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長唄「吾妻八景(あづまはっけい)」歌詞と解説

長唄「吾妻八景(あづまはっけい)」歌詞と解説

日本舞踊、お座敷長唄としても有名な、長唄「吾妻八景(あづまはっけい)」の歌詞と解説です。

吾妻橋

長唄「吾妻八景」の解説

江戸の名所、風物を季節の変化も織り交ぜてうたいあげた、お座敷長唄の名曲。お座敷長唄とは、もともと歌舞伎の伴奏、つまり舞踊曲として生まれた長唄が、舞踊という制約から離れて単独の芸術作品として作曲されたものです。

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東都江戸橋日本橋(安藤広重)

新春の日本橋から富士山を臨むところから始まり、江戸時代からの桜の名所御殿山(品川)、船に乗って隅田川から浅草へ(宮戸川は隅田川の浅草周辺の旧称)。

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東海道品川御殿山ノ不二(富嶽三十六景・葛飾北斎)

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浅草川大川端宮戸川(安藤広重)

ここから吉原へ入っていきます。「忍ぶ文字摺(しのぶもじずり)」は、百人一首にも出てくる表現。元に意味は乱れ模様の衣のことですが、恋によって乱れた心と、列をなして飛ぶ様が「雁字(かりじ)」と文字に例えられる雁にかけて表現しています。そう、江戸の雁の名所と言えば吉原。

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よし原日本堤(名所江戸百景・安藤広重)

「忍ぶが岡(浅草橋)衣紋坂(吉原へ向かう坂。吉原へ向かう客が着物を正したことがこう呼ばれるようになった)など地名や洒落を巧みに織り交ぜて、上品に表現します。名所巡りの終点は上野。東叡は寛永寺の山号です。美しい紅葉に心洗われ「吾妻八景」を振り返ります。

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東都八勝 上野晩鐘(錦江斎)

文政 12 年(1829年)、四世杵屋六三郎により作曲。「秋の色種 (いろくさ) 」と並んで、お座敷長唄の双璧と言われております。

長唄「吾妻八景」の歌詞

実に豊かなる日の本の橋の袂の初霞 江戸紫の曙染めや 水上白き雪の富士 雲の袖なる花の波

目もと美し 御所桜御殿山なす人群の かおりに酔いし園の蝶 花のかざし を垣間見に 青簾の小舟 唄う小唄の声高輪に

遥か彼方のほととぎす 初音かけたか羽衣の 松は天女の戯れを 三保にたとえて 駿河の名ある 台の余勢の弥高く 見下す岸の笩守り 日を背負うたる阿弥陀笠 法のかたえの宮戸川 流れ渡りに色々の 花の錦の浅草や 御寺をよそに浮かれ男は 何地へそれし矢大神 紋日に当る辻占の 松葉かんざし二筋の 道のいしぶみ露踏み分けて 含む矢立の隅田川 目につく秋の七草に 拍子通わす紙砧

忍ぶ文字摺乱るる雁の玉草に 便りを聞かん封じ目を きりの渡に 棹さす舟も いつ越えたやら衣紋坂 見世清掻に引寄せられて つい居続けの朝の雪 積り積りて情の深み 恋の関所も忍ぶが岡の 蓮によれる糸竹の 調べゆかしき浮島の 潟なすもとに籠りせば

楽の音共に東叡よりも風が降らする花紅葉 手に手合わせて貴賤の誓い 弁財天の 御影もる 池のほとりの尊くも 廻りてや見ん八ツの名所