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舞踊の需要減3つの背景「人口減少」「習い事の多様化」「ジェンダーロールの変化」

舞踊の需要減3つの背景「人口減少」「習い事の多様化」「ジェンダーロールの変化」

舞踊の需要が数十年続きで漸減しているのは明らかだろう。ではその背景には何があるのか。

 

ここでは「人口減少」「習い事の多様化」「ジェンダーロールの変化」の3つ観点から考えてみたい。

人口減少

総務省の「我が国における総人口の長期的推移」によると、日本の人口は2004年にピークの1億2,784万人を過ぎ、以降は下降の一途をたどっている。2030年には1億1,522万人(高齢化率31.8%))、2050年には9,515万人(高齢化率39.6%)と予測されており、2100年には5,000万人程度まで減少する見込みだ。

 

2100年というと、遠い未来のような気がするが、今年(2024年)に生まれた子どもが76歳になる年であり、その子の世代が30~40代と考えられる。私たちの孫世代の働き盛りには、いまの半分以下の人口になっている可能性が非常に高い。

 

国内においても、大都市圏以外では転出超過が続き、商圏の限られる日本舞踊教室は、特に地方部において人口減少の影響をかなり受けていると推測される。

参考:国土交通白書 2020(第1節 我が国を取り巻く環境変化■2 東京一極集中と地方への影響

習い事の多様化

6,70代の日本舞踊の先生に話を伺うと、昔は習い事の選択肢が少なかった、ということをよくおっしゃる。

 

逆に現代は習い事多様化の時代になっている。リクルートライフスタイルの廣田知子氏(当時)によると、「最近の習い事を象徴するキーワードは“多様化”と“細分化”」だという。

新しいジャンルの習い事が生まれているだけでなく、定番の習い事でも教え方(グループレッスン、マンツーマンレッスンなど)や対象(大人向け、子ども向けなど)が多様化し、選択肢が増えている。

参考:日経xwoman(多様化と細分化が進むイマドキ習い事。その理由は?)

これは筆者の肌感覚にはなるが、習い事の決め方として、親が「これを習いなさい」と決めるのではなく、子どもに複数の習い事を体験させ、好きなものを選ばせるというやり方も増えているようだ。

 

習い事の多様化によって、定番の習い事だけではなく、様々な選択肢があることは子どもにとって良いことだが、単純に考えて日本舞踊が選ばれる確率は低くなる。

ジェンダーロールの変化(「サラリーマンと専業主婦」のモデルの終わり)

日本舞踊は芸術としては「舞踊」「舞台芸術」などとカテゴライズされるが、社会的な役割としては、女性の教育、「花嫁修業」と位置付けられてきた。なぜ「花嫁修業」という習い事が成立したのか、様々な理由があるが、ここでは経済的な側面から考えてみよう。

 

年金の標準的な給付水準を示す「モデル年金」が、「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」の世帯のみで示されていることからもわかるように、家庭は「サラリーマンと専業主婦」によって構成されるということが戦後の「当たり前」とされてきた。

 

これは、男性が都市へ働きに出て家計を支え、女性が家庭を守る、という「女性が男性に経済的に依存する」というモデルであり、結婚においては「男性に選ばれる女性であることが重要」なモデルだということができるのではないだろうか。

 

男性に選ばれる女性であることが重要な社会において、女性が身につけるべきなのは学歴やキャリアより、「良い妻」「良い母」になるための家事能力や教養が重視されるのが当然だった。

 

しかし、男性が働き、女性が家庭を支えるというジェンダーロールは変化している。

引用:男女共同参画局(特-8図 共働き等世帯数の推移(妻が64歳以下の世帯

 

赤い線はいわゆる「専業主婦モデル」の家庭、緑が「共働き(妻がフルタイム)」、黄色が「共働き(妻がパートタイム)」だ。経済的な理由や、仕事を通じて自己実現したい女性の増加、また、それが実現できる制度や環境が整ってきたことなど背景には様々な要因があるが、戦後のジェンダーロールが変化していることは間違いない。

 

日本舞踊に話を戻すと、「花嫁修業」は、戦後のジェンダーロールにこそ必要とされたものだった。日本舞踊はその芸術性だけではなく、「所作やマナー」「しとやかさ」などを身につける教育的側面があり、特に女性がそれらを身に着ける最適な手段とされたことは自明でしょう。ジェンダーロールの変化によって日本舞踊の「花嫁修業」ニーズは終わりを迎えつつある。