長唄「風流陣」歌詞と解説

長唄「風流陣」歌詞と解説

日本舞踊で人気の長唄「風流陣」の歌詞と解説です。

風の中の花 歌川豊国

長唄「風流陣」解説

春に咲き誇る梅、桜、桃と、それを散らす嵐との風流な戦(陣)を描いた作品です。

四代目杵屋勝太郎作曲、初代若柳吉蔵振付、山岸荷葉作詞。

風流陣のそもそもの意味

花の精と嵐の戦を「風流陣」と呼ぶとは、なんとも趣のあるタイトルですね。

「風流陣」とは「風流」な「戦(陣)」という意味で、発祥は今から約1,300年前の中国、「唐の玄宗と楊貴妃」の時代にさかのぼります。

玄宗は名君でしたが、王妃・楊貴妃に溺れ、それによって内乱を招き王座を奪われてしました。したがって男性が自らの地位を投げ出して傾倒してしまうほどの美人を「傾国の美女」と呼ぶのは、この楊貴妃が始まりと言われています。

さて、「風流陣」とは玄宗と楊貴妃が考えた遊びで、部下の女官たちを100人ずつ二手に分け、花を持たせて戦わせたもの、と言われています。その美しい様子はしばしば絵画のモチーフにもなる一方、快楽にふける玄宗と楊貴妃の逸脱の象徴としても語られます。

長唄「風流陣」は日本の花の名所を織り込んだ幻想の世界

長唄「風流陣」は、そんな中国の故事とは関係なく、あくまで美しくかわいらしいメルヘンとして描かれます。

春の宴を催す花の精と、それを散らそうとする風の神。花の精たちは一計を案じ、風の神の首に鈴のついた縄をかけます。ようやく宴を開いた花の精たちですが、その匂いを嗅ぎつけた風の神は・・・。力づくで縄を引きちぎり、暴風を吹かせて再び暴れまわります。

暴れまわる風の神、右往左往する花の精たち、これからどうなる・・・?というところで幕となります。

江州志賀は、いまの滋賀県大津市、月ヶ瀬は奈良県で梅の名所。伏見(京都市)は江戸時代、桃の名所で吉野の桜と双璧をなす存在でした。

作詞者の山岸荷葉は明治時代の小説家で、尾崎紅葉の元で学び、読売新聞社では劇評も担当していました。教養ある人で書家としても名声を得、英語にも堪能で、この時期、歌舞伎をしのぐ勢いで成長していた現代演劇「新派」が上演した「ハムレット」の翻訳を行ったりしています。

長唄「風流陣」歌詞

これは江州志賀の山桜にて候
天下泰平豊なる
御代の春とて今日ここに
月ヶ瀬の梅 伏見の桃も参会し…
うちぞ床しき話し声

さて人の世の たとえにも
月には仇な雲の影
我に敵の小夜嵐
昨日はつらい冬籠り
やっと木の芽の春寒に
かたい莟(つぼみ)の
頬かむり
忍んで咲いた花の色
恋も情けもわけ知らぬ

嵐の爪にかきむしられ
霙や雪と散り散りに
塵の浮世を捨小鉢
これも誰ゆえ大風を
何がな術して罠にかけ
捕らえた後の高枕

花の夢見て仲良しの
中にも梅が年かさの
分別ありて取り出す
朱のたずなに金銀の
鈴も鳴子と小山田の
桃に桜が身を隠し
梅が案山子の竹の弓
いざ来よ 風よ大嵐
目にものみせてくれんずと
用意おさおさ待ち受くる

そもそも是は大空に住む嵐とは我が事なり
我が勢いの猛くして
春は花咲く万木(ばんぼく)も
唯ひと吹きに粉微塵
あわれ果敢(はか)なき最期の様
眺めて今日も楽しまんと
翼をひろげ驚かす

大地に何やら
あ痛しとこりゃどうじゃどうであろ
耳驚かす鳴子の数
響くとすれば深紅のひも

千筋の縄にまつわりて
もがけばなおも苦しみの
不動の索(ざっく)や是ならん

勝鬨あげて花の樹共(きども)
祝いの杯とりどりに
拍子合わせて舞い連(つ)るる

興に浮かれてざざんざの
唄より匂う酒の香に
嵐は鼻をうごめかし
こらえかねたる怒りの眼(まなこ)
魔性の力えいうやっと
深紅の縛(いまし)めひきちぎり
進退自由となりたれば
はじめにまさる通力の
雨を地に呼び 雲立ち向かえ
虚空に火を吐く如くにて
暴(あ)れに荒れたる勢いに
元よりかよわき花房の
あなやとばかり泣き叫び
肝魂も梢に添わず
山中越えの裏道より
逃ぐるをやらじを嵐の翼
追いつまわしつる花吹雪
風流陣ぞめざましき

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