【取材】日本舞踊アナログ音源・数千曲のデジタル化プロジェクト(百合山真人さん)
本記事で取り上げるプロジェクトは現在クラウドファウンディングを行っています。
*2020年6月22日追記:クラウドファウンディングは「目標達成」で完了しました。以下、百合山さんからのメッセージです。
【目標達成のご報告】
この度は、ご支援と暖かいメッセージをありがとうございました。52名の方から合計「560,000円」のご支援をいただきました。
お会いしたことのない方々とのご縁もとても幸せに感じています。精一杯精進してまいります。本当にありがとうございました!
伝統を次の世代へ。伝統芸能の音をデジタルの力で守りたい(外部サイト:READYFOR)
膨大なオープンリールの山・・・。
そこには過去の名奏者たちが舞踊家のために心を込めて吹き込んだ珠玉の名演が眠っています。
いまそれが、多くの人に知られることなく、劣化・再生不能になってしまう危機に瀕しています。
今日は、日本舞踊のアナログ音源デジタル化プロジェクトに取り組まれている百合山真人(ゆりやま まさと)さんにお話を伺います。
デジタル化の意義や、ともに受け継ぎたい「想い」について詳しくお話を伺いしました。日本舞踊や邦楽に関わるすべての人に読んでいただきたい内容です。
失われつつある貴重な音源を、それを生み出した「想い」とともに後世に受け継ぐ
百合山真人さん
名奏者たちの珠玉のオリジナル演奏データが数千曲
百合山真人さんは、これまで演劇業界で音響のお仕事をされてきました。海外へ国費留学のご経験もある実力者です。現在、日本の伝統芸能にも携わっておられ、今回はご自身が立ち上げられたプロジェクトについてお話を伺いました。
百合山さんが仕事をされている有限会社舞踊テープ社(東京都新宿区)は、日本舞踊教室や、その発表会に所蔵している膨大な邦楽の音源データから最適なものを選び提供しています。必要に応じて編集や、舞台の音響も担っているそうです。
舞踊テープ社が所蔵している音源は、全てプロ演奏家のもので、その数は数千曲以上に上ります。しかし、これらはいつかは劣化して聞けなくなってしまうものです。
「ほおっておいたら二度と聞けなくなるものを後世に残したい、というのが一つ目の理由です。」百合山さんは語ります。
市販されていないオリジナルの音源
創業者の鈴木社長は、もともと歌舞伎座で活躍されていた三味線奏者。所蔵する音源は、当時の仲間とともに演奏したものや、他の人から買い取ったオリジナルの音源で、いずれも市販されていない貴重なものばかりです。
音源とともに「踊り手に寄り添う」という想いを継承したい
(梅澤)「今日はよろしくお願いします。まず、プロジェクトの概要と、目的について教えていただけますか?」
(百合山さん)「まず、数千曲に及ぶアナログ音源データをデジタル化して、後世に残したいです。伝統音楽は、これまで日本に生きてきた人たちの、感じてきたこと、考えてきたことの蓄積です。過去の演奏を聴くことで、小説を読むように私たちの歴史を知り、今の自分たちに活かすことができます。
もう一つ、音源をそのまま受け継ぐ、ということ以上に、大切にしていきたいものがあります。それが『踊り手に寄り添う』という想いです。」
百合山さんによると、音源の中には、同じ曲でも複数のパターンが録音されてものが多くあり、それは舞踏テープ社が「踊り手に寄り添ってきた」からこそだと言います。
(百合山さん)「同じ曲でも、流派や踊り手によって表現したいものが違うので、それを想定して、複数の演奏パターンの録音が保存されているんです。
実際に踊り手が地方さんと合わせる時には、自然にそれをやるはずですよね。そこには踊り手と音楽がお互いを高めあうという関係性があります。」
鈴木社長は、自分が歌舞伎音楽の演奏者だったからこそ、踊り手の気持ちを理解し、音楽で踊り手の表現が限定されてしまうことを懸念され、わざわざ手間のかかる複数パターン収録をされたそうです。
録音データでも、手間のかかる編集作業を一手に担ってきた
オープンリールの編集は途方もなく手間のかかる作業です。音楽をカットするときはテープを切ってつなぎ、間を開けるために音楽をループさせたい時は、テープを複製して継ぎ足します。それもすべて「踊り手に寄り添う」ためです。
デジタル化しても変わらないもの
(百合山さん)「この『踊り手に寄り添う』ということを大切に受け継いでいきたいんです。デジタル化することで編集は楽になります。でも『デジタルだからカンタンだよね』ではなく、その背景にある想いを受け継ぎたい。これがこのプロジェクトの、もう一つの重要な目的なんです。」
一方で、デジタル技術の活用は「踊りを変える」可能性も秘めている
百合山さんは、デジタル技術の活用はひょっとすると、踊りを変えるかもしれない、と言います。
(梅澤)「踊りを変えるかもしれない、とはどういうことでしょうか?」
(百合山さん)「日本舞踊教室は普段、音楽を市販のCDや、レコード、レコードからダビングしたカセットテープなどを使用しているところが多いと思います。
それは便利なのですが、古いレコードやテープは音が劣化し、音質の低下、本来聞こえるはずの音が消えていたり、ということが起こります。
今回のプロジェクトで、音質を下げることなく音源をデジタル化し、みなさんに活用してもらうことができれば、これまで世の中になかった音質、演奏の音楽をみなさんに届け、活用していただけます。それによって、ひょっとするとみなさんの踊りが音楽によって変わる可能性もあると思っています。」
(梅澤)たしかに、同じ曲であっても、演奏が違えば違う曲、とも捉えられます。これまでにない解釈の演奏であれば、踊りもそれに合わせて変わる可能性がありますね。」
百合山さんの行動の原点
次に、百合山さん自身が、今回のプロジェクトを立ち上げようと思ったきっかけや、経緯について伺いました。
「自分とは何か」という問いかけの中で、日本の伝統芸能にいきついた
(梅澤)「そもそも今回このプロジェクトを立ち上げようと思った、百合山さんのモチベーションの原点は何でしょうか?」
(百合山さん)「私が生きていく上で、常に自分に問いかけていることが『自分とはなにか』ということなんです。
それに迫る一つの方法が、日本の伝統を学んで、過去の日本人が何を感じ、考えてきたかを知ることだと思っています。
実際に音楽から歌舞伎など、伝統芸能に関わっていますが、そのご縁で、舞踊テープ社が過去の素晴らしい、しかしこのままでは失われてしまうかもしれない、貴重な音源を所蔵されていることを知り、これらを、それを生み出してきた想いと一緒に、未来に受け継いでいきたいと思って、プロジェクトを立ち上げました。」
海外留学で伝統を学ぶことの重要さを知った
韓国留学時代
(梅澤)「伝統芸能に興味を持つようになったきっかけはありましたか?」
(百合山さん)過去に、韓国に演劇関係で留学をしていたことがあるのですが、それが一つのきっかけで、日本の伝統芸能に興味をもちました。
韓国の役者さんや舞台関係者のみなさんは、自国の伝統文化をとても熱心に学んでいます。そして、その伝統音楽や舞踊の型をとりいれた現代の演劇などが素晴らしいんです。「深さが違う」んですね。自分たちの歴史と、今をつなげていると感じました。
歌舞伎のツケ打ちから音響の仕事まで
(梅澤)「なるほど。それで、帰国後に伝統芸能の世界に関わるようになられたんですね。」
(百合山さん)「そうです。日本に帰国してからは日本の伝統音楽を学ぶために歌舞伎のツケ打ちや、音響の仕事を始めました。デジタル技術の応用などもやっています。
舞踊テープ社は友人が過去に働いていた縁で紹介されて、日本舞踊の音楽、音響について学ばせていただいています。」
(梅澤)ご自身の自己探求の想いと、現在のお仕事、今回のプロジェクトがすべてつながっているんですね。ありがとうございます。最後に、プロジェクトにかける想いを改めてお願いします。
(百合山さん)「貴重な音源をデジタル化することは、過去の人々の蓄積、すなわち「伝統」を後世に残すことであり、また、変えてはいけない「想い」を同時に受け継ぐことで、伝統を活用して新しいものを作り出すこと、すなわち「伝承」につなげていきたいと思っています。」
(梅澤)「どうもありがとうございました!」
まとめ
数千曲の邦楽のオリジナル音源という、その数字と史料価値にも圧倒されますが、それを生み出し支えてきたのが、鈴木社長はじめとする演奏者の方々の「踊り手に寄り添う」という強い想いでした。
日本舞踊の音楽を、生演奏から今では当たり前となった録音データの活用に切り替える、という、当時としてはかなり挑戦的であっただろう試みを始められ、50年以上にわたって価値ある音源データの制作と、日本舞踊教室を裏方方支えてこられた歴史の重みに、私も日本舞踊に関わるに人間として背筋が伸びる思いがいたしました。
そして、それに出会い、それを後世に受け継ぎたいと思われ行動されている百合山さん。このプロジェクトの成功を願っています!
本プロジェクトの遂行にあたり、現在、クラウドファウンディングが行われています。プロジェクトに共感された方、ファウンディングにご興味がある方は、ぜひ下記サイトをチェックしてみてください.。
*2020年6月22日追記:クラウドファウンディングは「目標達成」で完了しています。
伝統を次の世代へ。伝統芸能の音をデジタルの力で守りたい(外部サイト:READYFOR)

