アンケート結果に見る伝統芸能と労働災害:自由回答編
2025年1月から、フリーランス伝統芸能従事者の労災と安全衛生の実態を把握するべく、アンケートを実施しています。この記事ではアンケート結果の一部を紹介します。
近年報道された伝統芸能関連の事故です。
2012年8月 市川染五郎さんが舞台から転落する事故。
染五郎大けが 舞台から3メートル転落(日刊スポーツ)
2017年10月 市川猿之助さんが公演中に骨折。
市川猿之助さんが左腕を骨折 「ワンピース」公演中に衣装巻き込まれる(産経新聞)
2024年11月 片岡愛之助さんが稽古中に大道具に接触。
歌舞伎の片岡愛之助さん 舞台稽古中にけが あごなど骨折(NHK)
このように、数年おきに大きな事故が報道されています。ニュースにならない事故がもっとたくさん起きていることはアンケートによっても明らかになりました。
アンケートでは、実際に遭ったか見聞きした事故やケガ、ハラスメント例、原因について、すでにしている対策(安全に関する周知や保険など)等を伺っています。対象は日本舞踊、能楽、演奏家、などです。労働災害の事例集として、対策にお役立てください。また、安全対策や労災保険について詳しく知りたい方は、一般社団法人日本芸能従事者協会が各種セミナーや講習会を行っています。
事故・ハラスメントの例
Q. どのような事故を見聞きしましたか?
A.舞台袖で所作台につまずき転倒し意識昏倒
舞台袖は暗く、床から所作台の高さを見誤ると転倒の危険があります。出演者の草履が並び足元が狭くなっていることもあります。「狭い」「暗い」「段差」は特に注意が必要です。
Q. どのような事故を見聞きしましたか?
A.緞帳がおりてきたときにぶつかりそうになった。
多目的劇場(ホール)は、緞帳よりも所作台が前に出ている舞台が多く、当人が所作台の真ん中だと思っても実は緞帳のすぐそばということがあります。もし緞帳にあたってしまうと鉄の棒が頭に降りてきて大けがは免れませんし、最悪の事態もあり得ます。事前の場あたりが非常に重要です。
Q. どのようなハラスメントを見聞きしましたか?
A.女性がセクハラを受けて、耐えられず辞めてしまった。
相手の同意を得ることなく、突然女性に抱きついたり胸を触ったりする行為は、単なる迷惑行為ではなく「犯罪」として、不同意わいせつ罪に問われる場合があります。
このような行いをする人物に対しては、正しい知識と職業倫理を浸透させ、周囲が毅然と対応することが必要でしょう。補足として、業務が原因でうつ病などの精神疾患を患った場合、労災保険の補償の対象となりえます。
Q. どのようなハラスメントを受けましたか?
A.師匠によるパワハラ。暴力・暴言・人格否定ほか(10年以上前)
指導とパワハラの境目はなんでしょうか。厚生労働省はパワーハラスメントを以下の3つを満たすものとしています。
1️⃣ 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
2️⃣業務の適正な範囲を超えて行われるもの
3️⃣身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
(引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf)
私は、最も重要なことは「その人を尊厳を傷つけてはいけない」ということだと思います。ある程度のタフネスが必要という意見があるのも承知していますが、それを確認する方法が尊厳否定であっていいわけはありません。
更衣室について
Q. 更衣室に関して困ったことがあればお書きください
A.女性用更衣室がないことが少なくない
A.着替える場所が無い場所は、予め衣装を着た上で集合する
安心安全な働く環境にはプライバシーの確保が必要です。また男性であればどこで着替えても良いというわけでもないでしょう。現場によってはどうしても更衣室を用意することができない場合もありますが主催者はできる限りの配慮が求められます。
労働災害の原因について
Q.伝統芸能の仕事での 事故や精神疾患の原因は、何だと思いますか?
A.精神疾患について、お弟子さんや保護者のモラルのなさ。
指導者の方で心当たりがある方もいらっしゃると思います。師匠と弟子の価値観の相違ということではなく、一人のモラルのない行動や態度がお稽古場全体に与える影響をしっかり見てコントロールしていかなければならないのが師匠です。伝統芸能の「弟子」とは、替えの利かない弟子でもあり、お客さまでもあるという多面的な顔を持ちます。どのように指導するのか、導くのか、苦慮するケースが見られます。指導者、プロがあまり表だって話題にできない、このようなことも非常に重要な問題です。
Q伝統芸能の仕事での 事故や精神疾患の原因は、何だと思いますか?
A.長時間労働による過労による不注意や、上司からの叱責のされ方等
過労は事故だけでなく精神疾患やその他病気の原因にもなります。労働時間や、連勤の日数上限のガイドラインを設けることで、働きすぎを防ぐ仕組みを作っている業界もあります。実態を把握することで、伝統芸能従事者の安全と労災について、具体的な改善策を考えることができます。
現場をよくするために
Q.現場の状況を良くするために思うことがあればご自由に書いてください
A.各種安全マニュアルの作成と勤怠の明示化
工場や建築現場では安全マニュアルの整備や作業前の指差し確認など安全対策が取られるのが当たり前です。舞台や高座も、場合によっては落下物や高所からの転落などのリスクがあります。また、勤怠を明示することで休憩時間や勤務時間の上限、休日の取得が明らかになり、過労や労働災害を防ぐことにつながります。他の業界の当たり前から学ぶことも必要かもしれません。
引き続き、伝統芸能業界の労働災害の実態把握に努め、原因分析や対策に役立てたいと思います。
アンケートご協力のお願い
この度、フリーランス伝統芸能従事者の労災と安全衛生の実態を把握するべく、アンケートを実施いたします。 伝統芸能従事者の皆様におかれましては、ご協力をお願いいたします。アンケートは無記名式、職種以外は自由回答となっております、お答えいただける範囲でご回答ください。
フリーランスであらゆる伝統芸能に従事している方がご回答いただけます。
・回答時間:約2~9分
・期間:令和7年1月28日〜4月2日(予定)
・ 個人情報の記載は必要ありません
・ 結果は集計後公開・メディア等に提供させて頂く場合がございますので予めご了承下さい
・調査主体:株式会社 生活と舞踊
*一般社団法人日本芸能従事者協会『労災と安全衛生の実態調査アンケート2023』より質問文を引用
https://forms.gle/JZCQEWsB2LiyzPC58

