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清元「文売り」歌詞と解説

清元「文売り」歌詞と解説

清元「文売り」歌詞と解説です。

清元「文売り」解説

曲のおおまかなストーリー

「文売り」という、恋文を売り歩いている女性が、廓で起こった二人の太夫(遊女)の悋気争い(嫉妬・やきもちによるケンカ)を語って聞かせるという内容です。

語りの前半は勝美という太夫と男性のやり取り、後半は、ライバルの「小田巻」が登場して、勝美と激しい恋の争いが繰り広げられます

二人の女性のいさかいは、荒唐無稽なドタバタ劇として描かれており、曲の前半との対比が印象的です。

登場人物

文売りの女性
文売りとは、懸想文(けそうぶみ)という恋文を売る仕事。ここでは、ストーリーテラーの役割を果たしています。この女性が、廓の太夫の恋の争いの物語を語ります。

勝美
廓の太夫。文売りの語る物語の前半では、勝美と客の男性との逢瀬と別れのシーンが語られます。

小田巻
勝美のライバルの太夫。勝美の客に恋文を送っており、勝美にその客をゆずれと迫ります。

勝美の応援に集まってきた人々
遣手(やりて)、引船(ひきふね)、仲居(なかい)、飯焚(ままたき)出入の座頭按摩とり 神子(みこ)山伏に占(うら)やさん。意味は後述。

舞台は、百人一首でもおなじみの、「逢坂(おおさか)の関」。そこに一人の文売りがやってきます。

「サアこれは色を商う文売りでござんす 私の商う文の数々は宵の睦言(むつごと)まだなことマア聞かしゃんせ」

冒頭からこのセリフまでは文売りの踊りです。

「宵の睦言まだなこと」・・・宵の睦言とは、男女がむつまじく交わしあう言葉。ここからも、色っぽいムードが伝わってきます。

やがて、廓の物語が始まります。

勝美太夫と男の客の、いじらしくも仲睦まじいやり取りが続きます。「初の逢瀬の後朝(きぬぎぬ)の」とは「初めて一緒に夜を明かしたそのあくる朝に」という意味。ここまでは順風満帆。

しかし、そこへ不穏な空気が・・・

恋のライバル、傾城(けいせい)・小田巻の登場です。傾城は遊女のこと。遊女に夢中になりすぎると、城を傾ける(城を持つ大名であろうと、その財産を失う)ほど散財してしまう、という例えからきています。

「同じ廓におだまきと云う傾城(けいせい)が毎晩送る文の数々」

「これ勝美さんいやなお方にはほれやせぬ 今までお前が大事にしたアノさんを今から私に下さんせ」

なんと小田巻は、これまで勝美太夫のいい男に、大量の手紙(もちろんラブレター)を送っていたばかりか、返事がないのに腹を立て、顔を真っ赤にして、勝美に直接「その男を私にゆずれ」と言ってきたのです。

これでひるむ勝美ではありません。

「これおだまきさんとやら くだまきさんとやら せつかくお前のごむしんじゃがもう百年もたった後 松葉をそえて主(ぬし)さんあげよう」

つまらない管(くだ)を巻くんじゃない、と「小田巻(おだまき)」に管巻きをかけて、軽くいなし、100年たったらそうしてもいいよ、と返します。

「松葉を添えて」というのは、当時、進物を送るのに、進物を松葉で結んだりしたことから。今でいうと「のしをつけて」のようなニュアンスでしょう。いずれにしても「お前なんか相手にしてないよ」という雰囲気です。

ここで小田巻もさらにヒートアップ。前半の色っぽい雰囲気はどこへやら。廓全体を巻き込んで、上を下への大騒ぎとなります。騒ぎを聞きつけて、

遣手(やりて。廓の中で遊女ら働く人を監督する女性。)、引船(ひきふね。引舟女郎とも。太夫に付き添って客席を取り持つ遊女)、仲居(客をもてなしたり、何かと用事をする女性)、飯炊き係りといった廓に勤める人だけでなく、座頭、按摩さん、巫女さん、山伏まで、勝美に加勢しに集まってきます。

なお本作に、「勝美に加勢」のような記述はありませんが、原作にあたる人形浄瑠璃「嫗山姥(こもちやまんば)」には、「こっちの太夫さんにひけをつけては叶ふまい。加勢をや」「太夫様の仕返し」という記述があり、先に仕掛けてきた小田巻に負けじと集まってきた様子が分かります。

慌ててきたので、片足は雪駄、片足は下駄で来る人、草履がけという人もいます。二人の喧嘩は、打ち合い、つねり合い、お酒の入ったお銚子や鍋などもひっくり返し、雷のような騒音に「くわばらくわばら」お経を唱える人もあり。

猫が馬のような大きな鼠をくわえて飛び出してくる、屋根でイタチが踊っている、など、どんどん荒唐無稽でハチャメチャな様子になります。

最後は場面が再び逢坂の関に戻って、これが逢坂の関に伝わる物語だよ、と締めて幕となります。

懸想文(けそうぶみ)とは?

明治期に描かれた懸想文売り(年方)

「懸想(けそう)」は、異性に「想い」を「懸ける」こと。懸想文は恋文、つまりラブレターのことです。なぜラブレターを売っていたのかというと、昔は字が書けない人が多かったから。

一説によると、金銭的に困った貴族が、顔をかくして懸想文売りをしていたそうです。貴族は教養が高いため字を書くことは何でもないことですが、庶民は字が書けない人も多かったのです。

赤い着物を着て梅の枝に刺した懸想文を売り歩いたとのこと。やがて、ラブレターとしてではなく、お正月の縁起物として売られるようになっていきます。

元になった話もやっぱりハチャメチャ

清元「文売り」ができるまで

清元「文売り」は井原西鶴の「嫗山姥(こもちやまんば)」という人形浄瑠璃が元になっています。

その中に、元・傾城の八重桐という女性が、高貴な方の館に入れてもらうために、廓の傾城御用達の祐筆(遊女に変わって恋文を書く仕事)だと偽って、屋敷に上がり、昔話として、過去の自分と小田巻という傾城とのいさかいを語る、というシーンがあります。

原作にあたる、嫗山姥でも後半のドタバタ騒ぎは、ほぼ同じなのですが、「三味線を踏み抜いた」とか、「鼻血が一石六斗三升五合五勺(約300リットル)出た」とか、原作にしかない描写もあります。

原作が気になる方はこちら「嫗山姥・廓噺の段」(鶴澤八介氏HP)

元禄時代から続く「しゃべり」の技法

八重桐が自分の思い出を語って見せる様子は、「仕形咄(しかたばなし。身振り手振りを豊富に加えた話)」、「しゃべり」などと呼ばれ、元禄時代から続く技法です。

「文売り」の直接の出所は、歌舞伎の「花紅葉士農工商(はなもみじしのうこうしょう)」です。

「花紅葉士農工商」の番付。左下に傾城姿の文売り

初演の絵本番付から、逢坂の関で士農工商の様々な身分の人が、芸を披露して関所を通る、という趣向だったと推測され、「商」の部に、坂東三津五郎演じる文売りが傾城姿で登場し、「嫗山姥(こもちやまんば)」のしゃべりを「文売りの芸」として演じたと考えられています。

「文売り」は一体誰?

さて、ここで、清元の文売りのストーリーテラーである文売りは、どこの誰なのか?という疑問が湧いてきます。

まず、八重桐ではなさそうです。「嫗山姥(こもちやまんば)」の「文売り」は元・傾城八重桐ですが、「花紅葉士農工商」では関所を通る「文売り」が、廓話を語って聞かせるという趣向になっているからです。

日本舞踊では「元・遊女の文売り」という解釈で演じられることが多いようです。

また、歌舞伎で「文売り」が出されるときは「文売りの少女」として登場することもあるようです。

坂東三津五郎を尊重するなら、元・傾城ということになりますし、演出を変えて別のキャラクターにすることもある、ということのようです。

どのような人物として描かれるかは、振付を見ればわかりますので、いろんな流派の文売りを見てみたいですね。

作品情報

作曲者 本屋宗七または松本幸治
作詞者 初代・清元斎兵衛(さいべえ)
初演情報 初演年月 文政三年(1820年)
役者 三世・坂東三津五郎
劇場 江戸玉川座
本名題 花紅葉士農工商(はなもみじしのうこうしょう)
大道具 網代塀に梅の木など(初演は逢坂山の関所ではないかともいわれる)
小道具 梅の枝(結文付き)、梅の小枝、紫風呂敷包(浅葱紐付き)、草履(浅葱緒)、朱らほきせる(流儀に依り)
衣装 着付 浅葱地に反故染、黒繻子襟付き
帯 黒繻子、丸帯、結び
襦袢 切りつぎ紫地の丸じばん、浅葱襟
小裂 白のしごき、浅葱羽二重、山付手甲、帯上げ(白)
かつら つぶし島田ぼうし付

清元「文売り」歌詞

同じ身過ぎもさまざまに 目出度(めでたき)き春の懸想文(けそうぶみ) これは恋路を売り歩く 文玉章(たまぐさ)の数々は口説(くどき)上手に惚上手 又は相(あいぼれ)惚片思い 縁(えにし)の種を結び文 これも世渡るならいかや

(文売り)
「サアこれは色を商う文売りでござんす 私の商う文の数々は宵の睦言(むつごと)まだなことマア聞かしゃんせ」

流れ忙(せわ)しき憂き勤め替る夜毎のその中に 惚れた男の意地悪う オットよしても暮れの鐘 その手で深みへまた俺をかける心と見てとった どりやと立つのを引きとめて 今日は取り分いろいろと 言う事聞くことたんとある その約束で今朝早うござんす筈(はず)を憎らしい
初に逢瀬の後朝(きぬぎぬ)に送る出口の嬉しさを 心に思う有りたけを 云い交わしたを何ぢゃいな 野暮な口舌(くぜつ)の只中へ 降って傍(わき)から只一人

「同じ廓におだまきと云う傾城(けいせい)が毎晩送る文の数々」

三万三千三百三十三本程ゆびに曲輪の文使い 返事のないに腹立ちて 顔に紅葉の打掛を とって脱ぎ捨て私が傍(そば)

(小田巻)
「これ勝美さんいやなお方にはほれやせぬ 今までお前が大事にしたアノさんを今から私に下さんせ」

貰いに来たとずっかりと こっちも日頃の癇癪酒

(勝美)
「これおだまきさんとやら くだまきさんとやら せつかくお前のごむしんじゃがもう百年もたった後 松葉をそえて主(ぬし)さんあげよう」

あだ莫迦(ばか)らしいと言いざまに 突きのくはづみにばたばたばた 縁から下へ落ちの人 あご痛みと泣出(なきい)だす騒ぎの声に小田巻が 遣手(やりて)引船(ひきふね)仲居(なかい) 飯焚(ままたき)出入の座頭按摩とり 神子(みこ)山伏に占(うら)やさん せつた片しに下駄片し 草履がけで来るものもあり 台所から座敷まで太夫(たゆう)さんの仕返しと 爰(ここ)では打ち合い 抓(つね)り合い 銚子 かん鍋踏返し そりゃこそつなみが打混ぜて 隠居が子を生むヤレ取上げて ソレ鰹節よ摺鉢(すりばち)よ ぐわらぐわらぴしゃりと 鳴る音に桑ばら桑ばら観音経(かんのんぎょう) 秘蔵な小猫が馬程な 鼠を喰わえてかけ出すやら家根(やね)では 鼬(いたち)が踊るやら 神武(じんぶ)以来の悋気(りんき)争(いさか)い此事(このこと)世上(せじょう)に知られけり よどまぬ水に月影も暫(しば)しと留める逢坂(おおさか)の関に残せし物語りいさましかりける次第なり

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