子供たちの探究学習を日本舞踊、伝統文化から応援したい。
生徒様が日本舞踊を探究テーマに選ばれた先生へ
俺の日本舞踊は、生徒様の探究を応援しています。日本舞踊を探究テーマに選ばれた生徒様がいらっしゃいましたら、資料提供、レポートのアドバイス、成果物へのフィードバックなどご対応させていただきます(過去に複数の実績あり)。詳しくは、お気軽にご相談ください。
・子供やお年寄りにもわかりやすい、地域の防災マップを作るには?
・地元の産品を使った新名物を開発して販売するには?
・校則を見直すにはどういう手順で話し合い、決定すれば良い?
このような答えのない課題に、全国の高校生が授業で取り組んでいます。「探究」という新しい授業です。
2022年から高校で「探究」という授業が始まります。教科書を効率よく覚える勉強ではなく、これからの時代に必要な、自分で課題を見つけたり、答えのない問題に取り組んだり、主体的に学んでいく力をつけることを目的とした学習です。具体的にはこれから解説していきますが、私は「探究」の授業に、日本舞踊が貢献できる可能性があると思っています。
子供たちに日本舞踊について知ってほしい、学校教育に関わりたいと考えている先生は、ぜひお読みください。
「探究学習」とは?
探究学習とは、以下のサイクルを繰り返す課題発見・解決型の学習方法です。2022年から高校で必修化されました。
①課題設定
②情報の収集
③整理・分析
④まとめ・表現
探究学習はなぜ必要?
これまでは教科書の内容を効率よく覚え、試験で正確にアウトプットすることが求められてきました。今もそれは変わりませんが、変化の激しいこれからの時代、自ら課題を設定し、解決できる人材の育成がより一層求められていることから、探究的に学ぶことが重視されるようになりました。
生徒自身が興味・関心に基づいて課題設定をする
探究学習は、「何を」「どうやって」学ぶか、以上に、「なぜ」学ぶかという生徒自身の課題意識が重要になります。そして、最終的には、社会と自分との関係を踏まえた上で、課題設定ができることを目指します。
といっても、イメージしにくいと思うので、探究学習の具体例を2つ紹介します。
具体例①礼文島の水産資源で新たな製品を生み出し、地域を活性化させる
礼文島の水産資源を活用したメニューや製品を開発し、地域の振興に貢献するという探究学習です。生徒たちは以下のように学習を進めました。
・漁業従事者からの講話:礼文島の水産資源と創作料理について学ぶ。
・礼文産の昆布を使用した出汁の風味を調べ、どのような食材と合わせて料理するのが良いか考察する。
・調理実習を通して、礼文産の昆布を利用したメニューづくりを行う。
・礼文産の昆布出汁と椎茸出汁は4:3の割合にするのが最も良いという研究結果をもとに、地元食材を使用したペペロンチーノ(うどん麺)を開発し、「シーフードコンクール」などの料理コンクールに出場する。
引用:離島の振興を促進するための礼文町における産業の振興に関する計画(北海道礼文町)
具体例②亀岡盆地の地形と水害との関係を考える
地域の防災マップ作成に取り組んだ事例です。
1時間目
日本の自然災害の特徴・亀岡盆地の地形と水害に関する講義、地形図の読図、「洪水ハザードマップ」の読み方に関する実習を行う。
2〜7時間目
亀岡盆地の馬路町および千代川町でフィールドワークを行う。その後、フィールドワークで巡った各地点に関する情報を整理したり、「洪水ハザードマップ」に記載された危険箇所・安全箇所を確認する。
8〜12時間目
フィールドワークや講義で得た情報を基に、4〜5名の班で防災マップを作成。作成後は発表を行い、受講生間で情報を共有する。 発表後、水害について正しく理解できているか、発表用資料を用いて検証を行った。
引用:高校地理での学習内容を活用した防災教育プログラムの実践
イメージがわきましたでしょうか?答えのない問題に、試行錯誤しながら取り組み、答えを見つけていく「探究」について、少しご理解いただけたのではないでしょうか。
探究学習の流れ探究学習の現状(世界と日本)
出典:The Impact of Project-Based Learning on Teacher Self-Efficacy)および、OECD諸国で導入進む探究学習。追いかける日本に成功の展望はあるか?*一部グラフ色を加工、日本を強調※アメリカはサンプリングの基準と合致しないため、グラフには反映されていません。
探究学習は日本だけで行われる学習なのでしょうか。そうではありません。
探究学習は海外ではプロジェクト型学習(PBL=Project Based Learning)と呼ばれ、海外でも盛んに取り入れられています(探究とPBLは、厳密には少し違うのですが、ここではほぼ同じものとして取り扱います)。
例えば、教育先進国とされるデンマークでは、高校でのPBL導入率が約80%と高い水準であり、カナダでは、学生や産業界から、PBLを学習に取り入れるべきだと声が上がり、PBLを中心とした大学が創設されました。マレーシアでは、成長して先進国入りする、という国家戦略として小学校からPBLが取り入れられています。
アメリカの公立高校「High Tech High(ハイテックハイ)」では、授業のうち実に8~9割がPBLで構成されています。公立高校なので、特に成績の良い子供や富裕層の子供が集まっているわけでもありません。しかし大学進学率は米国平均と上回る結果を出しており、世界中から先生や教育関係者が視察に訪れています。
PBLや探究学習と学力等の関係は、まだ中長期的な調査が少なく、ハイテックハイのような結果がいつでもどこでも出るとは限りませんが、可能性は感じられるのではないでしょうか。
探究学習の現状(教育の現場)
日本でも「探究」を推進する文部科学省だけでなく、経済産業省も「未来の教室 ~learning innovation~」プロジェクトで、PBLやSTEAM教育を提唱しています。STEAM教育とは、答えのない問いに教科横断的に取り組み、解決する力を養う教育で、探究学習と共通点が多い教育です(STEAMは、サイエンス(科学)、テクノロジー(技術)、エンジニアリング(工学)、アート(芸術・教養)、マスマティクス(数学)の頭文字をとったものです)。
変化が激しく不確実性が高い現代において、自ら問題を発見し、解決できる人材育成は、産業人材育成の観点からも、まったなしで求められているのです。
先生の不安は「指導」と「評価」と「学習範囲」
では、教育現場で探究は、もろ手を挙げて歓迎されているのでしょうか。実は必ずしもそうではありません。現場には現場の課題があります。
探究を指導する現場では、大きく分けて「指導」と「評価」と「学習範囲」という課題があります。
指導・・・「探究的に学ぶ」ことを、どうやって教えればよいのかわからない
評価・・・正解がない探究を、どう評価すれば良いか分からない
学習範囲・・・学習範囲をどう定めれば良いかわからない
そのほかにも以下のような不安があります。
・専門外の探究テーマにどう関わるか?
・興味がないテーマ・課題設定をしてしまい身が入らない
・浅い調べ学習で終わってしまう
・専門的な指導ができず手詰まりになる
・専門外のテーマに対して適切に評価、フィードバックができない
・属人化してしまう(熱心な先生がいなくなると質が下がってしまう)
・そもそも先生が忙しくて十分なサポートができない
「探究学習」はこれまで教育の中心だった一斉授業とはある意味、対極をなすものです。どのように生徒に関わればよいのか、効果的なのか、現場では模索が続いています。
探究学習成功のポイントは「外部連携」
これからの時代を考えると、探究学習は必要です。しかし、先生が探究に割ける時間には限界があります。そこで外部の協力機関と適切に連携することがポイントになります。
学習指導要領にも以下のように書かれています。
総合的な探究の時間では,地域の素材や地域の学習環境を積極的に活用することが期待されている。(中略)総合的な探究の時間では,実社会や実生活の事象や現代社会の課題を取り上げるからである。また,この時間では,多様で幅広い学習活動が行われることも期待されている。それは、生徒一人一人の興味・関心に応じた学習活動を実現しようとするからである。
このような学習を実現するためには,教員以外の専門スタッフも参画した「チームとしての学校」の実現を通じて,複雑化・多様化した課題の解決に取り組んだり,時間的・精神的な余裕を確保したりしていくことなどが重要である。
このあたりから、日本舞踊が果たす役割も見えてきます。詳しく説明していきます。
外部連携はどのように行う?
参照:Z会ソリューションズ調査(https://edtechzine.jp/article/detail/6205)
外部連携はどのように行うのでしょうか?
すでに探究を本格的に実施している学校では、地元の企業、地域の商工会や大学・研究機関などと連携してチームで探究を行うケースが多いようです。
また、これから探究を始める学校も、87.0%が何らかの形で外部連携を行う予定としており、うち6割程度が「ワークショップや研修」「講演会」などでの連携を予定しています。
外部連携の事例
外部連携して探究を行った事例を二つ紹介します。横須賀高校は主に学術・教育機関と、川口高校は地域の伝統産業と連携しました。
横須賀高等学校:プリンキピア(Principia)
参照:横須賀高等学校HPより
地元の教育機関と連携している事例です。大学の論文に近い高度な探究を行う生徒もいます。
1年次
三浦半島に研究所をもっている18の研究機関・教育機関とともに課題研究を行う
2年次
研修旅行(北海道など)
3年次
外部研究機関と連携して、学会やコンテストに出るなど外部機関と連携して充実した探究学習を行っている。
参考:地道な働きかけを経て、尖った才能が刺激し合う学校に〜神奈川県立横須賀高等学校〜
川口高等学校:奥会津課題探究プログラム
参照:奥会津課題探究プログラム
1学期
地元で活躍する⽅の講演を中⼼に、⾃然や歴史、伝統⽂化、産業など、 様々な分野から奥会津の魅⼒や課題について理解を深める。
2学期
1学期で⾝につけた知識をもとに、体験活動を通して奥会津地域の魅⼒や課題について探究。
3学期
奥会津地域の⽂化を継承し発展させていくために⾼校⽣ができることを考え、提案する。
生徒の提案(一部)
・奥会津の特産品を使った商品開発(奥会津バーガー、⾚カボチャケーキ)
・外国⼈向け町案内パンフレット
ここに大きなチャンスがあります
探究学習と外部連携、ここに大きなチャンスがあります。
実は、伝統文化は探究テーマとして職業、国際理解、環境、福祉に次いで5位の人気を誇ります。
「Q.あなたの学校における「総合的な学習の時間」、あるいは「総合的な探究の時間」の授業について、今までに取り上げたことのあるテーマをお知らせください」出典:探究学習白書
指導要領改定においても「 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するととも に,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と記載されるなど、伝統教育の重要性が掲げられています。
伝統文化を伝えることは、日本舞踊の得意とするところではないでしょうか?ここから日本舞踊の貢献可能性が見えてきます。
日本舞踊ができること
最も想像しやすいのは、探究テーマに日本舞踊を選んだ生徒がいたら、その生徒の探究活動をサポートすることです。しかし実際にそのような生徒はごく一部でしょうし、ピンポイントで見つけることも難しいでしょう。
そこで、より現実的には、日本舞踊だけでなく、邦楽や書道、茶道といった、ほかの伝統文化ジャンルとタッグを作って、「伝統文化探究サポートチーム」を作り、学校を支援する形が考えられます。
その上で、考えられる学校への協力パターンを考えみました。
①カリキュラム・教材開発
探究学習の計画段階から参画し、伝統文化を探究するカリキュラムや教材開発を学校とともに行う
②課題設定
講演やパフォーマンス披露を通じて伝統文化への興味を喚起し、課題設定の参考に。
③情報の収集や整理・分析
日本舞踊関係者への取材や資料提供を行い、情報の収集や整理・分析に協力。
④まとめ・発表、評価
成果物へのコメントやフィードバック、評価に参加します。
また舞台のプロとして総合表現による発表(劇、踊りの発表など)への協力もあり得るでしょう。
外部連携の注意点
忘れてはいけないことは、このスキームの目的は、伝統文化や日本舞踊を教えることではなく、生徒の探究的な学びを実現することだ、ということです。したがって、以下の3つを外部連携時の注意点として意識する必要があると考えます。
①探究学習のゴールを理解する
文科省は「主体的・対話的で深い学び」を掲げています。探究は知識を習得するのが目的ではなく、「主体的・対話的で深い学び」を通じて生徒自身が社会の中での自分にとって重要な問いを見つけ自ら学ぶ姿勢を身に着けることです。
つまり、日本舞踊を知ってもらうことが第一の目的になってしまってはいけません。あくまで探究の手助けをすることが私たちの役割です。したがって、どのように関わることがベストなのかは、学校とよく相談する必要があります。
②何をどこまでやるかを明確にしていく
生徒の指導は終わりがありません。継続的なサポートを行う場合、極端な話、探究と関係のない質問(資料の作り方など)も飛んでくる場合があります。学校とコミュニケーションをとりながら、なにをどこまでするかを決めていく必要があります。
③チームで探究の成功を目指す
日本の探究はこれから本格的に始まるもので、学校も手探り状態です。担当者が必ずしも積極的ではないケースもあります。スケジュール通り進まない、生徒のモチベーションが安定しないなど、計画通りに行かないことも想定されます。必要以上に献身的に動く必要はありませんが、学校と生徒と場合によっては保護者や地域とチームで知恵を出し合って探究を成功させる姿勢が重要だと考えます。
学校への提案へ向けて行うこと(案)
では、どうすれば伝統文化の専門家として、学校で探究のサポートができるのでしょうか。そのための具体的なアクションを考えてみました。
探究チームの編成
・調査、プログラム作成や学校営業の計画、収支計画の作成など
助成金の調査
・文化庁など助成事業と関連付けられないか
提供できるメニュー・プログラムを作成
・講演、パフォーマンス、ワークショップなどを設計
学校へ提案
探究コンテンツを提供する会社への営業
探究プログラムの実施
ここまでのシナリオを振り返っておきましょう。
いま社会で求められているスキルや資質を養う「探究学習」。しかし現場には課題もたくさんあります。それを解決するカギは「外部連携」です。人気のある探究テーマである「伝統文化」に対し、日本舞踊界が周りの伝統文化産業と手を組んで、「伝統文化探究チーム」を作り、探究を通じて学校教育に貢献する。
これが私の考える「探究学習×日本舞踊」の可能性です。
もし学校への探究コンテンツの提供に興味がある日本舞踊関係者、伝統芸能関係者の方がいらっしゃれば梅澤までお声かけください。ご連絡はこちら。