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「伝統芸能とキャリア」講演@三木会レポート

「伝統芸能とキャリア」講演@三木会レポート

2023年12月21日(木)、東京スクエアガーデン(東京都中央区)で行われた三木会にて「伝統芸能とキャリア」について講演してきました。

三木会は、中央区議の田中耕太郎さんがボランティアで主宰している勉強会で、主に田中さんの出身である明治大学雄弁部の学生の皆さんに向け、様々な社会人の方が講演をしているものです。
私の特殊な(?)キャリアが目を引いたのか「学生にキャリアについてお話を」とお声掛けいただきました。

田中さんは、以前、「日本舞踊とコミュニティ」について鼎談の機会をいただいた佐藤敦子さんからご紹介いただきました。田中さんが中央区議を務められている関係から、中央区で活動している若柳尚雄里(わかやぎなおゆり)さんとともに、日本舞踊で地域貢献ができないか、アドバスをいただいたことがあります。また、同窓生(私が一橋大学の学部卒、田中さんが一橋大学院)という縁もあります。

伝統芸能からキャリアの多様性について考えてほしい


東京スクエアガーデン(引用:東京建物株式会社)

この話をいただいたときから、尚雄里さんと二人で講師を務めることを考えていました。

尚雄里さんはお父様が水木雄一郎先生という日本舞踊家。幼いころから芸能を志し、お父様が若くしてお亡くなりになった直後、家族を支えるために1年だけお稽古を休まれたほかは、ずっと日本舞踊の稽古を続け、この道に邁進してこられた方です。現在は50名以上のお弟子さんに囲まれ、伝統芸能のプロダクションも経営されています。英語やカウンセラーや家族療法の資格も取得されている勉強家でもいらっしゃいます。

片や私は、大学を出て、一部上場企業等を経て起業(というとカッコイイですが実際はいろいろありました)して、日本舞踊の仕事をしています。中央区では一緒に仕事もさせていただいています。

私は、対照的な2人のキャリアを見せることで、伝統芸能の仕事に多様なキャリアがあり、そこからご自身のキャリアについても考えるきっかけにしてもらいたかったのです。

講演内容

講演は、「日本舞踊とは何か」「尚雄里さんのキャリア」「梅澤のキャリア」「伝統芸能のキャリアの多様性」という構成で進めました。

「日本舞踊とは何か」では、動画を見ていただきながら日本舞踊の特徴を解説しました。明治大学の学生さんが多いということで、体の使い方については、明治大学教授の斎藤孝先生の身体論の著作からも引用し、日本舞踊の基本スタンスと体にとって望ましいスタンスがとても似ていることをお話ししました。


「伝統芸能のキャリアの多様性」では、伝統芸能に関わる人たちを類型化し整理することで、ステレオタイプ的にしか認識されていない伝統芸能の仕事の実際について知ってもらいました。

キャリア形成のパターンとして、「ひとすじタイプ」「パラレルタイプ・UIターンタイプ」、そしてキャリアの種類として「ステージプロ」「レッスンプロ」「プロ支援」さらにそれを専業と兼業にわけて整理しました。

 

「ひとすじタイプ」がいわゆる伝統芸能のステレオタイプで、経験知・暗黙知が豊富で業界内ネットワークに強い長所がある反面、慣習にとらわれやすい、キャリアチェンジしにくいという短所があります。

「パラレルタイプ・UIターンタイプ」は、経済的安定や異業界のネットワーク形成という長所がありますが、経験知・暗黙知が不足し、業界内ネットワークに弱いという短所もあります。

これに当てはめると尚雄里さんは個人としては「ひとすじタイプ」、専業の「ステージプロ&レッスンプロ」となります。尚雄里さんの経営する会社(プロダクション)は、「プロ支援」です。私の場合は、「UIタイプ」の「プロ支援」です。

個人的に、これからは「ひとすじタイプ」の経験や技術をうまく「パラレルタイプ・UIターンタイプ」が学べる仕組みを作って多様なキャリアを認め、「パラレルタイプ・UIターンタイプ」も、長所を生かし、前向きに業界慣習を改革していくことで、業界全体が活性化していくのではないかと思います。

大学生の反応

大学生の皆様には思いのほか、多くの質問や関心をお寄せいただきました。質問の一例を紹介します。

・流派はたくさんあるのか?
・日本舞踊流派や教室支援というビジネスアイデアをどうやったら思いつくのか?
・プロの舞い手は舞踊の稽古だけするのか?それ以外、例えば神事のことなども勉強するのか?
・外国人の人には人気なのか?
・パフォーマンスに初音ミクを取り入れることなど、保守的な人から反発はないのか?
・舞踊人口の増加とカジュアル化はセットだと思うが、その場合の同一性の維持についてどう考えるか?
・スポーツとして訴求する選択肢はあるのか?
・日本舞踊と関係がないところから業界に入ってくる人のための、養成機関のようなものがあるのか?弟子入りなのか?
・踊ること、表現することで心が落ち着くというような実体験のエピソードはありますか?

みなさんならどうお答えになりますか?

私としては、日本舞踊そのものにどこまで興味を持ってもらえるか、正直未知数だったのですが(なのでキャリアと絡めた話を厚めにしました)、思った以上に日本舞踊そのものに興味を持ってもらえたようで嬉しかったです。
懇親会でも様々に意見交換ができ、楽しい時間でした。

彼らはがこれから取り組むであろう就職活動では、一貫したキャリアプランを求められたり、また、作らなければならないというプレッシャーを受けると思います。しかし現実にはキャリアプランは柔軟に変わっていくもので、多様なキャリアが存在します。今回の話が、これから学生さんが直面するキャリアの課題の少しでも参考になればいいなと思います。

そして、5年後、10年後、キャリアプランの見直しや、キャリアチェンジを考えたときに、「これまでの経験を生かして伝統芸能の世界で活躍できるかもしれない」と選択肢の一つとして思い出してくれたら嬉しいです。