伊勢志賀山流の二代目家元である、志賀山千歳(しがやまちとせ)さんにお話を伺いました。
日本最古の日本舞踊の流派といわれる志賀山流ですが、伊勢志賀山流・二代目家元の千歳さんは新しいことに果敢にチャレンジしています。「志賀山エクササイズ」や「ワイン会」など誰にでも親しみやすい入口を用意し、若いお弟子さんが集まっています。しかしその根底には「伝統を重んじ、日本舞踊の形は決して崩さない」そして「日本舞踊をもっと広めたい!」という強い信念がありました。
小さいころの思い出、家元になって起きた変化、若いお弟子さんを増やした取り組みなどを詳しく伺いました!
志賀山千歳(しがやまちとせ)プロフィール
初めまして、伊勢志賀山流 二代目家元 志賀山千歳でございます。
伊勢志賀山流は、元禄年間に喜多流の能楽師が志賀山流を名乗り、振付師となり、一時期衰えましたが、江戸歌舞伎役者の仲村仲蔵が衰退を惜しみ、後ろ盾となり再び栄えるようになりました。
私は日本の伝統芸能は美学であり、国の宝と思っております。
そして腰は肝心要と書きますが、楽しく健康的に生活するため、大腿筋や腰を鍛えるのにも有効であり、舞を覚え身体を動かすことは精神的、身体的にも有効です。
奥の深い日本舞踊は年齢に関係なく、誰もが歳を重ねる毎に素晴らしい日々を過ごすための必要な素材がたくさん含まれています。
多忙な方にも気軽に月1回〜のレッスンで正統の日舞を伝授しております。
日本舞踊を通じて、皆さまに美的、精神的、身体的に役立つ事をお伝え出来れば幸いに存じます。
伊勢志賀山流について
四世宗家・志賀山普門(ふもん)と舞う「羽衣(はごろも)」

うめざわ
志賀山流は江戸時代から続く、非常に歴史ある流派だと伺っています。千歳さんが家元を務めていらっしゃる「伊勢志賀山流」について、かんたんに教えていただけますか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
伊勢志賀山流は、江戸時代に近江の滋賀より発祥した志賀山流から、初代「志賀山登羅(とら)」が別派を立て、「伊勢」で活動したのが始まりです。
二代目宗家の志賀山伊勢近(いせちか)が戦前戦後、多くの門弟を集め、関西での再興を果たしました。
その折に、私の母親が初代の家元を賜り、その後五代目宗家となり、現在に至ります。
伊勢志賀山流の特徴・・・能を起源とするため、振り付けは古典の中でも特に古格を守る伝承があります。その第一がナンバ歩きで、ナンバ歩きとは右手と右足、左手と左足を同時に出す古来の歩き方ではありますが、志賀山流の振り付けにはほとんどこの振りが取り入れられております。
また、独自の作品として「志賀山三番曳(舌出し三番曳)」「仲蔵狂乱」などがあり、その他にも「汐汲」の小道具に市女笠を使うなど、独自の型を持っています。(伊勢志賀山流HPより)
「好き」と思う前からお稽古
長唄「橋弁慶」で牛若丸を演じる子供時代の千歳さん(右)。左は五世宗家(お母さま)

うめざわ
お母さまが先代家元でいらっしゃいますから、千歳さんが日本舞踊を始めたのは、やはり自然な流れだったんでしょうか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
そうですね。3歳くらいから、「好き」と思う前からお稽古していましたね。初舞台は6歳で「羽根の禿」を踊りました。
家にひのきの舞台がありまして、そこでお稽古をしていたのを覚えています。学生の頃は、その舞台を「ぬか」で拭き掃除をするのが私の日課でした。

うめざわ
足腰が鍛えられそうですね!

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
そうですね笑
「花ざかり」5代目宗家と

うめざわ
子どものころの印象的な思い出などはありますか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
家元を継いで「日本舞踊を広める」意欲が

うめざわ
踊りの家に生まれた千歳さんですが、流派を継ぐ、ということも最初からお決めになっていたんですか。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
実は、最初は流派を継ぐことは難しいと思ってたんです。主人が文楽のお囃子関係の仕事をしておりますので、そのサポートなども必要ですから、両方はちょっと難しいかなと。歌舞伎の世界でもありますよね。
ですが時代とともに徐々にそういう風潮も薄れてきまして、母も高齢になってきたので、私が跡を継いで家元になることを決めました。

うめざわ
実際に流派を切り盛りする立場になってみていかがですか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
自分の稽古場を持ち、教える事にますますやりがいを感じる一方、日本舞踊を広めることにも意欲的になりました。
日本舞踊は徐々に下降気味になってきてしまって、若い人で日本舞踊を知らない方が増えてきましたよね。
「知らないから、私には関係ないし」みたいに。残念ですよね。日本のものが、どうしてそうなっちゃったのかな、と思います。
悩んだ末・・・考案したエクササイズが若い人に受け入れられた
なんばスタジオでの稽古の様子。男性のお弟子さんも多い

うめざわ
具体的に普及のために取り組まれたことはありますか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
若い方に日本舞踊について聞くと「敷居が高すぎて」とおっしゃることが多くて。それで悩んだ時期もありました。
これからは若い人にも来てほしいと思うと、誰でも入りやすくする必要があります。そこで日本舞踊の基礎を応用した、体幹を鍛えられる舞踊エクササイズを作ったんです。そうすると、実際に若い方がちょっとずつ増えてきました。

うめざわ
どんなエクササイズなんですか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
お着物を着て、曲に合わせて舞の動きをするんです。
舞は腰が肝心ですよね。腰のすわりができていないと、そもそも舞はできません。エクササイズは、その腰のすわりを鍛えられるようになっています。
もともと志賀山流の稽古では、最初に歩き方の稽古をするのですが、エクササイズはそれを発展させたようなものです。

うめざわ
なにか特別なものではなく、あくまでその延長には日本舞踊のお稽古があるということですね。
エクササイズとして楽しむ方もいれば、そこから本格的に日本舞踊に入ってこられる方もいらっしゃるということですよね。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
そうですね。みなさん、日本舞踊に興味を持つ以前に、日本舞踊はなにがあるのか全然わからない、とおっしゃるので、そのわからないところを面白くお話する、興味を持たせるのが大事ですね。
例えば、歴史にも直結してるんですよ、とか、道成寺って本当にあるお寺なんですよ、とか、着物にも興味を持ってもらうためにみんなで京都に出かけたりだとか。着物を着たら所作が必要ですから、そういうのも一緒に教えてあげて。
着物で京都懐石ツアー&茶道お手前体験
なんと半数が男性!なぜ多い?
なんばの稽古場「なんばstudio salon shigayama」。稽古場は帝塚山にもある

うめざわ
どんなお弟子さんがいらっしゃるんですか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
幅広いですね。男女は半々くらいです。

うめざわ
男性が多いのは珍しいですね!

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
そうですね、30代くらいの男性が多いので、ちょうど、うめざわさんくらいでしょうか?
うめざわさんは、なぜ日本舞踊を習われましたか?

うめざわ
そうですね、もともと落語が好きだったり、剣道部に入っていたり、和のものは好きだったんです。
社会人になって仕事が落ち着いたタイミングでなにか習い事でも・・・と思ったときに、身体は動かしたい、でも剣道みたいに激しいのは続かないかもしれない、というところで日本舞踊にたどり着きました。

うめざわ
あと当時、販売の仕事をしていて、先輩ですごく売る人がいたんですが、その方が身振り手振りを交えてお話するのが上手な方だったんです。
見た目でもすごく人を惹きつける方だったので、そういうところも踊りで身についたらいいなと思いました。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
まさに、うめざわさんと同じようにおっしゃる方、すごく多いですね。
ビジネスマンの方で、身近な人から「日本舞踊をやってると品があがるよ」と言われて興味を持たれた方とか。その他には、仕事の一つとしてエクササイズのインストラクターを目指している方などもいます。
ワイン好きが高じて・・・ワイン会が日本舞踊の入り口に?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
教室を知ってもらうきっかけとしては、定期的に開催している「ワイン会」があります。
もともとお弟子さんとお稽古のあと食事に行ったりすることが多いんです。そこで私がワイン好きなので、スタジオでお弟子さんたちとワイン会をするようになりました。そのワイン会を、外の人も参加できるようにしています。
そこでお弟子さんから日本舞踊の話を聞いて「じゃあ私もやってみようかな」と興味を持っていただき、体験につながる方もいます。

うめざわ
面白いですね。ワインから入って、日本舞踊に興味を持ってもらう、そうならなかったとしても、ワイン会はワイン会として楽しめる。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
「敷居が高い」日本舞踊の世界に、フランクに触れられることが若い人に知ってもらうきっかけになっている
フランクでも、日本舞踊の形は崩さない!

うめざわ
エクササイズやワイン会など、かなりお弟子さんとの距離感が近くてフランクな印象を受けます。実際にお稽古するときのこだわりはありますか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
エクササイズやワイン会など新しいことも行っていますが、「伝統」の内容は変えません。
接するのはフランクですが、伝統を重んじるものとして、品位を保つ、日本舞踊の形は崩さない。これは絶対ですね。
新型コロナウィルスの影響は・・・できることをやる準備期間

うめざわ
2020年から新型コロナウィルスの影響が大きいと思いますが、どう取り組まれていますか。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
いまは未来への準備期間だと思っていますね。緊急事態宣言中はしませんが、その合間には、会える人には会い、交流会に参加するなどして、地道に宣伝を続けています。おかげさまでコロナの期間もお弟子さんが増えました。
お稽古やエクササイズは集団ではできないので、いまはすべてマンツーマンです。
会社から行くことを止められている方や、県外など遠方でどうしても来られなくて長期でお休みされている方もいるので、それは少し寂しいですよね。
これからやりたいこと、メッセージ
スペインのToledoで舞を披露(2018年)今後は海外やインバウンドにも積極的に関わっていきたいという

うめざわ
これからやっていきたいことはありますか?

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
まだできていない、おさらい会を行いたいですね。
例えばパーティ形式で、おさらい会をしたあとにお客様も一緒にみんなで食事も楽しむとか。
そして今後は教えられる人や、個性を活かして、舞踊家さんとして舞台に立てる人を増やしていきたいと思っています。

うめざわ
このお稽古場らしいおさらい会になりそうですね。
最後に、日本舞踊に興味をもっている方に、メッセージをお願いします。

志賀山千歳(しがやまちとせ)さん
日本舞踊は歴史にも触れられるし、着物を着て変身して、自分を変えることもできます。
まずは、一度体験していってほしいですね!

うめざわ
本日はありがとうございました!
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