長唄「綱館(つなやかた)」歌詞と解説

長唄「綱館(つなやかた)」歌詞と解説

日本舞踊で人気の長唄「綱館(つなやかた)」歌詞と解説です。

長唄「綱館(つなやかた)」解説

切られた腕を見つめる、伯母に化けた茨木童子と、まだ気づいていない綱

平安時代の武将、渡辺綱(わたなべのつな)と、茨木童子(いばらきどうし)の対決を描いた作品です。

この物語の前段階として、戻橋(あるいは羅生門)で綱を襲った茨木童子を、綱が返り討ちにして腕を切り落とした、という話があります。

そのお話の解説はこちら↓

常磐津「戻橋」歌詞と解説

「綱館」では、茨木童子が綱の館へ、切られた腕を取り返しに来るシーンが描かれます。

茨木童子は綱の伯母に化け、綱の館へやってきます。一方、綱は戻橋での茨木童子の戦いの後、陰陽師の安倍晴明に「鬼は必ず7日間の間に復讐にやってくるから、7日間は誰が来ても決して会わぬように」と言われており、館に篭っています。実は今日が、その7日目だったのです。

綱は警戒して門を開けようとしません。伯母は門の前で綱に会えないことを嘆き悲しみ恨みごとを繰り返します。とうとう諦めて帰ろうとするのですが、綱はついにその情にほだされて、開けてはいけないと言われていた門を開け、茨木童子を招き入れてしまいます。

酒を酌み交わしながら語ったり舞を舞ったりしているうちに、伯母(茨木童子)は、鬼と戦って奪ったという「腕(かいな)」はどこかと尋ね、綱はうっかりそれを見せてしまいます。

腕を眺めていた伯母は次第に様子が変わり、恐ろしい鬼へと姿を変え、とうとう綱から腕を奪い去り、黒雲とともに消え失せてしまいました。

2人が最初に戦ったのは戻橋なのか羅生門なのか

羅生門の鬼(鳥山石燕)

「綱館」の前段は、綱が茨木童子と戦い、その腕を切り落とすという話ですが、常磐津「戻橋」では、京都一条通りにある「戻橋」がその舞台となっており、詩の中に「茨木童子」という言葉は出てきません。

一方、長唄「綱館」では、「九條羅生門」で茨木童子と戦ったことになっており、また、能の「羅生門」という演目も同じく、羅生門で綱と茨木童子が戦った話になっていて、同じ話なのに場所と鬼が違っています。

これは、「大江山の鬼・茨木童子」の伝説と「羅生門の鬼」と伝説が錯綜していると思われ、別々の物語に登場する鬼がしばしば同一視されていたことを示すものと思われます。

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長唄「綱館(つなやかた)」歌詞

さる程に 渡辺の源次綱は 九條羅生門にて
鬼神の腕を切り取りつつ 武勇を天下に輝かせり
さりながら かかる悪鬼は七日の内に 必ず仇をなすなりと
陰陽の博士 清明が勘文に任せつつ
綱は七日の物忌みして 仁王経を読誦なし 門戸を閉じてぞ ゐたりける
既に東寺羅生門の 鬼神の腕を切り取りしこと これひとへに 君の御威徳ならずや
然るに清明が勘文に従ひ あら気詰まりの物忌みやな
かかる所へ津の国の 渡辺の里よりも 訪ねて伯母のきた時雨 紅葉の笠も名にめでて
錦をかざす故郷の 老いの力や杖つきの 乃字の姿をも
うしとは言はで引かれつる綱が館に着きにけり
門の外面に佇みて
如何に綱 津の国の伯母が遙々参りたり この門開き候へ 疾くあけ召されい
内には綱の声高く
遙々との御出でなれど 仔細あって物忌みなれば 門の内へはかなはず候
なに門の内へはかなはぬとな
是非に及ばず候
あら曲もなき御事やな 和殿が幼きその時は みづから抱き育てつつ
九夏三伏の暑き日は 扇の風にて凌がせつ
玄冬素雪の寒き夜は 衾を重ね暖めて 和殿を綱と言はせしこと
アァ皆みづからが恩ならずや
恩を知らぬは人ならず エエ汝は邪慳者かなと 声を上げてぞ泣き給ふ
さしもに猛き渡辺も 飽くまで伯母に口説かれて
是非なく門を押開き 奥の一と間に請じける
伯母を敬ひ頭を下げ さても只今は 不思議の失礼仕って候
先ず御酒一献きこし召し その後御曲舞を所望申し候
目出度き折なれば 舞はうずるにて候
御酒の機嫌をかりそめに 差す手引く手の末広や あら面白の山廻り

まづ筑紫には彦の山 讃岐に松山降り積む雪の白峰 河内に葛城 名に大峰
丹波丹後の境なる 鬼住む山と聞こえしは 名も恐ろしき雲の奥 なつかしや

いやとよ綱 鬼神の腕を切り取られし武勇のほど およそ天下に隠れなし
してその腕はいづれに在りや
即ちこれにと唐櫃の 蓋うち開けて 伯母の前にぞ直しける
その時伯母は彼の腕を ためつ すがめつ しけじけと 眺め眺めて居たりしが
次第次第に 面色変わり かの腕を 取るよと見えしが忽ちに 鬼神となって飛び上がり
破風を蹴破り現れ出で あたりを睨みし有様は 身の毛もよだつ ばかりなり
いかに綱 我こそ茨木童子なり 我が腕を取り返さんその為に これ迄来ると知らざるや
綱は怒りて早足を踏み 斬らんとすれども 虚空に在り 如何にかなして討ち取るべしと
思へど次第に黒雲おほひ 鬼神の姿は消え失せければ
彼の清明が勘文に 背きしことの口惜しさよ
なほ時を得て討ち取るべしと 勇み立ったる武勇の程 感ぜぬ者こそなかりけれ

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