【取材】皆様の思い描く舞台のお手伝いを。日本舞踊・大道具の世界~株式会社かのう舞台美術・鹿野秀教さん~
日本舞踊の大道具の会社「株式会社かのう舞台美術」の鹿野秀教さんにお話を伺いました。
20歳で家業の会社を継ぐと決意、歌舞伎俳優養成所での修業、歌舞伎俳優としての活動を経て、いまは大道具のお仕事で全国を飛び回っていらっしゃいます。
普段、あまり見聞きする機会のない「日本舞踊大道具の世界」、ちょっと覗いてみませんか?
かのう舞台美術の美しい舞台背景の数々
鹿野秀教さん プロフィール
株式会社かのう舞台美術 専務
20 歳で家業を継ぐ事を決意
翌年から勉強のため国立劇場歌舞伎俳優養成所に入所
25 歳で歌舞伎役者から家業に戻る
35歳まで日本舞踊を学ぶ
現在、家業の大道具会社、株式会社かのう舞台美術を経営
日本舞踊、新舞踊の舞台を裏から支える
お仕事風景
-「かのう舞台美術」のお仕事について教えてください。
日本舞踊、新舞踊等の大道具を製作して舞台に飾る仕事です。
主に市民会館や文化センター等で、日本舞踊や新舞踊の教室を開かれている先生や、舞踊家として活動している方の舞踊公演、リサイタル、お浚い会、発表会等の舞台セットを飾ります。同業者に大道具を貸し出すこともあります。
20歳で家業を継ぐ決意、歌舞伎俳優を経て今に至る
-鹿野様のご経歴について教えてください
歌舞伎俳優時代のお写真
私は子供の頃から休みの日にはトラックの助手席に乗って、仕事を手伝いに行くことが多かったので、いつかこの仕事をするのかなと思っていました。
「よし、やるぞっ!」と覚悟を決めたのは20歳の時です。仕事を手伝っていたとはいえ、日本舞踊の知識はなく、外で勉強しなければならないと思い、翌年から国立劇場の歌舞伎俳優養成所に入所しました。
歌舞伎の世界にいる期間は、同期や先輩方にも恵まれて、本当に楽しいものでしたが、25歳の時に自分が築き上げたい生きる道がしっかりと見えたので家業に戻りました。その後日本舞踊は35歳まで勉強し、今に至ります。
ちなみに後日、大道具の仕事で、研修生の時に毎日通っていた国立劇場に入らせていただいた時は何とも言えない感情になりました。
全ての舞台に新鮮な気持ちで臨む
見切りを運ぶ鹿野さん(左)/会社の倉庫(右)
-大道具のお仕事の魅力はなんですか?
舞踊会を開催するホールによって、広さや仕込み方、美術バトン*の数や位置が違うのと、まったく同じ舞踊会はほとんどありませんので、その都度、新鮮な気持ちで望めること、日本各地に行けることです。
*美術バトン ホール・劇場などの舞台に設置されている昇降するパイプ状の装置で、主に各種の幕類や看板、舞台美術のセットなどを吊るして使用するもの。
今では笑い話。大雪でとんでもないことに・・・
-お仕事の中で、一番苦労された思い出はなんですか?
写真はイメージ
とある舞台のお仕事で出張したとき、本番の前日が仕込みと舞台稽古の日程で、舞台稽古をしている時から雪が降り始めて夜には大雪になりました。
私の分のホテルは帰れなくなった職人に譲っていたので、搬入口に停めてあるトラックの中で寝ようと決めたのですが、警備員さんから、ネットカフェをすすめられて、大雪のなか2時間歩き、朝6時まで4時間過ごし、また2時間かけてホールに戻りました。
開演は10時半だったのですが、電車もタクシーも止まってしまい、出演者も含めほとんどの職種の裏方が来る事ができず、できる演目からの順で12時半の開演に決まりました。ホテルを譲った職人は3時間歩いて、12時には来てくれて、最初のうちは2人で大道具をしていました。会が進むにつれてスタッフも集まり何とか終演を迎える事ができました。
終演後にトラックの雪かきを始め、積み込みをしたので大変だった思い出があります。今ではスタッフ同士の笑い話になっています。
心に残る舞台:お弟子さんたちに慕われる先生のお人柄に触れて
-お仕事をされる中で、最も心に残っている舞台を教えてください。
お世話になっている先生から、福島県の猪苗代にあるホールに、大道具を持って一人で来てほしいとの依頼がありました。
スタッフは町の方やお弟子さんの旦那さんや親せきの方ということでしたので、最初は心配でしたが、皆さん年下の私を一生懸命手伝ってくださって、お土産など用意していただいたり、会話の中で、皆さんが先生の事をお好きなことが伝わってきて、先生のお人柄を感じることができました。本当に楽しい時間でした。
やりがいは舞踊家の方の力になれることと、人間関係の広がり
-この仕事をしていてよかったと感じる瞬間は、どんなときですか?
私達の飾った舞台を、舞踊家の方に喜んでいただいて、少しは力になれたかなと思うことと、新しい人間関係が広がっていくことです。
日本舞踊を楽しむ方、先生へのメッセージ
お仕事風景
-最後に、日本舞踊を楽しむ愛好者の方、教室の先生方へのメッセージをお願いします。
-愛好者の方へ:必ず自分に合う先生がいます
私は仕事柄、いろいろな流派の舞踊の先生にお会いすることがあります。
皆さん謙虚でやさしい方が多いです。ホールを借りてお稽古をする時には、ホールを使える時間が決まっているので、時間が足りなくなることもあります。そのような時に、先生は「私の分の時間はいいからあの子にやらせてあげて」と言います。お弟子さんも先生の優しさを感じている方が多いと思います。まるでファミリーのようです。自分の事だけではなく、いつもお弟子さんの事を考えているから、この先生には人が集まるのだろうと感じます。
もしこれから日本舞踊や新舞踊を始めたいと思われるかたは、必ず自分に合う先生がいると思います。
-日本舞踊教室の先生方へ:皆様の思い描く舞台のお手伝いを
いつもありがとうございます。まだまだ未熟者ではありますが、皆様の思い描く舞台の、お手伝いができたらと思っております。よろしくお願い致します。
-本日はどうもありがとうございました!
株式会社かのう舞台美術さんのHPには大道具のお写真が多数、掲載されています。
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