伝統芸能は真剣に「地域貢献」を考えるべきだ
なぜ「地域貢献」なのか
伝統芸能の地域貢献について考えたいと思います。
多くの伝統芸能の師匠は、地域における習い事ビジネスを営んでいます(いわゆる町師匠)。その際、地域に対する広告宣伝や、体験イベントなどを通じた教室集客を行うことが一般的です。
地域における文化教育という面ですでに地域貢献を行なっているとも言えますが、あくまで関心の中心は「伝統芸能に興味関心の高い層の集客」または、「地域住民への伝統芸能の啓蒙(そして集客)」であって、通常、関心の中心に「地域課題」はありません。
「伝統芸能によっていかなる地域課題を、どのように解決できるのか」という問いを中心に、「教室集客ありき」ではなく、「地域課題」から出発し、地域における伝統芸能のあり方と、ビジネスとしての持続性を検討したいと考えています。
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伝統芸能の課題
数百年以上前に成立した伝統芸能は、社会的な環境の変化により、鑑賞、愛好者人口が減少、それにともなって、舞台施設や芸能を成り立たせる職人の減少なども深刻化しており、取り巻く環境は決して良いとは言えません。
さて、社会に存在するものは、その社会の何らかの役割を担うものである、という原点に立ち返ったとき、伝統芸能のいまのあり方は唯一のものでしょうか。
日本舞踊について例を挙げます。
日本舞踊は、かつては、全国の花街で働く人々の職業能力として必要とされました。明治維新以降の工業化の時代、多くのビジネスが生まれ成長していく中で、接待需要は大きく、飲食接待の場に花を添え、顧客同士のコミュニケーションを取り持った芸者さんたちを、影で支え育てる存在として日本舞踊家は活躍していました。花街とともに歩んだ代表的な流派には、地歌(上方)舞諸流、花柳流、若柳流、西川流らがあります。しかし、水商売の多様化や、経済成長の鈍化による接待需要の縮小によって、社交場における日本舞踊は徐々に役割を失っていきました。
一方、国民生活が豊かになり、夫が働き経済的に一家を支え、専業主婦が家事と育児を担当するという生活モデルが確立した時代には、「花嫁修業」として、女性への教育、親から子への投資として日本舞踊が機能していたこともあります。これもジェンダー観や結婚観の更新、女性の労働市場への進出が一般的になっていく過程で、その役割をほとんど失っていると言えるでしょう。
断っておきますが、決して時代とともに日本舞踊の価値が減じてきたと言いたいわけではありません。ここで言いたいのは時代によって、そのときの社会のあり方によって、日本舞踊が果たす役割は多様に変化してきたということです。
地域における役割を担う
話を地域に戻します。「社会における役割がある」ということは、「社会の課題を解決できる存在である」と言い換えることができます。
「ローカルビジネスの主人公」としての日本舞踊の町師匠に、「地域の課題を解決することで地域社会で一定の役割を担い、ビジネスを持続的に営む」という選択肢はないでしょうか?
例えば、こんな地域課題に対して、解決のために役割を担えないでしょうか。
課題「放課後学童のスタッフが足りない」
課題「高齢化による介護の問題が深刻。地域住民の健康寿命を伸ばしたい」
→放課後学童や住民の健康維持のために講師として日本舞踊アクティビティを提供する
課題「地元の伝統行事の担い手が少ない」
→地域の伝統行事の保存活動に参加する。門下生と一緒に行事に参加する
課題「地域の学校の教員が忙しい」
→部活動の地域移行先として講師の役割を担う
これらは、古い課題もありますし、現代だからこそ生まれた、顕在化した課題もあります。これらの課題を解決する存在として、日本舞踊(伝統芸能)の現代においての新たな役割を見出すことができるのではないでしょうか?
地域課題から出発する
「地域における役割」を検討する際の最大のポイントは、当たり前ですが、「地域の課題から出発する」ことだと考えています。「集客する」「日本舞踊を啓蒙する」これらは目的の一つであってもいいでしょう。しかし最大の目的ではありません。
基礎自治体、学校、福祉施設、地域の人々…それらは、日本舞踊に興味があるわけではありません。それぞれの持つ課題を解決してくれる存在に興味があるのです。「地域の課題から出発する」というのは、他者の視点に立つということでもあります。
Win-Winの関係を築く
もちろん、持続性は考える必要があります。
そのためには、補助金の活用や、サービスの提供先の予算、サービス提供後の受け皿(バックエンド商品)などの検討が必要になるでしょう。ただ、これらは、最初から完璧に設計できるものではなく、行動を起こしてみて、徐々に組み立てられるものであると考えています。まずは地域の課題を理解し、それに対して何ができるか、小さな行動としてなにから始められるかを一緒に考えませんか。