長唄「菖蒲浴衣(あやめゆかた)」歌詞と解説
日本舞踊で人気の長唄「菖蒲浴衣」歌詞と解説です。
長唄「菖蒲浴衣(あやめゆかた)」解説
菖蒲浴衣とは?
菖蒲浴衣は、菖蒲柄の浴衣のこと。この曲は端午の節句や初夏の風物、川遊びの情景を綴った粋な雰囲気の一曲です。
菖蒲浴衣の内容と意味
夏を代表する長唄の一つ。安政6年(1859年)、伊十郎あらため五代目芳村伊三郎(伝馬町の伊三郎)の襲名披露公演で初演されました。
曲中、衣服にまつわる言葉がたくさんでてきます。「今日の晴れ着」「白襲(しろがさね)」「表は縹紫(縹・はなだ、藍染の色を表す)に、裏むらさきの朱奪ふ」などなど。一説には、浴衣の広告長唄であったからとも、襲名披露のスポンサーに呉服屋がついたから、とも言われています。
「五月雨や 傘につけたる小人形」とは、松尾芭蕉の弟子、晋子(しんし)の句で、五月雨が降るので五月人形の兜を傘に変えてある風情を詠んだものです。
「皐月の鏡の曇りなき 梛の二葉の床(ゆか)しさは」は、梛の葉を鏡の下に置いておくと曇りを払い、また諸々の不浄を取り去るという言い伝えから。
東部名所之内 隅田川八景 三圍暮雪 歌川広重
「青簾川風肌にしみじみと」からは隅田川の船遊びのシーン。「命と腕に堀切の」は、男女相思相愛の証に腕に命の刺青をするのと、「花あやめ」の名所「堀切」をかけています。
続いて、三味線の糸と「糸柳」、「縺れを結ぶ」とかけてあります。
一説によると伊十郎と反目しあっていた三絃(三味線に似た中国の民族楽器)の名手、二代目杵屋勝三郎とが和解し、この演奏で共演したということから、「縺れを結ぶ」とはこの和解のことを指すとも言われています。
長唄「菖蒲浴衣(あやめゆかた)」歌詞
五月雨や 傘につけたる小人形 晋子が吟もまのあたり 己が換名を市中の
四方の諸君へ売り弘む 拙き業を身に重き 飾り兜の面影うつす 皐月の鏡曇りなき
梛(なぎ)の二葉の床(ゆか)しさは 今日の晴着に風薫る 菖蒲浴衣の白襲(がさ)ね 表は縹紫(はなだむらさき)に
裏むらさきの朱奪ふ 紅もまた重ぬるとかや
それは端午の辻が花 五とこ紋のかげひなた 暑さに
つくる雲の峯 散らして果は筑波根の 遠山夕ぐれ茂り枝を 脱いで着替の染浴衣
古代模様のよしながき 御所染千弥忍ぶ摺り 小太夫鹿の子友禅の おぼろに船の
青簾(あおすだれ)川風肌にしみじみと 汗に濡れたる枕紙(まくらがみ)
鬢のほつれを簪の 届かぬ愚痴も好いた同士
命と腕に堀切の 水に色ある花あやめ
弾く三味線の糸柳 縺(もつ)れを結ぶ盃の 行末広の菖蒲酒 これ百薬の長なれや
めぐる盃数々も 酌めや酌め酌め尽きしなき 酒の泉の芳村と 栄ふる家こそ目出度けれ