの宿泊空間であることが多いのではないでしょうか。もちろん宿泊施設内の滞在を重視し、洗練されたデザインや様々な設備が整っているホテルはありますが、あくまでホテル内は別空間であり外、今回の場合は「長崎」とは切り離されています(住所としての『長崎』ではなく、旅行体験の場としての『長崎』)。

セトレグラバーズハウスはホテル内にも長崎を感じさせるものを自然に配置し、aeru roomではさらに部屋の中まで演出されています。「ホテルの中もちゃんと長崎」なのです。

今回の長崎滞在では、ほかのホテルにも宿泊しました。そこにも長崎の書籍があったり、長崎くんちの張り子人形が置いてあったりと、長崎らしさの演出はありました。しかしaeru roomと比較するとその演出はどこか中途半端で、どこか稚拙な印象すら受けてしまいました。

その違いは「和える」が土地の歴史と文化を深くリスペクトし、aeru roomでの滞在を通じて「長崎の本物に触れ感じる体験」を重視しているからではないでしょうか。