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日本舞踊は見ていても面白いと思わない。だから知り合いを踊りの会に誘いづらい

日本舞踊は見ていても面白いと思わない。だから知り合いを踊りの会に誘いづらい

俺の日本舞踊では読者のみなさんからお悩みやご質問を募集しています。この記事ではそのご質問に対する回答をお届けします。

【お悩み】
日本舞踊は、見ていても面白いと思わない。なので、踊りの会(自分が出演したとしても)も誘いづらい。

(回答)面白いと思わないのはおかしいことではない。誘いづらさが残るなら踊り「以外」にも誘う理由を探してみては

友人や家族を踊りの会に誘いづらいというお悩みです。

これを読んだ方、特に日本舞踊の先生は「なんで面白いと思わないの?」「なんで自信もって勧められないの?」と反射的に感じるのではないかと思います。

でもちょっと待ってください。

まずこの方の悩みを整理しましょう。

【悩み】踊りの会に誘いづらい

これが悩みの本質です。その理由としては

【理由】(自分は)日本舞踊を見ても面白いと思わないから

を挙げています。この論理を一段階抽象化すると「自分が面白いと思わないものは他人にも勧めたくない」という、これはよく理解できる感覚です。

ではなぜ違和感を感じるのでしょうか?それは、

日本舞踊が好きで習っているはずなのに、見ても面白く感じないのは変だ。踊るのが好きなら、見るのも好きなはず

という考えを前提として多くの人が持っているからです。

おそらく、この感覚は投稿者さんも持っていて「日本舞踊を見ても面白く感じない自分は変じゃないか?」と自覚されているのではないかと思います。

なぜなら、単純に誘いづらいという相談なら「せっかく見に来てもらっても、日本舞踊を知らない人は面白く感じないと思うから誘いづらい」と誘う相手の思考だけ書けばよくて、わざわざ「自分は面白いと思わない」という自分の思考を入れて書く必要はないからです。

さて、まず本題の悩みである「会に誘いづらい」に関しては、いくつかの考え方を提案するのにとどめます。

自分と他人は価値観も感覚も違う

まず、自分が面白くないものでも、他の人は面白いと感じることがある、ということ。日本舞踊について話してみて、少しでも興味を持った知人なら、堂々と誘ってよいと思います。面白いと感じるかどうかは、その人が実際に見てみないと分からないと考えるのです。

踊り以外に目的を提案する

もう一つ、踊り以外に目的を提案してみるのはいかがでしょうか。

例えば「私のがんばっている姿を応援しに来てほしい」などです。

私は、町のお稽古場の発表会の目的の90%は、家族や友人に一生懸命頑張っている姿を見せることだと思っています。見る人は出演する家族や友人を応援し、成長をともに喜ぶことが楽しみです。全くの赤の他人に、純粋に踊りだけで楽しんでもらえるなんてことはまずありません。

「終わった後、お茶しようよ」でもいいと思います。

投稿者さんの言葉からすると誘おうとしている人は日本舞踊を見たことがない人でしょう。ならなおさら、発表会に来る動機は日本舞踊ではなく「あなた」です。あなたに頼まれたから、あなたを応援したいから、あなたに会いたいから見に来てくれるのです。したがって、終わったあと一緒にお茶しておしゃべりする、これも立派な目的になりえます。

誘われる人にとっての踊りの会を、芸能鑑賞の場と捉えるのではなく、あなたを応援する場、あなたに会いに来る場と捉えなおしてみてはいかがでしょうか。

日本舞踊を見ても面白くない

さて、では続いて「日本舞踊を見ても面白く感じない自分は変じゃないか?」ということについて考えてみます。

この方は日本舞踊を習っているし、発表会にも出るくらいなので、ご自身が踊るのはお好きなんです。ただ、見ても面白さを感じられない。

日本舞踊を見ても面白いく感じないというのは、まったくおかしなことではないと考えます。

私がそう思う理由はいくつかあります。

まず、日本舞踊を見ることと、自分が踊ることは全く違うものであること。

次に、見ている日本舞踊それ自体が、面白くないこと。

見ることと踊ることは別物

日本舞踊を踊るのが好きな人は見るのも好きと思われがちですが、必ずしもそうではありません。日本舞踊を見ることと、自分が踊ることは全く違うものです。

スポーツで例えましょう。競技スポーツは、観戦と自分がプレイすることが両立する場合が多いです。野球をプレイすることが好きな人は、ほとんど観戦するのも好きでしょう。では生涯スポーツと呼ばれるジャンルはどうでしょうか。例えばジョギングやハイキング、サイクリングといったものです。体を動かす楽しみと、それを「見たい」というニーズはまったく別物です。生涯スポーツの一部は「観戦」が全く存在しないものがあります。

他に、同じ踊りでも盆踊りは参加する楽しみはありますが、お金を払って盆踊りを見たいという人は少ないでしょう。

これは「視覚・聴覚で楽しむ『鑑賞』」と「自分の体を使って表現する『体験』」、「他者の表現を見る喜び」と「自分で表現する喜び」などと言い換えられると思います。

普段目にする日本舞踊が面白くない

もうひとつ考えられるのは、普段目にする日本舞踊それ自体が、面白くないことです。平たく言ってしまえば、普段目にされている日本舞踊が、この方が面白いと感じるレベルにないということです。

面白さの感覚は個人のものですから、この方の審美眼が鋭いのか、良い舞踊家さんがたまたま周りにいないのかは分かりませんが、もしこの方が同じ稽古場の門下生の踊りを指して面白くない、だから人も誘いづらいと言われるのでしたら、それは「当たり前」と言えます。技術的にみな素人の集まりだからです(ここでは、一生懸命頑張っている人を見て感動することと、技術的に高度であり芸能として面白く感じることは別と考えます)。

日本舞踊の発表会は芸能鑑賞の場ではなく、友人や家族が頑張っている姿を応援しに行くところだとはじめに書きました。

しかしそれは魅力にもなります。日頃のお稽古の成果を披露する場、その時だけは誰もが主役になれる場、一生懸命踊っている友人・家族を応援する、成長を見守る、一緒に喜ぶ場、それが発表会です。

「去年の会に比べてあの人は上手になったなあ」「だけど相変わらずあそこは下手だなあ」とか「〇〇ちゃんは一年でこんなに大きくなったのか」など、踊る人に注目するのがお稽古場の発表会を楽しむコツだと考えます。

少し脱線しますが、実はプロの世界でも同様です。AKBがデビューして間もないころ「あんな歌も踊りも下手なアイドルが売れるわけがない」という批判が多くありましたよね。でもいまやそういう批判は影を潜めています。AKBは、その歌やダンスを楽しむ以上に、彼女たちを応援すること、投票などによって彼女たちの活動に参加することに価値があったからです。

ソニーミュージックとJY・パークによる「NiziU Project(ニジュープロジェクト)」や「Who is Princess?」などオーディションのプロセスをコンテンツとして人々を楽しませる番組が増えているのも同じです。

芸能として面白い日本舞踊は?

芸能として面白い日本舞踊にいま出会えていないのであれば、それは努力して探すしかないといえます。お住まいの地域で出会えていないのであればそこから出て探してみる、師匠や関係者に聞いておすすめの会や踊り手さんを探すなどですね。

まとめると、面白いと思わないのはおかしいことではありません。もし誘いづらさが残るなら踊り「以外」にも誘う理由を探してみてはどうでしょうか。以上が私の回答です。