日本舞踊に関するお困りごとを送る 問い合わせ
長唄「松の緑」の歌詞と解説

長唄「松の緑」の歌詞と解説

長唄「松の緑」の歌詞と解説です。

長唄「松の緑」の解説

「長唄は『松の緑』に始まり『松の緑』に終わる」と言われるほどの名曲です。

四世杵屋六三郎(六翁)作曲、作詞不明。四世杵屋六三郎は、有名な長唄「勧進帳」や長唄「藤娘」の作曲者でもあります。娘せい(日本舞踊・志賀山流家元、五代目志賀山せい)が杵屋の名を襲名する際の名披露目曲として作曲されました。

「松の緑」にはいくつかの意味が重ねられています。

・千回の春を迎えてもその青さ(緑)を誇る「松」

・太夫として「松」の位にまで出世が期待される禿の「みどり」(禿は吉原で遊女の世話をした見習いの少女。『みどり』と名付けられることが多かった)

・縁起が良いとされる「根上り松」

いまは幼い禿が、やがて立派な松の位の太夫となり、根引(身請けされること)され年老いるまで幸せに暮らすように、明るい未来の、今日がその始まりだよ、と、前途を祝う内容です。

主な用語

禿(かむろ)・・・太夫(たゆう)、など上位の遊女に仕えた六歳から一四歳ぐらいまでの遊女見習い少女。

松の位/外八文字・・・位の高い太夫の独特の歩き方のこと。

蹴出し褄・・・着物の下の裾除け。それが見えるように派手に歩いている様。

廓は根引の別世界~・・・華やかな表の世界と、その裏には身請けという社会の闇や、愛憎渦巻く別世界がある。

くらべごしなる筒井筒・・・伊勢物語「筒井筒」掲載の和歌(くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずしてたれかあぐべき)からの引用。髪を比べあっていた幼いころからの今までの時間の経過を味わい深く感じている。

長唄「松の緑」の歌詞

今年より 千たび迎うる 春毎に

なおも深めに 松のみどりか 禿(かむろ)の名ある

二葉の色に 太夫の風 吹き通う

松の位の 外八文字

華美を見せたる 蹴出し褄

よう似た 松の根上がりも

ひとつ囲いの まがきにもるる

廓は 根引の別世界

世々の誠と裏表

くらべごしなる 筒井筒

振分髪も いつしかに

老となるまで 末広を

開き始めた 名こそ祝せめ