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日本舞踊の塗り絵の「役割」をどうデザインしているか(その2)学べる!

日本舞踊の塗り絵の「役割」をどうデザインしているか(その2)学べる!

2020年11月現在、子供たちに日本舞踊の魅力を伝えるため、「日本舞踊の塗り絵」を作っていまして、そのプロセスを公開しています。

今日は「塗り絵が果たす役割をどうデザインしているか(その2)学べる!」、についてお話ししようと思います。

 「学ぶ」がなぜ重要か?知識はくせもの!

日本舞踊の塗り絵は3つの役割を想定している、と前回書かせていただきました。

1.遊んで楽しい(遊び)
2.日本舞踊について学べる(学び)
3.誰かとの会話のきっかけになる(つながり)

今日は2つ目の「日本舞踊について学べる(学び)」について、どう考えているかを書きます。子供たちに、どう日本舞踊を好きになってもらうか、にも通じる話です。

さて、「日本舞踊は敷居が高い」と言われます。なぜでしょうか。

・お金がかかるから?
・先生がコワそうだから?
・着物になじみがないから?
・知識がないと楽しめないから?

どれも正解だと思います。
この中で、「お金」「先生」「着物」は、(比較的)かんたんに解決できます。

・「お金」は説明して、習う人の予算に合えばOK。
・「先生」は会って話せばコワイかコワくないか、わかる
・「着物」は何回か着たら慣れる

では、「知識」はというと、これが曲者です。時間をかけて勉強するしかないわりに、情報が少ないんです。

舞踊のハードルは大正時代にはすでに高かった?

【日本舞踊を楽しむために知識は必要】
よく、現代になって和文化の知識が薄れてきた、継承されなくなってきた、という人がいます。では昔の人は日本舞踊を理解するに充分な知識を持っていたのでしょうか?

ここで、演劇研究家の笹山敬輔氏が、大正~昭和にかけて活躍した社会学者・権田保之助について書いた文章を見てみましょう。

彼ら(*都市に住む人々)の生活には娯楽が必要不可欠なものとなる。だが一方で、長時間の労働により、慰安のために残された時間も少ない。権田はそのような「暇と金とに乏しい民衆」に必要な娯楽を論じたのである。

以前の娯楽とは、道楽であり、贅沢であり、「通」の世界にあった。具体的には、習い事としての浄瑠璃や踊り、寄席における講談や落語などである。それらは、楽しむために習練や予備知識を必要としていた。それに対して権田は、新しい民衆に必要な娯楽を次のように論じている。

今日の民衆の享楽生活の規準は、「廉価」、「出来合い」、「直観的」、「刹那的」、「強烈」・・・以下、略(引用:『興行師列伝』笹山敬輔 *注、梅澤)

なんだか、「今」のことのように感じませんか?

ここに登場する「習い事としての踊り」は、今の日本舞踊にイメージが近いものだと思われます。大正昭和初期の段階でもすでに、楽しむために「予備知識が必要」と認識されていたことがわかります。

手に取れる場所に情報がない

【知りたいタイミングや、知るべきタイミングで情報が手に届くところにない】
歌舞伎や浄瑠璃、能楽などを、日本語を理解しない外国の方が鑑賞して涙を流す、ということは確かにあります。
「言語を超えた感動体験」があるのは確実ですが、一方で知識があった方が楽しめることも確かです。

そのことはこの記事をお読みのみなさんなら、よくお分かりだと思います。知識は日本舞踊をより楽しむため、作品に没入するための水先案内となります。

一方で、情報は簡単に手に入る訳ではありません。私がメディア「俺の日本舞踊」を始めたのも情報が少ないことに憤り(?)を感じたことがきっかけです。

インターネット上に情報が少ないため、私は「日本舞踊全集」「日本舞踊曲覧集」「日本舞踊集成」やその他、長唄や小唄の解説本など、出版物に情報を頼ることが多いですが、これはなかなか手に入れるハードルが高いです。自分の足で探すのがメインになります。

日本舞踊を習わせている親は、必ずしも日本舞踊に興味があるとは限りません。経験者でもなければ、わざわざインターネット検索や古本屋巡りをして子供に教えてあげる事はほぼしないでしょう。

ましてや子供が古本屋を巡れるわけがなく、百歩譲ってインターネット検索です。

ようは、知りたいタイミングや、知るべきタイミングで子供の手に届くところに情報がないんです。

どうやって教える?その悩みを解決したい

【スイミングやピアノ、テニスに決してできないこと】

子供たちにどうやって教えるのか、興味を持ってもらうのか。これはどの先生も一度は経験した悩みだと思います。その悩みを塗り絵で解決できると思いました。

日本舞踊の分野で、子供向けの教材は私の知る限りありません。いろんな先生方が言葉で説明したり、紙芝居を作って教えたり、様々な工夫をされています。

塗り絵の利用の仕方はさまざまです。定番演目の一覧表としても使えるし、見本を見れば定番の衣裳の色や柄も学べます。次にお稽古する演目を塗ってこさせて、興味付けに使うこともできる、よい教材になると考えました(実際に、5月の無料公開のときにはある先生から、興味付けとして子供たちに渡していると教えていただきました)。

日本舞踊が塗り絵遊びと相性がいいのは、そのものズバリ、「日本舞踊が絵になるから」です。歌舞伎の名シーンや役者たちが浮世絵になってファンに飛ぶように売れたように、日本舞踊の名シーンは絵になります。

これがスイミングやピアノ、テニスなどには真似できない、日本舞踊のメリットです。萩野公介さんと池江璃花子さんの塗り絵、辻井伸行さんの塗り絵、松岡修造さんの塗り絵・・・みなさんがどんなに有名でも、塗り絵にはならないですよね。どれもパターンが似てきてしまうので。

どこで学ぶか、どう学ぶか

デジタルネイティブ世代の情報の仕入れ先はスマホやSNSです。しかし、最も価値がある学びはデジタル空間ではなく、稽古場で、先生の肉声で語られるものであると信じています。

塗り絵はひとつのきっかけとして、先生がその作品に対して経験したことや感じていることを先生の体温のこもった言葉で子供たちに語りかける、それを子供たちが目を輝かせて聞いている、そんなシーンをイメージしつつ、塗り絵を制作をしています。

今日は塗り絵が果たす「役割」をどうデザインしているか(2)「日本舞踊について学べる(学び)」についてお話ししました。

 

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