【コロナ禍の2020年を振り返る#3】稽古場は心のよりどころ、踊ることはアイデンティティ。覚悟を決めて踊りと向き合う~白鳥佑佳~

うめざわ
新型コロナウィルスに振り回された2020年。そして、2021年5月には3度目の緊急事態宣言が出され、新型コロナウィルスの影響はまだしばらく続きそうです。
ここで、悩みながらも、さまざまな活動をされてきた先生と一緒に、この一年を振り返ってみたいと思います。
まだこれからも何が起こるかわからないことばかりですが、この一年、先生たちがどのように悩み、考え、行動されたのかを知ることで、未来のヒントが得られるのではないかと思います。
・お稽古場とはどのような場所であるべきか?
・舞踊家にとって踊ることとは何か?
今日は、コロナ禍において、このようなことに悩み、そして行動されている先生をご紹介します。
白鳥佑佳さんの日本舞踊教室「薫乃会」は緊急事態宣言で一時休止に。「お稽古場は心のよりどころ」と再開するも、毎年夏に行っていた浴衣会は中止せざるをえませんでした。
しかし白鳥さんは「踊っていない自分は自分ではない」という強い気持ちに動かされ、2020年12月から毎月、季節にちなんだ舞踊を披露する小規模な会を開いています。
新型コロナウィルスの影響下で、舞踊家としての在り方、お稽古場の在り方について悩まれ、行動されてきたプロセスを伺いました。

うめざわ

白鳥さん
よろしくお願いします。

白鳥佑佳(しらとりゆうか)プロフィール
・花柳流師範
・3歳より日本舞踊をはじめる
・宝塚音楽学校首席入学
・宝塚歌劇団花組所属。宝塚大劇場、新宿コマ劇場など大舞台を多数経験
・退団後はダンス講師や子供のためのダンスプログラム開発、子供ミュージカルのプロデュース、ファッションショーの演出、国内外での公演など多方面で活躍
・日本舞踊教室「薫乃会」主宰
・東久邇宮文化褒賞受賞
・令和元年「白鳥佑佳」として活動開始
稽古場は心のよりどころ、踊ることはアイデンティティ。みんな腹を括(くく)ろう

「薫乃会(かおるのかい)」のみなさん(2019年浴衣会にて)
お稽古場は「心のよりどころ」

うめざわ
まず、去年の緊急事態宣言の頃から振り返っていきたいのですが、あの当時はいかがでしたか。

白鳥さん
緊急事態宣言中はお稽古場は閉めておりまして、私が踊った映像を「見るだけでいいから」と渡して自習してもらっていました。緊急事態宣言が明けた6月からお稽古を再開しました。
ここはお稽古場によって考え方がいろいろあると思いますが、アナログな人間の私はリモートのお稽古はどうしても受け入れられず、むしろ、お稽古場くらいは、できるだけ今まで通りに過ごせる場所にしたいと思って再開しました。

うめざわ
お稽古を再開したことに関して、お弟子さんたちの受け止めはいかがでしたか?

白鳥さん
もちろんこういう状況ですから、お弟子さんがどう考えるかとのバランスが大事です。でもみなさん来てくださいました。
お弟子さんたちも「こういう状況の中でも、お稽古できてよかった」と言ってくれて。
自分にとっても、お弟子さんにとっても、お稽古場が「心のよりどころ」、「心落ち着ける場所」であると感じました。まだ先が見えない不安もありましたが、よかったな、と。

うめざわ
以前、私も取材でお邪魔しましたが、毎年行われていた浴衣会の開催は見送られましたね。

白鳥さん
そうですね。ただ逆に良かったこととして、これまでは1年お稽古して浴衣会で踊って次、だったのが、ずっと同じ踊りをお稽古していますので、さらに深くお稽古ができていることです。
深くなってきたからこそ、今までできなかったことができるようになったり、お弟子さん自身もこれまで気が付かなったことに自ら気づけるようになったり、習熟度が増してきたことはよかったことですね。
アイデンティティが崩壊する!?

長唄「鶴」(2021年1月)
2020年12月から毎月踊りの会を開催している(東京都台東区蔵前・神谷舞台にて)

うめざわ
そして、12月からは毎月の踊りの会がスタートします。これをされようと思ったきっかけは何ですか?

白鳥さん
私は教えているだけだと物足りなく感じてしまうんです。決して、教える事に手を抜いているわけではないのですが、あらためて振り返ると「人前で踊ってないって、舞踊家としてどうなの?」って。
踊っていない自分は全然自分らしくない。踊らないと自分が壊れていく・・・「踊らなければ」という気持ちが、だんだん強迫観念のようになってきて。

白鳥さん
自粛期間中は人生で初めて、納期の決まっている踊りがない状態でした。
昔、忙しかった時は、常に踊りのことで頭がいっぱいで「頭空っぽになりたい!」って思っていたのに、いざそうなってみると、だんだん頭が空っぽになっていくのが怖かったですよね。

白鳥さん
「とにかく自分は踊らないと、このままではアイデンティティが崩壊してしまう。少なくとも年内には絶対に一度踊ろう」
ということで12月から踊りの会をスタートしたわけです。
これまでの開催実績
2020年12月~四季の移ろい 師走の風景~長唄「黒髪」、長唄「竹の四季」
2021年1月~新春 寿ぎの風景~長唄「宝船」、長唄「鶴」
2021年2月~春の兆し 初花月の風景~長唄「夢」、清元「うぐいす」
2021年3月~揺れる乙女心 夢見月の風景~常磐津「紅売り」、清元「折紙」
2021年4月~春爛漫 櫻づくしの風景~長唄「嵯峨の春」、荻江節「鐘の岬」
2021年5月~託された願い 吉祥文様の風景~長唄「鶴亀」、清元「青海波」
2021年6月~夏越月 水辺の風景~長唄「都鳥」、大和楽「城ヶ島の雨」(予定)

お客様に良いものを見てもらうために・・・やることは会の規模に関わらず同じ

荻江節「鐘の岬」(2021年4月)

うめざわ
会の開催にあたって、苦労された点、悩まれた点はありますか?

白鳥さん
まず、会場も人数制限があるので、大人数は呼べません。
でも、10人しか呼べないなら、5回やろう。そうすれば50人の方に見てもらえる。私自身の舞踊家としてのアイデンティティの崩壊を防ぐためにも(笑)、毎月やろう。決めたからやる!そういう発想です。

白鳥さん
もちろん今の状況で会をやることに対しては様々な意見があると思います。ですので広く来場を呼びかけることもしていません。理解していただける方だけに来ていただく。
採算はほとんどとれないのですが、いまは採算をどうこう言っている場合ではない。そこじゃないなと。

白鳥さん
また、見る方にちゃんとしたものを見ていただくためには、演目にあった衣裳や扇子を選ぶ、音を作ってもらう、という準備は大きい会でも小さい会でも同じなんですよね。
そして毎月やると決めていますので、頭は次の次の会に何を踊るか、を考えています。そこも自分に負荷をかけていますね。

梅澤も演目解説者として参加させていただいています
見に来てもらうことの意義は日常に「ぶれ」を作ってもらうこと


うめざわ
逆に、お客さんにとって、こういう時に踊りを見にくることの意義ってなんだと思いますか?

白鳥さん
気持ちの余裕とか、遊び、言ってみれば「ぶれ」を作ることだと思うんですよね。
踊りを見に来ることで、現実生活との間に落差や「ぶれ」が生まれます。凝り固まって身動きできないところに「ぶれ」ができることで「ふっ」と楽になったりする。
非常時にこそ、そういうことが必要だと思いますね。
「やっぱり、これが私だわ」

清元「青海波」(2021年5月)

うめざわ
実際に会を開催されて、久しぶりに踊りを披露されたときはいかがでしたか。

白鳥さん
「やっぱり、これが私だわ」と思いました。
私は、踊っているときしか正常じゃないというか、踊っているときしかまともじゃないというか(笑)
やっぱり踊るっていうことが私にとって「生きる軸」なんですよね。
悩んでいる方へメッセージ「腹を括ろう」

うめざわ
同じように、コロナ禍で悩まれている先生方へメッセージはありますか。

白鳥さん
「腹を括りましょう」っていうことですかね。
私は「毎月どんな状況であっても踊ることを辞めない」と腹を括りました。
思えば、神戸で阪神大震災に遭い被災した時も、東日本大震災のときも、踊ることを諦めませんでした。そして、踊りによって自分は救われていたと思います。
踊っていなければ、私は生きている意味がない、ずっと踊り続けるんだろうなあ、と思っています。

うめざわ
貴重なお話をありがとうございました。