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日本舞踊を男性がやるとヘンだと思われる矛盾

日本舞踊を男性がやるとヘンだと思われる矛盾

私は男ですが2014年から日本舞踊を始めました。女性が多い業界だとはあまり意識せずに入りましたが、たしかに日本舞踊業界、特に趣味で日本舞踊をやっている人に男性はほとんどいません。なぜ男性は日本舞踊をやらないのか?あるいは、圧倒的に女性に人気があるのか?男が日本舞踊をやるのはヘンなのか。そのあたりを考察してみました。

日本舞踊人口のほとんどは女性

みなさんの周りで日本舞踊をやっている、やっていた、という知り合いがいたらほぼ100%女性でしょう。いなくても「日本舞踊」で画像検索してみてください。出てくるのは美しい衣装を着てポーズを決める「女性」ばかり。言わずもがな、日本舞踊は圧倒的に女性が多い業界なのです。

男なのに日本舞踊やるって、ひょっとして◯◯ですか?

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私の男の日本舞踊仲間が実際に言われてショッキングな言葉に「日本舞踊やるって、ひょっとしてゲイですか?」というものがあります。彼はゲイではありません(質問者は正確にはゲイではなく『トランスジェンダー』の意味で聞かれたのだと思いますが、もちろんそれも違います)。どうやら、女性の着物を着てお化粧ができるから日本舞踊をやっている、と思われたらしいのです。誤解とはいえそのようなイメージが先行するほど、「日本舞踊=女性」のステレオタイプは強力なのです。

なぜか日本舞踊の家元には男性が多い理由

日本舞踊には流派があり家元制をとっています。女性が多い日本舞踊界ですが、流派のトップである家元には男性が多いのはご存知でしょうか。

五大流派の家元は男性、女性どっちが多い?

五大流派と言われる「花柳」「若柳」「藤間」「西川」「坂東」を見てみましょう。

花柳流 花柳壽輔(男性)

若柳流 若柳吉蔵(男性)

藤間流勘右衛門派 藤間勘右衛門(男性)

藤間流勘十郎派 藤間勘十郎(男性)

西川流 西川千雅(男性)

坂東流 坂東巳之助(男性)

ご覧のように男性ばかりです。

Wikipediaにページがある流派は?

それではもう少し広げてみましょう。wikipediaに独立したページがある流派を調べてみました(2018年11月現在。地唄舞などは除き『日本舞踊』の記載があるもののみ調べています)。

日本舞踊の流派一覧 – Wikipedia

吾妻流(あづまりゅう) 吾妻徳陽(男性)

市山流(いちやまりゅう)市山松扇(男性)

扇流 扇梅芳(男性)

工藤流 工藤倉鍵(男性)

五條流 五條珠實(男性)

中村流 中村梅彌(女性)

七々扇流 七々扇花端王(男性)

藤川流 藤川澄十郎(男性)

松本流 松本幸四郎(男性)

日本舞踊の家元の93%は男性?

Wikipediaに項目がある9の流派のうち、8の流派が男性の家元でした。五大流派も合わせると、14のうち13の流派で家元が男性、実に93%が男性という結果になりました。これが全てではもちろんありませんが、多くの家元が男性であることを伺わせます。

男性の歌舞伎役者や振付師が日本舞踊をつくってきた

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日本舞踊の家元に男性が多いのにはその成り立ちに理由があります。もともと日本舞踊は、歌舞伎がルーツにあります。江戸時代、歌舞伎が大ブームとなりました。そのころの歌舞伎役者は踊り手であり振付師でもありました。歌舞伎が盛んになるにつれ、振り付けのうまい役者が、「振付師」として振付のプロフェッショナルとして仕事をするようになりました。

一方で歌舞伎は女性が演じることを禁止されていました。しかし歌舞伎に憧れ、踊ってみたいという女性は大勢います。そんな中、振付師の中で、歌舞伎が好きな庶民を弟子に取り、教え始める人が現れます。これが歌舞伎から日本舞踊が生まれた始まりです。日本舞踊は振付師から生まれた流派、歌舞伎役者から生まれた流派の大きく二つがあります。五大流派の中で最も古いとされる西川流は元は歌舞伎の振付師、花柳、若柳はそこから分かれています。藤間流も振付師の系統です。一方、藤間から分かれた松本流は、歌舞伎役者の松本幸四郎が創始したので歌舞伎役者の流派です。

なぜ日本舞踊は男に人気がないのか?

このように、元々男性社会である歌舞伎にルーツを持つ日本舞踊の世界では、必然的に家元は男性が多いのです。ではなぜ日本舞踊を習う人、愛好する人に女性が多いのでしょうか。家元は男性が多いのにも関わらず、なぜ男性で日本舞踊をする人が少ないのでしょうか。

「習い事」として発達してきた日本舞踊

日本舞踊は江戸時代に端を発し、今まで人気のある習い事です。日本舞踊が女性に多く嗜まれる理由は、この「習い事」として発展してきたという経緯が関係していると考えられます。

男性が日本舞踊を選ばない理由

「日本舞踊家」という職業は存在しますが、私たちは普段目にする機会はほとんどありません。すると男の子、男性にとって「職業」や、「自分からやってみたいこと」の選択肢には入りません。実用的な習い事なら塾があります。やってみたいこと、憧れから始める習い事なら野球やサッカーが先に来るでしょうし、他にも体を動かすならダンスや水泳やその他スポーツがあります。

一方で日本舞踊は「マナーや所作を学べる」という側面があり、親が女の子に習わせたいというニーズがあります。そして、男性に比べて女性は習い事を続けやすい環境にあります。最近は共働きが増えたとはいえ、家庭にいる時間が長い女性は大人になっても続けやすいのです。

そうするうちに女性の日本舞踊人口は増え、「日本舞踊は女性がやるもの」というステレオタイプが生まれたのではないでしょうか。

男性が旗を振り、女性が裾野を広げた

以上のことから、日本舞踊は「男性が旗を振り、女性が裾野を広げた」と言えるかもしれません。日本舞踊の夜明けの頃、日本舞踊を学べるということは、歌舞伎に憧れ、しかし女性であるがゆえに歌舞伎に参加することはできない女性にとって願ってもない機会だったことでしょう。

日本舞踊を男がやるとヘンだと思われる矛盾

いつしか女性のものというイメージが定着した日本舞踊ですが、成り立ちから考えると男性が日本舞踊を行うことに、おかしいことはなにもないことに気づきます。男性こそやるべき、というと言い過ぎかもしれませんが、歌舞伎の世界がそうであるように、男性が力強く踊ってこそ、映える踊り、男性にしかできない表現が数多くあるのもまた事実です。

男性の日本舞踊愛好家が増えるには?

男性目線に立ち「女性らしい所作事を学ぶ」「女性が着飾って踊る」というイメージを脱却して、体を動かすスポーツとしての側面、身体表現というダンスや演劇という側面、日本の伝統や着物を学べるという教養、ファッションの側面さまざまなアプローチが可能ではないかと思います。このあたりはまた別記事で書きたいと思います。

参考記事
【完全版】初心者のための日本舞踊教室探し7つのポイント【社会人対応】