海外の人に日本舞踊の魅力を伝えるにはどうしたらいいですか?
俺の日本舞踊では読者のみなさんからお悩みやご質問を募集しています。この記事ではそのご質問に対する回答をお届けします。
【質問】
日本舞踊特有の着物を着た所作やジェスチャーを日本舞踊に関わりの少ない人や外国人に理解してもらうにはどのような方法があると思うか?
回答:稽古場という「箱」ごと輸出すべき
「日本舞踊特有の着物を着た所作やジェスチャー」を「理解」してもらうということは、単に「動きの意味がわかる」ということではなく、「その良さを味わえる」ということだと思います。
そう考えたときに、鑑賞者として「その良さを味わえる」インスタントな方法はないと考えています。
舞台芸術(エンターテイメント)としての日本舞踊をマス(多くの人々)へ広め定着させる試みは、国内でも海外でもずっと試みられてきましたが、成功していないといっていいでしょう。
事実として、多少なりとも文化的なバックグラウンドを共有してる日本人でさえ日本舞踊の理解者は少ないし、海外公演の取り組みもこれまでされてきたが、浸透し大きく広がりを見せることはありませんでした。
ここから考えられるのは、「日本舞踊の良さを短時間で理解できる人は少ない」→「日本舞踊の良さを理解するのには時間がかかる」という単純な事実なのではないでしょうか。
これは、すごくおおざっぱに言うと、動きがスローであるとか、抽象的であるとか、地味であることなどに起因していると私は考えています。伴奏音楽の言葉が難解であることも要因のひとつかもしれません。一言でいうと日本舞踊は「ハイコンテクスト」な芸術なのです。
ハイコンテクストとは・・・文化共有性が高く、言葉以外の表現への依存度が高いこと。表情や行間を読むことが求められ、特定の文化や歴史、知識を前提としていることが多い。
では、理解させる方法がないのかといえば、そんなことはありません。大きく、以下の三つがあると思います。
①意味を丁寧に説明すること
②身体的な快楽性
③稽古場という箱の輸出
一つずつ見ていきます。
①意味を丁寧に説明すること
言葉や所作の「意味を丁寧に説明すること」は想像しやすいと思います。一方で、日本人でさえ、これを徹底することは難しいです。ましてや、日本の歴史や文化的背景を共有していない海外の人にこれを説明する大変さは日本人の比ではありません。
②身体的な快楽性
「身体的な快楽性」は、単純に言うと、「日本舞踊的な身体運動をすること自体が心地よい」と感じてもらうこと。これには、実際に体を動かしてもらうことが第一です。快楽性についてはこちらの記事で詳しく述べました。
日本舞踊の動作と身体的快楽について。ダンスに関する先行研究から考える
その場合、そのような機会をどのように用意するかが課題となります。そこで出てくるのが三番目の提案です。
③稽古場という「箱」の輸出
「稽古場という『箱』の輸出」は、②の実現を解決する方法になりえると考えています。日本舞踊を舞台の上のパフォーマンスとしてではなく、日常の稽古も含めた活動全体で捉えてみてはどうでしょうか。習い事としての日本舞踊は舞台より稽古場がメインです。日本舞踊を楽しむ人の大部分は、舞台の上ではなく、生活の中にある日本舞踊、つまり稽古場での活動を楽しんでいます。生活の中に日本舞踊を溶け込ませ、自ら体を動かし、体感から日本舞踊の魅力を体得していくことが、実は、日本舞踊普及の王道だと私は思います。
つまり、日常生活の中にある稽古、そこでの体験や人間関係までまるごと輸出しなければ、日本舞踊の理解にはつながらないのではないでしょうか。

