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長唄「藤音頭」歌詞と解説

長唄「藤音頭」歌詞と解説

長唄「藤娘」の挿入曲としても知られている曲です。

ひとりの女性が、松にからみつく藤の花を見て、それを、好きな男性にまとわりつく女性に重ね嫉妬している、という解釈をしてみました。

長唄「藤音頭」解説

藤の花房 色よく長く 可愛いがろとて酒買うて 飲ませたら

うちの男松(おまつ)に からんでしめて

(現代語訳)藤の花をきれいに、長く咲かせてかわいがろうと思って酒を買ってきて与えたら、クロマツにからまって

男松はクロマツのことですが、男性の比喩です。

てもさても 十返(とかえ)りという名のにくや かへるといふは忌み言葉

(現代語訳)それにしても、十返(とかえ)りという名前は「帰る」という言葉が入っていて憎らしいことだ。「帰る」なんて言葉は嫌いだよ。

十返(とかえ)りは「松」のこと。松は百年に一度花を咲かせ、千年に十回花を咲かせるという故事から。

花ものいわぬ ためしでも 知らぬそぶりは 奈良の京

(現代語訳)花はものを言わないのが当たり前。だからって男に絡みついておいて知らないそぶりはないんじゃないかい?

「奈良の京」は奈良の京(みやこ)で平城京のことか。これは「(知らぬそぶりは)ならぬ」にかけたものと思われます。

「うちの男松にからんでしめて」を受け、恋人に絡んできたのに、知らないそぶりをするなんて、と腹を立てていると解釈しました。

杉にすがるも 好きずき 松にまとうも 好きずき

(現代語訳)杉にすがるのも、松にまとうのも。好き好きだけど。

ここも、藤の花のことを言いつつ、同時に女性の比喩でもあります。

好いて好かれて 離れぬ仲は 常磐木の
たち帰らで きみとわれとか おお嬉し おおうれし

(現代語訳)常磐木のように、好き合って離れない仲はあなたと私のこと。帰らないでいてくれるなあんて、ああ嬉しい。

常盤木は常緑樹のことですが、松のことを指す場合が多い。「立ち帰る」は、戻る、引き返す、などという意味です。

作品情報

作詞者 岡鬼太郎
初演情報 初演年月 昭和十二年(1932年)
役者 六代目尾上菊五郎
劇場 歌舞伎座(藤娘の一部として)

長唄「藤音頭」歌詞

藤の花房 色よく長く 可愛いがろとて酒買うて 飲ませたら

うちの男松(おまつ)に からんでしめて

てもさても 十返(とかえ)りという名のにくや かへるといふは忌み言葉

花ものいわぬ ためしでも 知らぬそぶりは 奈良の京

杉にすがるも 好きずき 松にまとうも 好きずき

好いて好かれて 離れぬ仲は 常磐木の

たち帰らで きみとわれとか おお嬉し おおうれし