長唄「鶴」歌詞と解説
長唄「鶴」の歌詞と解説です。
長唄「鶴」解説
曲の大意は?
鶴の美しい舞い姿を描いた長唄です。
前半は、神秘的な風景の中で、仙女の奏でる音楽にあわせ跳び遊ぶ、雪のように白く輝く鶴の姿が描かれます。
やがて、女神の呼ぶ声に応え、天空高く舞い上がる躍動感が後半の見どころとなります。
鶴の生態を描写した独特の振付けにも注目です。
歌詞の意味・ポイント解説
中国の故事や、難しい表現が多く見られます。しかし、それがこの演目の独特の魅力・世界観を作っています。
冒頭は、鶴の遊ぶ「遠海の島」の描写です。
「緑樹」「蒼」「黄金(こがね)」「銀(しろがね)」など色彩感豊かに描かれます。
「四時(しじ)の花」とは、「四季の花」のこと。「霊禽(れいきん)」は尊く不可思議な鳥、の意味で、鶴を指します。
やがて一羽が地上に降りてきます。
「妙なる曲の音に連れて 舞うやいみじき芳壽楽(ほうじゅらく)」
仙女の演奏する、おめでたい音楽に合わせて舞い始めます。
鶴の美しい姿の描写が続きます。
「﨟(ろう)たしや雪にもまごう」
「﨟たし」とは、上品で美しい、洗練されている、などという意味です。雪と間違えてしまいそうなほど白く美しい鶴の羽根を表現しています。
「丹頂は冴えてさやけき 優(やさ)すがた」
「丹頂鶴」は中国・日本で古くから親しまれてきた鶴。頭のてっぺんが鮮やかな赤色なのが特徴です。
「さやけき」は、光がさえて明るい、清らかでさっぱりしている、すがすがしい、という意味。「優すがた(優姿)」は、しとやかで優しい、優美な姿。
やがて鶴は、地上から垂直に、天へ登ります。
鶴を呼ぶのは「西王母(せいおうぼ)九皇(きゅうこう)の君」、これは中国・道教の女神です。
鶴は、「雲の通い路一筋に」つまり、地上から天へと続く、雲の道を舞い上がります。
「三千歳(みちとせ)の桃の香りも馥郁(ふくいく)と」
「馥郁(ふくいく)」とは良い香りがただよっている様子です。
「三千歳(みちとせ)の桃」は三千年に一度、花が咲いて実を結ぶという不老長寿の桃のことで、西王母が漢の武帝に与えたという伝説があります。
「鶴駕(かくが)にのりて仙客(せんかく)は 来たるめでたきこの島根」
「鶴駕(かくが)」とは、仙人の乗る乗り物のこと。古代中国・周の太子晋が、仙人となり白い鶴に乗って去ったという伝説から生まれた言葉です。「仙客(せんかく)」は仙人のこと。
ここでは、言葉の元の意味にさかのぼって、「仙人が鶴に乗ってやってきた」と読むのが良いと思います。
「島根」は、たんに「島」のことも言いますが、ここでは「大和島根」の略、つまり、私たちのいる「日本」のことを指すと考えられます。
「十返り(とかえり)の花に 千歳(ちとせ)の鶴群れて」
「十返り(とかえり)の花」は松の花のことです。松は百年に一度、つまり千年に十度花を咲かせることから長寿を表し、祝賀の意味で使われます。
「常世長閑(とこよのどか)に袖を振り振る」
千年の長寿を保つとされる鶴が、松のもとで羽根を遊ばせていいます。「常世」は、いつまでも、永遠にという意味。「長閑」は静かに落ち着いた様子。優しい余韻を残すしめくくりです。
作品情報

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作曲者 杵屋 六左衛門 作詞者 香取 仙之助 初演 昭和38年
長唄「鶴」歌詞
遠海(とおかい)に島あり
山は汀(みぎわ)よりそそり立ちては
鬱然と茂る緑樹の波よりも
いよいよ蒼き空の色
日は黄金(こがね) 月は銀(しろがね) あざやかに
山の端分けて輝けば
四時(しじ)の花 今を盛りと 咲き乱れ
涼しき水に香(か)を競い
霊禽(れいきん)は日月(じつげつ)浴びて跳び遊ぶ
仙境のひと
呼べば一羽は地に降りて
いとおおらかに脚はこぶ
仙女が奏(そう)す管弦の
妙なる曲の音に連れて
舞うやいみじき芳壽楽(ほうじゅらく)
﨟(ろう)たしや雪にもまごう羽衣の
無垢にひときわ丹頂は
冴えてさやけき 優(やさ)すがた
西王母(せいおうぼ)九皇(きゅうこう)の君召すという
声天井に朗々と響けば
たちまち首を上げ 一声高く地を蹴りて雲の通い路一筋に
羽ばたき行くや幾千里
やがて三千歳(みちとせ)の桃の香りも馥郁(ふくいく)と
鶴駕(かくが)にのりて仙客(せんかく)は
来たるめでたきこの島根
十返り(とかえり)の花に 千歳(ちとせ)の鶴群れて
常世長閑(とこよのどか)に袖を振り振る
常世長閑に袖を振り振る

