長唄「宝船(長き夜)」歌詞と解説
長唄「宝船(長き夜)」の歌詞と解説です。
長唄「宝船」は、七福神が金銀財宝とともに乗っているという「宝船」を題材に、神様の廓遊びという趣向を加えたユーモラスな一曲です。
長唄「宝船(長き夜)」解説
曲の構成
枕の下に敷いて寝ると、よい初夢が見られるという、有名な回文(上から読んでも下から読んでも同じになる)が歌詞の冒頭と締めに使われており、間には七福神の廓遊びがユーモラスな描写で描かれます。
縁起のいい初夢を見たい!「宝船売り」が大活躍
宝船売りが売っていた「宝船」
正月二日の初夢に、なんとかして縁起の良い夢を見たい江戸っ子たちの間で流行ったのが、「宝船売り」が売り歩く「宝船」の絵。絵には、金銀財宝を積んだ宝船に七福神が描かれ、次の回文が添えられています。
「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」
→「長き夜の 遠の眠(ねぶ)りの 皆目覚め 浪(なみ)乗り船の 音のよき哉」
これを枕に敷いて寝ると、良い初夢が見られるということで、江戸っ子に知られた存在でした。
「七福神」って誰がいた?ご利益は?
七福神の名前とご利益をまとめました。
名前 | ご利益 |
大黒天(だいこくてん) |
食物豊作(しょくもつほうさく)
五穀豊穣(ごこくほうじょう) |
毘沙門天(びしゃもんてん) |
勝負運
金運上昇 心願成就(しんがんじょうじゅ) |
恵比寿天(えびすてん) |
大漁追福(たいりょうついふく)
五穀豊穣(ごこくほうじょう) 商売繁盛 |
寿老人(じゅろうじん) |
延命長寿
身体健全 病気平癒(びょうきへいゆ) |
福禄寿(ふくろくじゅ) |
延命長寿
財運招福 子孫繁栄 |
弁財天(べんざいてん) |
諸芸上達(しょげいじょうたつ)
財運上昇 |
布袋尊(ほていそん) |
家庭円満
子宝祈願 無病息災 |
なお、同じ長唄に「七福神」という演目がありますが、こちらは恵比寿しか登場しません。
なお、この曲では「七福神」という神様を、廓遊び仕立てにしてしまっていますが、当時としては何かと、このように廓にかこつけるのが流行っており、特に不謹慎、神の冒涜などと捉えられることもなく、しゃれた趣向、と歓迎されていたようです。
歌詞の意味
「長き夜の・・・」と、回文の上の句から始まります。続いて「恵方にあたる弁天の笑顔に見とれて」とあります。「恵方」は、今では「恵方巻き」という言葉で、すっかりおなじみとなりました。
昔は、その年の干支に応じて、陰陽師により歳神様のいる吉方(恵方)が説かれ、その方向の神社仏閣へお詣りするということが行われていました。
美しい弁天様に見とれる神様たち
この曲が作られた年の恵方に当たる位置に弁財天があったのでしょうか。七福神唯一の女性の神である弁財天様を吉原の花魁になぞらえ、その美しい笑顔に見とれた、と言っています。
弁天様を巡って恋争い?毘沙門天、布袋、大黒、恵比寿様が次々登場
茶屋の床机に根が生えたように居座っている毘沙門天が弁天様にからんでいると、そこへのっさのさと割って入ってきたのは布袋様。二人に遅れを取ってはならん、と大黒様と恵比寿様もやってきました。
取り巻きを従えて、「お大尽」福禄寿様が仲裁?
「恋争いは吉原の派手な大尽福禄寿」ここでは、「恋争いはよしなさい」と「吉原」がかかっています。派手な格好をして現れたお大尽(大富豪、吉原などで大金を使い遊ぶ人)は福禄寿様です。「幇間末社(たいこまっしゃ)の大一座」とは、幇間持ちなど、座を盛り上げる取り巻きが大勢いることを意味します。
「三日は客のきそはじめ」ここは、正月三日に、廓に客が来始めることと、正月に新しい着物を着る「着初め(きぞめ)の儀式」にかけています。
最後に禿を従えた寿老人がやってきて、全員集合
最後に登場するのは、「髭の意休と見たるは心優しき寿老人」。
「髭の意休(ひげのいきゅう)」というのは、歌舞伎の「助六」に登場する人物なのですが、外見が寿老人に似ているのでそれに見立てられています。
「鹿の縫」とは、鹿の子染めのことだと思われます。鹿の子染めは、「絞り染め」という、技法を使っていますが、別名を「縫い染め」とも言います。子供の着物の定番が鹿の子なので、その着物の柄と、寿老人が連れている神使の鹿を、うまくかけています。
賑やかに廓に繰り出していくクライマックス
「みなさざめきていさましく 廓の門に入海は」賑やかに連れだって、廓へ入っていく様子を舟でたとえ、曲のしめくくり、回文の下の句である「波乗り船の音の良きかな」へと繋げます。
曲のなりたち
江戸の芝居小屋「河原崎屋」の脇狂言として用いられていました。
脇狂言とは、江戸の芝居小屋で開演前に演じられた舞踊曲です。市村座が「七福神」、森田座が「甲子待」(きのえねまち)など、芝居小屋ごとにオリジナルの演目がありました。
作品情報
作曲者 | 四代目・杵屋六三郎(推定) |
初演情報 | 初演年月 文政、天保のころ(1818~1844年ごろ) 劇場 河原崎座 |
本名題 | 宝船 |
大道具 | 初夢の宝船などを描いた衝立形式の装置 |
小道具 | 扇子(宝船) |
衣装 | 好みのもの |
長唄「宝船(長き夜)」歌詞
長き世の 遠の眠りの皆目ざめ
恵方に当たる弁天の 笑顔に見とれていつまでか
茶屋が床机に 根が生え抜きの
毘沙門さんのじゃらつきを 見兼ねて布袋がのっさのさ
そうはならぬと 押し合う中へ 連れ立ついさみの大黒 恵比寿
これはたまらぬ こりゃどうぢゃ
恋争いは吉原の 派手な大尽 福禄寿
抑々廓の全盛は 幇間末社の大一座
三日は客のきそ始め
こなたに髭の意休と見たるは 心やさしき寿老人
袖に禿が鹿の縫 これも仕着せの伊達模様
皆さざめきて勇ましく 廓のうちへ入海は
波乗り船の音の良きかな

