日本舞踊の稽古着は「ジャージに羽織」がベストな理由【意外】
みなさんは普段のお稽古、どんな格好でやっていらっしゃいますか?
そもそもゼロベースで考えた時に、日本舞踊の稽古に最適な格好ってなんだろう?
一般的に、スポーツをするときはユニフォームとか、ジャージとか、動きやすい服装で行います。音楽など、舞台では正装するものでも、練習はラフな格好で行うでしょう。ほかのダンス、たとえばバレエやヒップホップも、練習はジャージを着ることが多いです。
日本舞踊は?ほとんどすべての教室が、浴衣や着物でお稽古をしています。これが本当にベストな形なのか、考えてみました。
一般的な日本舞踊のお稽古の様子
一般的な日本舞踊のお稽古風景と言えば、服装は、白足袋に浴衣か長物の着物。お稽古は師匠が踊る横について、振りを覚えていく。覚えたら師匠に前で見てもらい、一人で踊る。細かい表現や形を直してもらう。こんなカンジではないでしょうか。
日本舞踊のお稽古特有の事情
死角が多い
ほかのダンスと違うのは、マンツーマンが基本ということです。一般的なダンス教室は先生が正面で踊り、生徒はそれを見ながら覚えます。日本舞踊は横について踊ります。これにはメリットとデメリットがあります。メリットは師匠と距離が近いため集中できる、細かい動きが追いやすい、師匠側もきめ細かい指導ができる、などです。
デメリットは、横につくため、見える範囲が限定されることです。師匠の右側に立った場合、左側はほとんど見えません(鏡があるお稽古場はこのデメリットをかなりカバーできます)。見えない部分は都度都度聞くか、他の振りを覚えた後で師匠に直してもらうことになります。死角が多いこと、これが日本舞踊特有の事情の一つです。
着物で師匠の予備動作が見えない
さて、師匠の動きが限定的にしか見えないわけですが、それに関連してもう一つ重要な事情があります。それは着物を着ているために、動きの予備動作が見えないということです。すべての動きには予備動作があります。 たとえば、「足を前に踏み出す」という動きの前には膝をあげる、という予備動作があります。「床を踏む」という動きの前には「腰を落としてかかとを浮かせる」という予備動作があります。
着物を着ているために足の動きが見えにくくなり、これらの予備動作が見落とされやすくなります。ただでさえ死角が多いのに、日本舞踊で重要な足運び、重心移動を学ぶ足の動きが見えないとなると、これはもう半分目をつむって稽古するようなものです。
自分の足の動きも見えない
師匠の足の動きが見えないだけでなく、自分の足の動きも見えません。
人は思った通りに体が動かせるわけではありません。ためしに目をつむって、右手と左手の指と指同士を、ぴったり合わせてみてください。5本全部の指が、全部ずれることなくぴったりくっつけられた人は相当優秀です。ほとんどの人は2,3本はずれてしまうことでしょう。体の中で一番よく使う手でさえ、正確に動かすことは難しいのです。
ましてや日常にない動きをしている日本舞踊のお稽古では、師匠の動きと自分の動きをしっかりと目で確認して、修正していくことが求めまれます。しかし着物を着ているがために師匠も自分の動作も、半分隠されているような状態になってしまっています。
動きやすさの観点からも着物はベストとは言えない
動きやすさの観点からも、着物はベストとは言えないでしょう。裾は絡みますし、着物も軽くはありません。そもそも着物が動きやすい服装でないことは、着物を着たことがあるあなたは一番よくわかっているはずです。
日本舞踊の稽古着は「ジャージに羽織」がベストな理由
私は稽古着に最適なのは「ジャージに羽織」であると思っています。先ほどまでのデメリットをなくし、踊りの稽古に必要な条件はちゃんと満たしているからです。
まず死角という点。ジャージですので足の動きは着物に隠れることなく、予備動作からしっかり確認することができます。自分の体の動きも同じです。
動きやすさの点でも、着物より格段に動きやすいため、しっかりと体を動かし、よい動きを身につけるのには着物よりも優れています。裾さばきが必要な動きは、ほかの振りを覚えてから着物を着て稽古すればよいのです。
「日本舞踊は着物で踊るもの。正絹の着物でないと形が崩れる」伝統を重んじる方でこういう考えをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、私はあえて、稽古は動きやすく、確認しやすい格好で行う方がよいと考えます。その方が上達が早いし、上達してから着物を着て稽古し、着物を着た動きに合わせるのでも遅くないと考えるからです。
歌舞伎役者は稽古から重たい衣装カツラ付きでは稽古しませんし、タカラジェンヌも舞台前以外は本番衣装で練習はないでしょう。
羽織を着る理由は、日本舞踊には袖や袂を使う動作が多く、ジャージだけではその振りを再現しにくいからです。程度の問題ですので、演目やお稽古の進捗によっては、上下ジャージだけでも問題はないと思います(羽織でも着ないとさすがに様にならない、ということも少し感じますけれど)。
少しでも効率の良いお稽古環境を
お稽古着は「ジャージに羽織」、できれば鏡も置いて死角をなくすことで、日本舞踊特有のお稽古事情のデメリットをなくし、効率よくお稽古をすることができると考えます。

