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AIロボットが日本舞踊を評価!ディストピアか世界への懸け橋か?金沢工業大学の最先端研究に迫る~扇流家元・扇梅芳さん~

AIロボットが日本舞踊を評価!ディストピアか世界への懸け橋か?金沢工業大学の最先端研究に迫る~扇流家元・扇梅芳さん~

大阪を拠点とする日本舞踊・扇流(おうぎりゅう)。扇流は今、金沢工業大学とともに前代未聞のプロジェクトに取り組んでいる。それは、AIによる「日本舞踊自動採点プロジェクト(正式名称:伝統芸能テックプロジェクト)」だ。

金沢工業大学HPより

一言でいうと「人間の踊りを評価できるAIを作り出す」という計画だ。というと、

・そんなことできるわけないよね
・機械に踊りの上手、下手がわかるわけないよ
・芸術に点数をつけるなんて・・・
・機械の名人を作るっていうの?

どこからか、そんな声も聞こえてきそうだが・・・

俺の日本舞踊はこのプロジェクトに興味を持ち、扇流家元・扇梅芳(ばいほう)さんに取材を申し込んだところ、快く引き受けていただくことができた。

・プロジェクトはどこを目指しているのか?
・なぜこのプロジェクトが始まったのか?
・どうやってAIが踊りの判定をするのか?
・否定的な意見はなかったのか?
・いまプロジェクトはどこまで進んでいるのか?

など、徹底的に取材した。

日本舞踊人口が減っていく一方、習い事やエンターテイメントの選択肢は増え続けている。そんな中、日本舞踊も時代に合わせた変化が求められているのではないだろうか?

「日本舞踊」と「AI」という、伝統芸能と技術の出会いで、そのきっかけが生まれるかもしれない。そんな可能性を感じるプロジェクトだ。

機械には無理だと思われている「踊りの評価」をいかにして実現しようとしているか、このプロジェクトの意義など、できる限り分かりやすく解き明かしたつもりだ。

だから、このプロジェクトに興味がある人も、抵抗を感じている人も、ぜひ読んでほしい。

まず、このプロジェクトの概要を説明しておこう。

伝統芸能テックプロジェクト

金沢工業大学クラスター研究室と日本舞踊・扇流を中心としたプロジェクト。日本舞踊をカメラなどの機材で撮影し、その踊りを自動的に採点することを最終的な目的としている。人の動作を認識できるデバイスを使い、プロと素人の踊りを比較して、科学的見地から踊りの良し悪しを判断できるシステムの開発をめざしている。

クラスター研究室で日本舞踊自動採点プロジェクトを立ち上げ。日本舞踊「扇流」家元の協力のもと、心理科学科やロボティクス学科、情報工学科などの学科横断で取り組む(金沢工業大学HPより)

学科横断的なプロジェクトで、心理科学、ロボティクス学科、情報工学、経営情報学、体育教員、医療機器販売会社など幅広いメンバーが集まり研究を進めている。

それでは、さらに踏み込んだ話を、プロジェクトの中心である扇梅芳(ばいほう)さんに聞いていこう。

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うめざわ

はじめまして、うめざわです。今日はよろしくお願いします。

扇梅芳(ばいほう)さん

よろしくお願いします。
扇梅芳(おうぎばいほう)プロフィール
1981年:大阪芸術大学芸術学部に入学
1983年:二代目家元である扇梅之助に内弟子として師事、日本舞踊を本格的に修行
1984年:扇梅之助師の取り立てにより「扇幸次郎」として名取となり、家元の代稽古を始めるなど後継者として活動
1987年~:扇流師範として大阪市内・大阪府下を中心に、東京・神奈川・神戸・名古屋・高松・京都・奈良・群馬の各地に舞踊教室を順次開設
2001年:新日本舞踊清流初代家元である清育重(清派音羽流家元尾上菊清)亡き後、二代目家元清育重の名跡を継承
2001年12月~:各流派師範を対象に、本部家元稽古場にて舞踊講習会を開催
2010年:舞踊講習会奈良教室を開設
2010年:宗家尾上菊五郎師の許しを得て、三代目家元扇梅芳を襲名し、扇流を継承

AIロボットが日本舞踊を評価!?

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うめざわ

「AIが日本舞踊を評価」と聞くと、なんだかとんでもないもののように感じてしまいます。

そこでまず、完成したときのイメージというのは具体的にどのようなものかを聞いてみたいのですが。

扇梅芳(ばいほう)さん

カラオケで歌うと、機械が歌を採点してくれるものがありますよね。

あのように、カメラの前で踊るとAIがそれを判定して、ゲーム感覚で点数が出たりというところから、さらに進めば、体幹軸がどれくらいズレているとか、歩幅がどれくらい違うとか、そういった評価ができるようになると思います。

金沢工業大学の教授のおっしゃるには、心理的な評価、例えば「悲しそうな表現ができているか」などの評価も、かなりのサンプルが必要になりますが、物理的には可能だということです。

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うめざわ

なるほど!イメージはわかりました。

コンクールの審査をするような高度なものではなく、日本舞踊初心者を対象に、基礎的な動きや基本的な踊りの評価を目指しているということですね。

ただ、どういう仕組みなのか、複雑な踊りの判定を本当に機械でできるのかなど、まだ疑問もあります・・・。

医療業界では当たり前になりつつある研修方法が刺激

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うめざわ

ええと、技術的なところはあとで詳しく伺うとして、そもそも梅芳さんは、なぜこのプロジェクトを始めることになったのか、そのきっかけを教えていただけますか?

扇梅芳(ばいほう)さん

最初のきっかけは2019年、医療業界の友人と話をしていたときのことです。

医療業界では「eラーニング」というものができつつあって、それで看護師さんのトレーニングなどをしているんです。

eラーニング(イーラーニング)とは・・・インターネットや動画を利用した学習形式のこと。最近ではオンライン学習などとも呼ばれる。

扇梅芳(ばいほう)さん

それで、古典芸能でもオンラインで稽古したり、映像でレクチャーしたりできるんじゃないかということで協力をお願いしたんですね。

この話を友人の会社とつながりのあった金沢工業大学の人に持ちかけたところ、面白そうだということで、教授陣と話をしたら、十分可能性がありますよ、一緒にやりましょう、ということでプロジェクトがスタートしました。

扇梅芳(ばいほう)さん

最初は映像やオンラインで稽古、くらいのことを考えていたのですが、金沢工業大学さんとの出会いで「AIプロジェクト」になりました。

AIによる評価は、複雑なところまではできないにしても、始めたばかりの人にかんたんなアドバイスなどを、多くの人、それこそ無数にできる可能性があります。

踊りを一人で教えるのには当然、限界がありますので、私としてもぜひ、ということでプロジェクトがスタートしました。

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うめざわ

なるほど。医療業界からヒントを得られたんですね。大学の研究者の方から興味を持ってもらえるというのも、日本舞踊の関わるものとして、なんだか嬉しい気持ちです。

さて、そこで気になるのは肝心の、踊りの評価の仕組みですが・・・

気になる「踊りの評価」はどうやって行われる?

扇梅芳(ばいほう)さん

ベテランの先生と生徒さんの踊りを比べたときに、体幹軸や足の裏への体重のかかり方などがどう違うのか、また見る人の心理的な評価、力強いだとか、弱いだとかがベテランの先生と生徒さんでどうなるのか、どう違うかなどを分析して評価の可視化をしていくんです。

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うめざわ

なるほど。「踊り」と「その踊りを見た人の評価」を見比べて、どの動きがどの評価につながったのか、など「動きと評価の因果関係」を明らかにするというイメージですね。

プロジェクトの一部

動きを解析するために動画を撮影

映像を元に踊り手の動きを解析・評価する

踊りの評価(感性評価)はスケルトン映像を見て、38の形容詞(『楽しい』『寂しい』『鋭い』『厳かな』など)を使って38×5段階で評価を行う。

評価軸(評価因子)で全員に共通したのは「力強さ」。家元だけ「力強さ」に加えて「軌道と姿勢」「静的」という評価軸が存在した。専門性の有無によって評価軸が異なることが想像される。

ここから先は、評価軸ごとの得点の高い人の動作解析を行うことで、評価軸に対応した動きの特徴を明らかにすることができる。

つまり「力強い」と判断された人の動きを解析すると、どの動作が「力強い」という評価に関係していて、さらにその動作の特徴はなにか、ということが分かっていく。

・・・プロジェクトの様子が少しはイメージできただろうか?

とはいえ、まだ少し雲をつかむような話に聞こえるかもしれない。

そこで、具体的なプロジェクトの進捗を聞いてみた。

ここまでの成果は・・・!?

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うめざわ

実際、いまプロジェクトはどの程度まで進んでいるのでしょうか。

扇梅芳(ばいほう)さん

「体幹」「足裏への体重のかかり方」ということを中心に分析をしていて、 軸足の向きと体の向きの相関関係が大切、ということが分かってきました。

なお、プロジェクトではこの評価軸は必要だ、これは必要ない、こういう項目を加えたほうがいいんじゃないか、どれくらいの厳密さでやろうか、など試行錯誤しながら進めています。

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うめざわ

「軸足の向きと体の向きの相関関係」ですか!そこまで具体的にわかってきているんですね。

スポーツ、楽器にも応用の可能性

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うめざわ

今後もかなり期待できるんでしょうか?

扇梅芳(ばいほう)さん

金沢工業大学の学生さんの中にも、このテーマを卒業論文にしたり、この研究で院に進んで研究することを決めてくれている人もいます。

また、日本舞踊以外にも、身体を動かすものは全て、例えば楽器やスポーツにも応用できます。伝統芸能でいえば、将来的にお能や太鼓や三味線などの和楽器にも活用できるのではないかと思います。

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うめざわ

ありがとうございます。スポーツなど、これから企業スポンサーがついてもおかしくないですね。可能性を感じます。

ここで、聞きにくいのですが、あえて質問させてください。

このようなプロジェクトに対しては、機械に踊りの良し悪しを判定させるなんて、などの否定的な意見の方もあるのではないかと思います。そのような方や意見に対してはどのようにお考えですか?

扇梅芳(ばいほう)さん

そんなものじゃない、とおっしゃる先生もいらっしゃると思います。必要としない先生もいらっしゃると思いますし、それは承知の上で私もやっています。

私もなにも「機械の名人を作ってやろう」というわけではなくて。

扇梅芳(ばいほう)さん

むしろ、日本舞踊を世界に広めるための一つの方法になるのではないかなと思っています。

いまは扇流がプロジェクトの中心なので、うちのスタイルでの評価になっていますが、あるていど研究が進んだら、これにいろんな流派の先生にプロジェクトに加わってもらって、いろんな視点がミックスされて、よりよいスタンダードが出来ていく、それを使って日本舞踊を世界に広めていく、というようなことができるといいと思います。

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うめざわ

「機械の名人」を作ろう!なんていうとマッドサイエンティストのようですが、プロジェクトの内容や評価の具体的な仕組みなどを伺うと、全然そういうものではないこともよくわかりました。

AIは評価基準がないと判断できませんが、それだけにいろんなサンプルが集まれば、流派を超えた日本舞踊のうまさ、美しさのようなものが見えてくるかもしれませんね。

そして、逆に流派の個性がより明確になることもあるかもしれないですね。

海外展開の可能性なども非常に面白いです。

扇梅芳(ばいほう)さん

AIでものすごく高度なことをやろうというよりも、日本舞踊において重要な基本動作、腰を入れるとか、上下の動きだとか、体幹軸の傾きだとか、名人になっても大切になるところを見れるようになるといいのではないかと思っています。

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うめざわ

お話を聞かせていただき、AIプロジェクトの具体的な内容がわかり、また活用方法もイメージできました。プロジェクトが今後も広がりを見せて、よいものができるといいですね!これからも楽しみにしています。

本日はどうもありがとうございました!

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