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日本舞踊コンクール、大人は推奨、子供にはフォロー。多様な評価が生まれる土壌を

日本舞踊コンクール、大人は推奨、子供にはフォロー。多様な評価が生まれる土壌を

✅目標としてコンクール出場を検討している
✅コンクールで入賞して実績を作りたい

この記事ではコンクールのメリットとデメリットを考えることを通じて、適切なコンクールとの付き合い方、コンクールの代替案を考えます。

この記事の内容
・コンクールのメリット
・業界としてのコンクールのメリット
・コンクールのデメリット
・コンクール参加時のポイント
・コンクール以外の選択肢はあるのか?

2022年、日本舞踊協会 東京支部城西ブロックが、ジュニアコンクールの開催を発表しました。

今年の城西ブロックは、新たな試みに挑戦します!
新宿区、中野区、練馬区、杉並区、都下、の五地域から成る城西ブロック。
通年は、皆で集まり舞踊会を行っておりますが、
今年は「城西サロン公演」として各区それぞれが企画した催しを行うことになりました!
区ごとに趣向を凝らした内容となっております。
詳細は随時アップいたしますのでどうぞお楽しみに🎵
そして本日は中野区のサロン公演についてのお知らせです。
中野区は「城西ジュニア舞踊コンクール」を開催いたします。
小学生の部
中学生の部
アンダー22の部
の三部門で出場者を大募集いたします。
詳しくは応募要項をご覧ください。
募集は3/1より開始しております。
締め切りは6月末日です。
お問い合わせは
josai@dance-holic.com
までお願いします!
皆様のご応募、お待ちしております😊
#日本舞踊 #日本舞踊協会 #城西ブロック #城西サロン公演

全国規模の日本舞踊コンクールは現在、日本舞踊協会主催の「各流派合同新春舞踊大会」と、東京新聞主催の「全国舞踊コンクール」があります。過去には日本舞踊社の「みそみ会」などのコンクールもありましたが、その数は減っています。その中にあって新しいコンクールの創設には期待がかかり、私も楽しみにしています。

コンクールに参加することはモチベーションにもつながりますし、切磋琢磨できる仲間との出会いもあります。入賞すれば大きな自信につながるでしょう。中長期的に業界を盛り上げ、技術向上や、人材交流による活性化も期待できます。

一方でデメリットがあるのも事実です。「勝利至上主義」の罠に嵌ると、健全な自己評価が難しくなり、表現の喜びを感じられない、自分で目標設定できない、なども弊害も起こり得ます。そもそも日本舞踊という芸術に、コンクールはそぐわない、という意見もあります。

日本舞踊コンクールの可能性に期待を込めて、今日はコンクールについて一緒に考えましょう。

大人は推奨。子供にはフォロー。多様な評価が生まれる土壌を

総論として、私はコンクール推奨派です。

個人的な体験として、高校から社会人まで合唱で地方大会から全国大会までコンクールに参加してきた経験があります。その中で全国金賞を獲得したこともあります。中学時代には剣道部で県大会出場を目標に日々活動していました。コンクールや大会に育てられた、という思いもありますし、参加のプロセスで成長できたり、仲間との結束を深めるなど、そのメリットを実感しています。

一方で弊害も感じています。コンクールで上位を目指すことは、評価を他者に委ねることであり、健全な自己評価を損なう可能性があります。せっかく一位を取っても、その後の目標を見失う人もいます。これは典型的な評価の他者依存の弊害です。

また、コンクールには付きものなのが「競争」。競争が持つ力をうまく利用できるといいのですが、勝利至上主義の罠に嵌ると、表現の喜び自体を感じられなくなってしまう恐れもあります。

私も、こう言った傾向に染まっていた時期があります。特に芸術において表現の喜びを感じられないのはとてももったいないことです。

そうならないために、特に子供には、家族や指導者の適切なフォローが必要だと考えます。コンクールの結果を絶対視することなく、自分なりに昇華すること、結果以外の部分(努力したプロセス、自分なりの表現ができたこと、など)をきちんと評価することなどです。また、必ずしも画一的な評価だけではなく、多様な評価が生まれることも求められると考えます。

2021年に行われた東京オリンピックでは「空手の型」が注目を集めました。

空手の型▼

第21回世界空手道選手権大会 女子個人「形の部」決勝(宇佐美里香さん)

これまでの勝負の形とは違う「型」が感動を生んだのは、肉体的な強さで優劣をつけるのではなく、自分の心と体にとことん向き合い、自分との戦いに勝つ、という種の強さが、多くの人の共感を集めたからではないでしょうか。このように、空手という武道(スポーツ)においても評価の軸は複数存在し、それぞれに価値があるものなのです。

おさらい会ではない場で、プロや観衆の目にさらされる、他の出場者の表現に触れたりすることは、評価の多様性に気づくきっかけにもなりますし、とても良い経験になるはずです。

そして、コンクールには業界を盛り上げる効果もあります。たくさんの人が目標にしてコンクールに参加すれば、長い目で見て業界全体のレベルアップにもつながるでしょう。

それでは、コンクールのメリットとデメリットをまとめましたので解説していきます。

コンクールのメリット5つ

1.明確な目標ができ、モチベーションが上がる
2.競い合うことで成長する
3.仲間ができる
4.プロからのフィードバックが得られる
5.技芸の質の保証になる

1.明確な目標ができ、モチベーションが上がる

コンクールに大なり小なり権威性があり、そこで入賞することは「権威を獲得すること」を意味します。それは日本舞踊界の中での一定の評価を確立することにつながりますから、コンクールに出場することは大きなモチベーションにつながります。

いきなり俗なことを言ってしまいましたが、それ以外にも、コンクールという明確な目標ができることでモチベーションが上がる側面もあります。「コンクールまでに、ここまで仕上げるんだ」という目標が決まれば、いわゆる「締め切り効果」でさらにモチベーションが上がります。

2.競い合うことで成長する

コンクールは競争の側面を持ちます。順位がつくため、「負けたくない」「ひとつでも上の順位を獲りたい」と思うものです。競争を意識するあまりそれがストレスになったり、ライバルに敗れたときには大きなストレスになってしまう恐れもありますが、競争の正の側面を捉えた「切磋琢磨」という言葉もあります。競争心をうまくコントロールできれば、成長の大きなきっかけになります。

3.仲間ができる

切磋琢磨に通じますが、コンクールには仲間との出会いもあります。

同じ日本舞踊教室に通う人でも、目的はそれぞれです。マイペースで楽しみたい人、技術的に高みを目指したい人、将来舞踊を仕事にしたい人・・・コンクールには技術的に高みを目指したい人が集まります。同じ動機を持ってがんばる人は、ライバルであると同時に、理解し合える仲間にもなりえます。

コンクールで出会えなくても、コンクールに出場した、コンクールに向かって努力した、という経験を共有するだけでも、距離が縮まります。

4.多様なフィードバックが得られる

コンクールに出ることは、技能の向上に貢献します。その一つが多様なフィードバックです。プロ(審査員)からのフィードバックを得られることで、自分の舞踊に対して多角的な評価を知ることができます。プロだけではなく、「観客賞」のようなタイプのフィードバックもあり得るでしょう。時には、相反する評価が得られることもありますが、それをどう消化するかということもまた、学びになります。

5.技芸の質の保証になる

コンクールに出場する、入賞することは一定の技芸の質の保証になります。自信にもつながりますし、仕事をする際にアピールポイントにもなり、実質的に役に立つものの一つです。

業界としてのコンクールのメリット2つ

ここまでは個人にとってのメリットを書いてきましたが、業界としてもコンクール開催のメリットはあります。

1.世間からの注目が集まる

これは業界としてのメリットです。コンクールやコンテストのような「競争による順位付け」は注目されやすいものです。

一例を挙げると、「M-1グランプリ」がお笑い界に与えた影響は大きいですよね。元々のお笑いファンだけではなく、それほど興味がなくてもその話題をテレビやインターネットで見た人も多いのではないでしょうか。

すべてのコンクールが注目されるわけではありませんが、業界としてメディアへのアピールなどはしやすくなると考えられます。

2.技術の底上げにつながる

コンクールを目標にする人が増えれば、より一層、技術の向上に励む人が増えますので、中長期的に技術力の底上げにつながることが期待されます。

一方で、あとで詳しく触れますが、若年層では過度のコンクールへの最適化、競争環境に置くことのデメリットも懸念されますので、すべての人に一律に推奨すべきものではないかもしれません。

コンクールのデメリット3つ

ここからはコンクールのデメリットにも触れていきます。主に3つです。

1.健全な自己評価を損なう可能性がある
2.過度の勝利至上主義が弊害を生む
3.内発的動機を損なう恐れがある

コンクール入賞を熱心に目指すあまり、コンクールの評価を内在化してしまう危険があります。「内在化」とは、あるものを、自分の内面に取り込むことです。ここでは、コンクールの評価を絶対視するあまり、自分で自分のことを健全に評価できなくなることを指します。

つまり、コンクールで好成績だからあの人は良い、コンクールで入賞できなかった、参加していない人は劣っている、というような評価を持ってしまうこと、そして自分への評価も、コンクールの評価に依存してしまうことです。

コンクールの評価は、多様な評価可能性の中の一つにすぎず、指標の一つにはなっても、絶対視することは明らかな間違いです。しかしコンクールの権威性が高まれば高まるほど、この罠に陥る可能性があります。そして、本人だけではなく、指導者や家族など周囲の人がこの罠にはまり、本人の自己評価能力を育むことを妨げる危険性もあります。

子供には特に注意が必要です。自己評価の仕方がまだ分からない内に、外部の評価を内在化してしまう危険性は、周りの大人が十分注意して避けなければならないでしょう。

2.過度の勝利至上主義が弊害を生む

コンクールでの競争が加熱すると、過度な勝利至上主義が生まれるリスクがあり、そこから様々な弊害が生まれます。

行き過ぎた指導

過度な勝利至上主義は、行き過ぎた指導を生む恐れがあります。例えば、過度に生徒を叱責したり、早朝、夜間、休日など長時間の指導を強いたりすることです。

文科省の中央教育審議会は、以下のようなコメントを出しています。

大会やコンクールで勝つことのみを重視し過重な練習が行われることのないよう,勝利至上主義を助長するような大会等の在り方の見直しを進めることも重要

2022年には小学生の柔道全国大会が廃止されました、その理由は”行き過ぎた勝利至上主義が散見される”というものでした。関係者によると、指導者が子どもに減量を強いたり、組み手争いに終始する試合があったそうです。さらには判定を巡り指導者や保護者が審判に罵声を浴びせることもあったといいます。全柔連幹部は「大人が、子どもの将来ではなく、眼前の勝敗に拘泥する傾向があった。見つめ直す契機にしてほしい」と語っています。

このように、勝利そのものが目的になってしまい、非合理的、また倫理的に問題ある活動を行ってしまっては意味がありません。スポーツや武道と、日本舞踊は違うという意見もあると思いますが、コンクールの弊害については中高で盛んな吹奏楽など芸術分野でも指摘されており、共通点も多いと言えます。

3.内発的動機を損なう恐れがある

コンクールの存在が大きくなりすぎるあまり、自分にとっての日本舞踊の楽しみとは何か?何のために稽古しているのか?といったことを見失う危険もあります。

これは「評価を他者にゆだねてしまう」リスク同様、動機(モチベーション)を他者にゆだねてしまっている状態です。内発的動機がない表現活動に、果たして意味を見出せるでしょうか?

コンクール参加時のポイント5つ

ここまで、コンクールのメリットとデメリットを見てきました。コンクールに参加する以上は、メリットは積極的に受け入れ、デメリットをなるべく避けるよう注意しなければなりません。その際の考えるポイントを挙げておきます。本人のみならず、特に子供を教える指導者はこれらのことに敏感になり、ときとして適切に導くことが重要になります。

1.他者評価より自己評価を大切にする
2.競争相手は「敵ではなく仲間」
3.多様な評価観点があることを理解する
4.コンクールの入賞は目的ではなく手段
5.子供はまだまだ発展途上である

1.他者評価より自己評価を大切にする

コンクールは他者から評価を受け、それに順位がつくものです。しかし、自己評価をより大切にすべきです。

コンクール参加にあたり、稽古のプロセスで自分は何を克服したいのか、舞台で何を表現したいのか。そして、終わった後、どう成長できたか、次の課題はなにか、を振り返るなどコンクールを通じた自己評価にこそ、着目すべきでしょう。

2.競争相手は「敵ではなく仲間」

コンクールに競争はつきものです。それを良いモチベーションにするためには、他の参加者をどう捉えるかもポイントとなります。

「敵」と捉えれば、「どう足をひっぱろうか」「どうにかして貶められないか」という「妬み」や「嫉妬」につながります。

「仲間」と捉えれば、「あの人を超えたい」「あの人も頑張っているから自分もさらに努力しよう」といった「憧れ」や、「なにくそ」といった自分を鼓舞する感情につながります。

3.多様な評価観点があることを理解する

コンクールは専門家である審査員が評価をくだします。しかしその評価は、数ある評価可能性の中の一つにしかすぎません。審査員が変われば評価が180度変わる、といったことも珍しいことではありません。もちろんだから意味がないというわけでもありません。コンクールの評価だけを絶対視せず、しかし同時に貴重な評価として受け入れ、自己評価に活かすことこそ重要でしょう。

4.コンクールの入賞は目的ではなく手段

コンクールで勝利を目指すことに価値はあります。しかし、勝利にしか価値がないという考えは偏っています。

勝利を目指すプロセスにおいて何を行うのか、目的ではなく成長のための手段、楽しむための手段、と認識することが重要です。

5.子供はまだまだ発展途上であると心得る

心身の発達の面から考えても、子供は特にフォローが必要です。

まず心の面で、ここまで説明してきた、健全な「自己評価」や「モチベーション」などをコンクールに依存させないように配慮することが必要です。周りの大人の役割が重要なのは言うまでもないですが、大人自身が勝利至上主義にとらわれないよう、注意を払うがあります。

体の面でも、子供は体の成長スピード、技術の習得度合いに個人差が大きく、実力の差が比べにくいものです。体の使い方も子供と大人では違うため、子供の時にコンクールに最適化された訓練を受けることが、大人になってからの成長を妨げる可能性もあります(これらの点については元陸上選手の為末大さんの発言を参考にしています)。

コンクール以外の選択肢はあるのか?

コンクールにはメリットもデメリットもあります。参加する際のポイントも紹介しましたが、すべてのデメリットを避けることはできません。コンクールのメリットを活かしつつ、別の方法でイベントを開催することはできないか、最後にそれを考えてみました。

1.エキシビジョン方式
2.人気投票方式

1.エキシビジョン方式

「エキシビジョン(Exhibition)」は公開演技、模範演技を意味する言葉です。フィギュアスケートの世界大会などで、競技終了後に行われているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。審査はなく、競技のような緊張感はありませんが、選手がとても楽しそうに滑り、観客もそれにのって楽しむ光景が印象的です。当然、エキシビジョンには順位が付きません。だからこそのびのびとした演技ができるのでしょう。

日本舞踊においては、エキシビジョン出場までになんらかの出場者の選抜を行うが、本番であるエキシビジョンでは順位をつけず、ただその人の表現を披露して観客に楽しんでもらう、という形式などが考えられると思います。

小学生柔道の全国大会廃止のニュースを紹介しましたが、地方大会は廃止されたわけではありません。柔道連盟も、大会のすべてを否定しているわけではないのです。

つまり、コンクール的要素は残しつつ(例えば、地方コンクール上位者がエキシビジョンに出場、のように集団として選抜するが、その中で最終順位はつけない)、全員の順位を付けないことで過度な勝利至上主義に陥ることを避けられます。このような形式は、芸術・日本舞踊としても有効な見せ方になるのではないでしょうか。

2.人気投票方式

人気投票は、ランキング形式であることに変わりはありませんが、基準が「専門家の評価」から「聴衆の投票」に代わります。

専門性の評価が相対化され、「観客ウケ」の比重が増します。技術一辺倒ではない、多様な表現の可能性が生じるメリットもあります。ポイントは、イベントとしてコンクールとは違う演出をどう行うか、ということ。適度に肩の力が抜けたり、お遊び要素があったり、といったエンターテイメント要素も必要かもしれません。

人気投票は、AKBや、それにインスパイアされた「総選挙系キャンペーン」の数々の盛り上がりを見れば、その熱狂度はコンクールに負けないポテンシャルがあるのがわかります。

まとめ

コンクールの順位づけは熱狂やモチベーションを生み、業界の人気、技術の底上げにもつながり得るものです。しかし、それは外的要因に依存し、勝つことが目的化し、自己評価を一時的にせよ放棄し、全面的に他者に委ねることにつながりかねないリスクをはらんでいます。

特に子供に対してはメリット・デメリットをよく理解した上で周りの大人のフォロー、運用面での工夫が必要だと考えます。また、違う形式のイベント形式の模索も、今後あり得るのではないでしょうか。

とはいえ、大きなポテンシャルを秘めた「コンクール」というイベント。今後、多様なコンクールが生まれ個人の成長機会や、業界の活性につながることが期待されます。

参考サイト
学校吹奏楽におけるコンクール参加の意義-スポーチコーチングからの考察(西田治)
大会をやめれば子供は勝負弱くなるのか(為末大)
新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(中央教育審議会)
小学生の柔道全国大会廃止 「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」(朝日新聞)
各流派合同新春舞踊大会(日本舞踊協会)
全国舞踊コンクール(東京新聞)
全国舞踊コンクール入賞者インタビュー「日本舞踊はやっぱり面白い!」~内田悠介(うちだゆうすけ)さん~

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