常磐津「屋敷娘(やしきむすめ)」歌詞と解説
日本舞踊で人気の常磐津「屋敷娘(やしきむすめ)」の歌詞と解説です。
「屋敷娘」の解説
「屋敷娘」とは大名屋敷に奉公して雑用などをこなす女性(腰元ともいいます)のこと。当時は勤めている間、奉公先の屋敷から外出することはままならないことでした。年にほんの数回しかないお休み(宿下がり、または藪入り、などといいました)に親元へ帰ったり、お芝居を観に行くことが彼女たちの何よりの楽しみでした。この曲は、そんな「屋敷娘」たちの宿下がりの情景を描いた作品です。
大名屋敷に仕え、時には辛いご奉公、待ちに待った宿下がりに、傘と扇子を持った娘が、素敵な男性との恋を思い浮かべ、蝶々と戯れる様子は実に楽しげで微笑ましい様子です。この、蝶々と戯れる様子が描かれることから「蝶々娘」とも呼ばれています。
天保10年(1839年)江戸、河原崎座初演。並木五瓶作詞、作曲は常磐津・五代目岸澤式佐、長唄・杵屋三五郎。常磐津と長唄の掛け合いとして作られましたが、現在ではそれぞれが独立した曲となっています。
「屋敷娘」の歌詞
千草も野辺の通い路に、
色も香もある盛りの色を、
君が返事にあいの花、
こちゃこちゃこちゃ手折りて欲しや。
恋をする身はまがきの小菊、
露に葉ごとの濡れまさる、
ええ、濡るる、しょんがいな。
色香含みて愛らしき。
過ぎし弥生の桜時、花見の幕の垣間見に、
ふっと目に付く殿振に、
ぞっとするほど思いの増して、
胸に絶えせぬ綾瀬川、水に羽音の鴎をば、
都鳥とも名にこそ呼ばれ、
思いすごして今の身は、
ほんにつくづく山寺の、
憎い坊さんじゃないかいな。
恋にははずむ手まり唄。
ひとつとやのさのえ、一夜重ねて二夜三夜。
芝居噺に夜を明かす、墨田の上野の眺めにも、
心も浮いて物見行き、お宿下りに遅れ咲き、
これも世界の花ならん、しおらしや。
花に来て、秋の香慕う蝶胡蝶、
羽交い並べて乱菊の
花の露吸うしおらしさ、たわむれ遊ぶ。
きりはったりちょう、きりはったりちょう、
女夫ごと可愛ゆらし。
色という字はいたずらものよ、
無理な合図にせかせておいて、
嬉しい仲じゃと引き寄せて、
相合傘の濡れかかる。
それほど誠があるならば、
じつ誓文濡れしゃんせ、
いとしいの字の比翼紋、しおらしや。
げに月ならば、秋の最中の、名にし負う
笑顔も萩の下風に、露を厭うて道芝の
衣紋直して急ぎゆく