日本舞踊の手習い曲として人気のある、長唄「お月さま」歌詞と解説です。
おめかしをする「姉さま」の様子を、だんだん満ちていくお月さまを織り交ぜて歌った、かわいらしい曲です。
「お月さまいくつ 十三七つ」で始まる、童謡をモチーフにしています。
長唄「お月さま」解説
月に満ちていくのに合わせた情景描写が美しい
詩の読み手は、小さな少女でしょうか。お月さまに「いくつ」と呼びかけたり、身だしなみを整える女性を「姉さま」と呼んでいます。この読み手の語りによってストーリーが進んでいきます。
「お月さまいくつ」、とお月さまに歳を尋ねますが、お月さまはずっと空にあるもので、歳はとりません。そのままで三日月になったり満月になったり、満ち欠けを繰り返します。
「月の初めの 三日月さまは まゆににたとよ」、三日月を、お姉さんの「細眉」のようだと言っていますね。実際に、三日月は細い眉を引いたように見えることから、別名「眉月(まゆづき)」とも呼ばれています。
やがて月が満ちてくると、半月となります。この形から、「櫛にもみえましょ」と髪をとく、櫛に重ねています。
「青柳の濡れていろます、洗い髪」ここはちょっと色っぽい雰囲気のように感じます。ツヤめく洗い髪を、青い葉をたたえた、みずみずしい柳にたとえたのでしょうか。
そして、紅おしろいをつけた姿を映している、まん丸の鏡は十五夜の満月のようです。
「お月さまいくつ 十三七つ」の謎!?
歌詞の冒頭の、「お月さまいくつ 十三七つ まだとしゃわかいな」って、なんだかよく意味が分かりませんね。これは、この歌の下敷きになっている、「お月さまいくつ 十三七つ」で始まる童謡から引用されています。
実はこの歌詞の意味は、今でもよくわかっていません。ここではいくつかの説をご紹介します。ちょっと難しいかもですが、興味のある人は読んでみてください。
まず、元の童謡「お月さんいくつ」の歌詞を引用します。「お月さん」と「子守の少女」がお互いに話している、というストーリーです。
お月さんいくつ 十三七つ
まだ年ァ若いね あの子を生んで
この子を生んで 誰に抱かしょ
お万に抱かしょ お万どこへ行た
油買いに茶買いに
油屋の前で すべってころんで 油一升こぼした
その油どうした 太郎どんの犬と
次郎どんの犬と みな舐めてしまった
その犬どうした 太鼓に張って
鼓に張って
こっち向いちゃドソドコドン
あっち向いちゃドンドコドン
たたきつぶしてしまった(代表的な歌詞を掲載)
「油買いに」以降は、「しりとり歌」というわらべ歌、童謡によくある形式で、連想ゲームのようにおもしろおかしくストーリーをつなげているだけであり、ここに関して、深い意味はおそらくありません。地方によってはまったく別の歌詞になっているところもあります。
解釈が分かれるのは、まさに冒頭の「十三七つ」の部分。お月さまと少女の問答形式になっています。
少女がお月様に歳を尋ねて、そのあとは赤ん坊の子守を誰がやる?と押し問答になっている様子です。
お月さんいくつ 十三七つ
まだ年ァ若いね あの子を生んで
この子を生んで 誰に抱かしょ
お万に抱かしょ
(1)十三+七つ=二十歳で、二十歳で子どもを生んだ、という説。
(ただし、昔の感覚からすると二十歳で子どもを産むのは特別に若いというわけではなく、初産ならむしろ遅い)
(2)十三夜の暁七ツ時(午前4時)のことで、満月(十五夜)にはまだ若い、という説。
(ただし、そのあとの『あの子を産んで~』への意味のつながりは不明)
(3)十三+一つ=十四夜のことを指しており、十四夜は別名、「小望月(望月=満月の手前)」「子持ち月」と言われるため、十四歳という若年で、子どもを産んだという意味とする説。伝承の過程で意味が見失われ「一つ」が語呂の良い「七つ」に変化した。
このほかにも説はあるようですが、ここでは割愛します。
民謡やわらべ歌には、伝承の過程で歌詞の意味をなさなくなったものも数多くあり、本来の意味は想像することしかできません。
長唄「お月さま」に関しては、冒頭の歌詞の意味にはそれほどこだわらず、全国に知られる童謡をきっかけに創作した、という程度に考え、歌詞の印象通りに、意味を捉えてよいと思います。
作品情報
作曲者 | 吉住 小三郎 |
作詞者 | 中内 蝶二 |
発表 | 大正7年(1918年)? |
長唄「お月さま」歌詞
お月さまいくつ
十三七つ
まだとしゃわかいな
いつも、としをとらないで
三日月になったり
まんまるになったり
月の初めの 三日月さまは
まゆににたとよ 姉さまの
えがおににおう ほそまゆに
櫛にも見えましょ
青柳の 濡れていろます 洗い髪
おしろいつけて べにつけて
すがたくずさぬ みだしなみ
うつす鏡はまんまるな
あれ十五夜の
お月さま