日本舞踊に関するお困りごとを送る 問い合わせ
日本舞踊界におけるマーケティング機能の不足と改善案

日本舞踊界におけるマーケティング機能の不足と改善案

「日本舞踊を仕事にする」場合、多くの人が選ぶのが教室経営だ。

 

教室経営のために必要なものは、資格や一定水準以上の技術、稽古場の確保などがあるが、開業後の最も優先順位の高い仕事と言えば、「マーケティング(集客)」である。

 

教室経営において、日本舞踊指導や舞台の開催が本質的な仕事と捉えられ、マーケティングはしばしば「仕方なくやるもの」「優先順位の低い仕事」とみなされがちである。

しかし本質的な仕事をするためには弟子(生徒)がいないと何もできないのだから、マーケティングは最も本質的ではないとしても、最も優先順位が高い仕事とも言える。

 

そもそも、「マーケティング」や「集客」という言い方が師弟制度をとるこの業界にそぐわないという意見があることも承知している。弟子は「教えてください」とそちらから来るものであって、教室側から「お客様、来てください」と集めるものではない、と。しかし、マーケティングは頭を下げて来てもらうことではなく、魅力を伝えて来たくさせることでもある。

 

事業体は複数の機能が集まって成り立っている。一般的な企業における部署名を見てみよう。

・経営企画
・マーケティング(市場調査、集客)
・営業
・商品(サービス)開発
・管理(人事、経理、総務、法務、広報)

これが基本単位で、業界によってバリエーションはある。例えば、メーカーであれば「製造」や「物流」がここに加わります。

 

稽古のメニューを考えたり、指導を行うことは「商品(サービス)開発」、教室集客は「マーケティング」および「営業」に相当します。

 

日本舞踊界は特に「マーケティング」が非常に弱い。

 

同じ伝統芸能である歌舞伎の世界と比較してみよう。歌舞伎のマーケティングは、その多くを松竹株式会社が担っている。

おおまかに、歌舞伎の技術継承は「家」が行い、役者を育てる(商品(サービス)開発)。

公演の企画は両者が協力して行い(商品(サービス)開発)、松竹株式会社が広告宣伝をしてチケットを販売する(営業、マーケティング)。

「歌舞伎」を大きな事業体として捉えたときに、松竹株式会社が、マーケティング部門として、歌舞伎の家と連携しながら商品(サービス)開発と、マーケティングの大部分を担っていると見立てられる。

 

日本舞踊にはマーケティングを専門にする組織はない。師範になる過程においても、舞踊の技術は身につけるが、マーケティングに関する教育が行われないため、開業してもマーケティングは正直、お粗末なものだ。

 

そのため「あの先生は素晴らしい伝統の技術を持っているのにお弟子さんが全然来ない」という事態が起こる。

ここで、注意すべきは、日本舞踊の知名度が低いから人が来ないのではなく、マーケティング機能が不足しているから人が来ないという因果関係を正しく捉えることだ。解決方法は、先生が教室経営に必要なマーケティングの知識を学ぶこと、日本舞踊マーケティングの専門組織を構想することだ。