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上方唄「松尽くし(まつづくし)歌詞と解説」

上方唄「松尽くし(まつづくし)歌詞と解説」

上方唄「松尽くし(まつづくし)歌詞と解説」です。

日本各地の名所旧跡の松などを詠みこみ、おめでたい数え唄に仕立てた、上方唄です。

「うたい囃せや大黒」で始まるのは、「大黒舞」という、かつて存在した正月に門付け(かどづけ。門の前で芸を披露する)で行われた芸能の形式をとっているからです。

「大黒舞」の芸人は、頭巾をかぶり、木槌を持ち、大黒天のような恰好をして家々をまわり、祝いの言葉を歌いながら舞いました。

上方唄「松尽くし(まつづくし)の解説

数え唄に登場する「松」の意味

この曲の中には、実にたくさんの「松」が登場します。それぞれ、見ていきましょう。

まずは数え唄に登場する松からです。

一番目:池の松、二番目:庭の松


「長寿」の象徴で、冬でも緑を絶やさない松は日本庭園の定番です。名庭へ行くと必ずと言っていいほど松が植えられているのを目にするでしょう。

三番目:下り松 (さがりまつ)

枝が垂れ下がった松。京都には、宮本武蔵が因縁の相手・吉岡家と「下り松の決闘」を行ったとされる場所があり知られています。場所は「左京区一乗寺」説と「上京区一条通」説の2説あり。

四番目:志賀の松


近江八景「唐崎夜雨(からさきのやう)」歌川広重

滋賀県大津市の唐崎神社にある松です。「唐崎の松は花より朧にて」と松尾芭蕉が句に詠みました。

五番目:五葉の松

日本原産の松の1種。1か所から5枚の葉が出ることから五葉松(ゴヨウマツ)と呼ばれます。

六番目:昔は高砂の尾上の松、曽根の松

尾上の松は、クロマツ(男松)とアカマツ(女松)が合着した松のこと。相生の松ともいう。兵庫県加古川市の尾上神社にある尾上の松は謡曲「高砂」に歌われる「相生の松」だといわれています

曽根の松は、加古川市の隣、高砂市にある曽根天満宮にあった、菅原道真・手植えの松。

番目:姫小松

小さい松の愛称です。

番目:浜の松


東海道五十三次「大磯」歌川広重

一般的な名称。塩分を含む海風に強い松は、防風林、防砂林として浜辺や海沿いに植えられることが多く、「浜辺といえば松」という連想が成り立ちます。

九番目:小松

小さい松のこと

十番目:豊久野伊勢の松

豊久野は伊勢神宮に行く途中の地名で、旅人がそこにある松に、賽銭を掛ける風習があり、銭掛松と呼ばれていました。

そのほかに出てくる松

芙蓉の松(ふよう)

「芙蓉=富士山」を意味することから、「富士の松」か、「有情(うじょう)の松」と表記する例も見えることから、「うじょう」が変化し「芙蓉」となった可能性もあります。そのあと「なさけ有馬の松が枝に」と続くことから、元は「有情(人情、情けがわかる)」だった、と捉えるのが妥当かもしれません。

有馬の松が枝

有馬は「有馬温泉」で有名な兵庫県神戸市の地名。松が枝は、松の枝。

相生の松(あいおいのまつ)

尾上の松と同じ。ふたつの松がお互いに合わさって生えていることから「相生」と呼びます。

連理の松(れんりのまつ)

島根県の琴平神社にかつて存在した「高津連理の松」。二本の松が枝で完全につながっていて「夫婦松」として親しまれていました。

作品情報

作詞・作曲者ともに不詳

上方唄「松尽くし(まつづくし)の歌詞

うたい囃せや大黒
一本目には池の松
二本目には庭の松
三本目には下り松
四本目には志賀の松
五本目には五葉の松
六つ昔は高砂の 尾上の松や曽根の松
七本目には姫小松
八本目には浜の松
九つ小松を植え並べ
十で豊久野伊勢の松
この松は芙蓉の松にて
なさけ有馬の松が枝に
口説けばなびく相生の松
またいついつの約束を
日を待つ時待つ暮れを待つ
連理の松に契りをこめて
福大黒を見せいな